第83話・条件、飲むか飲まないか
「私を副町長にしないか?」
あ。予想通り。
「む、無論、君の方針に従う。私の町長経歴は長い。若い君の役に立てる!」
「貴様! 俺様を差し置いて……!」
「ど、どうだね? 私を活かしてみる気は……」
「ありませんね」
ぼくは起き上がらず答える。
「さすがに若くて経験の浅い私でもわかりますよ。副町長という立場から少しずつ切り崩して行って町を乗っ取ろうって考えでしょう? グランディールには優秀で私の考えを実行して行ってくれる
「クレー町長!」
デスポタの声はひっくり返っていた。
ぼくが断るとは思ってなかったのか?
グランディールで町長の座に返り咲き、Aランク以上の町長になろうと思ってたんだろうけど、アパルやサージュじゃなくても気付くよその猿芝居。
「ああ、優秀な
ましてや人を拉致監禁しといてその被害者に採用を望むなんて、どうかしている。
「わ、私の知識は役に……」
「あなたが町の役に立つというなら、食堂の下働きをしてください。一生下働きで。それならばグランディールに入れましょう」
黙り込んでしまったデスポタに代わって、今度はピーラーが叫んでくる。
「デザイナーを! デザイナーを譲ってくれれば何でもやる! 金でも、名誉でも、俺様に与えられるものならば、何でもだ! グランディールにとっても悪い話じゃないだろう! 芸術の町メァーナス一番の俳優の勧める町という!」
「何でもやるんですか?」
「ああ!」
「ならば、これからメァーナスの町へ行き、自分は新しい町のデザイナーが欲しかったので、その町長の頭を殴って拉致監禁し脅しましたと触れて回ってください」
「…………!」
ピーラーの顔色は赤かな、青かな、紫かな、それとも白かな。
ピーラーはスキル「演技」を持っていると聞いた。それを使えばまた話は違っただろうに、ぼくみたいな小僧に「演技」しても無意味だと思ったんだろうなあ。残念だけど、例えあんたが「演技」してきても、町長の仮面は見抜けるんだよ。
「以上がこちらの条件です。飲めないんなら起こさないでください」
「じょ、条件を飲めないなら一生そこから出られないぞ!」
「こちらの条件は言ったでしょう? それを飲めばお二人の望みは叶えますよ?」
「しょ、食堂の下働きなど……!」
「お、俺様の評判を落とすような真似を……!」
「どちらも自業自得でしょう?」
目を閉じ、あっさりと返す。
「私も頭を殴られて閉じ込められるなんて目に遭っているんですから、譲歩はしませんよ。町長の経験もいらない、金も名誉も、それはこれから町が積み重ねていくものですから不要。お二人の交渉は、最初から成り立っていないんです」
あーあ、と手をひらひらさせる。
「猿芝居なら猿芝居らしく見ていて面白いものにしてくださいよ。ジョークとしても最低だ。町長や一流俳優のものではありませんよ」
「きさっ」
ごつっ。
鈍い音が聞こえた。
ピーラーの言葉が途絶える。
「な、何故ここが! 何故我々がここにいると!」
あとは言葉になっていない叫び声。そして、暗闇が暗幕を開いた時のように一気に光に溢れた。
「町長!」
「大丈夫っすか、頭は?!」
アレとリューが、心配そうな顔で覗き込んでいる。
「結構思いっきり殴られたんでまだ痛い」
「クッソ、サージュ、こいつの顔面殴っていいか? うちの町長の頭殴ったんだから、こいつは顔を殴らないとおかしいだろう」
アレがひっくり返っているピーラーを蹴飛ばしながら言った。これは、既に一発ぶん殴られてるな。あの鈍い音はピーラーの頭を殴った音か。
「気持ちは分かるが落ち着け」
デスポタをぐるぐる巻きにしながらサージュが返す。
「あんまり殴り過ぎるとこっちが悪いってことになる」
「サージュ……気付いてくれたんだ」
「そりゃ、アレとリューが戻ってきて、ピーラーとデスポタが町長の頭殴って連れて逃げたなんて言われたらな、気付くし本気も出す」
ピーラーも縛り上げてその背中を軽く蹴る。
「アレとリューの心配は、ピーラーやデスポタに付いているだろう取り巻きだったんでな、それを確認するまで出てこれなかった。酷い目に遭わせてしまったな。すまん」
もう一人、小柄な女がこちらもぐるぐる巻きにされている。これが移動役か。
「いいや閉じ込められただけだったし。で、取り巻きがいない理由は分かった?」
「ああ、吐かせたのか。そうだ、デスポタの方は町に聞いたらこちらとはデスポタは無関係だから好きにしてくれとファヤンスの言葉だし、ピーラーはベッドを送るという名目で取り巻きのほとんどを送り出してこの機会を狙っていた。……どうして俺かアパルを連れて行かなかった。そうすればこんなことにはならなかったのに」
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