第81話・町長を舐めるな!
「三流だと?!
デスポタが完全に頭に来ている。
「人の町から人を奪わなければ町にもならない小童が!」
「その小童に人を奪われたのはどなたです?」
「なんだとぉ!」
「それに、こちらは何も悪いことをしていません。そちらが引き渡す町民の重量分の陶土を引き渡す。印を押した契約も交わした。それの何処が問題です?」
「町民をごっそり持って行った!」
「何処に契約違反が?」
「町の大多数を持って行っていいとは書いていない!」
「私の記憶が確かなら、契約書には、自分の意思で町を出たいという町民を受け取る、というものでしたが? そしてこちらは町民の受取書を渡し、お約束の陶土もお渡しした。ファヤンスにいたくない町民がそんなにたくさんいたというのに、
たっぷり、沈黙。
多分、激怒状態だな。怒りが暴走して頭が飛んで、何と言えば自分の感情を表現できるのか悩んでいる。
「坊主、貴様が素直にデザイナーを差し出さなかったのが悪い。今からでも遅くない、貴様の町のデザイナーを俺様に寄越せば、此処から出してやる」
「無駄だと思いますけどね」
「無駄じゃない。貴様らは金を得る。俺様は素晴らしい専属デザイナーを得る。問題は……」
「うちのデザイナーははっきり言いましたよ。金持ち一人の好みしか作れない専属デザイナーなんてお断りだって」
またも、沈黙。
多分、いつも注目されている俳優だから、ここまできっぱり断られるとは思わなかったんだろう。
あと、「小童」「坊主」扱いしてることから、誰も味方がいない状況で脅せば町民もデザイナーも簡単に手に入ると思っていたんだろう。
「小童、ファヤンスを戻せ! でないと貴様をこの場で殺すぞ!」
「……甘く見られたものだ」
確かにぼくは若いというか幼い。見た目が幼いので、なおさら舐められる。そのための無表情、そのためのアパルやサージュ。
でも、若かろうが幼かろうが、百人以上の町民の上に立つ町長だ。
「私が守らなければならないのは私自身ではない。町民だ」
盗賊やってたことがばれたら大変なことになる人たちから、ファヤンスから逃げてきた人まで、守る責任が町長にあるんだ!
「自分の益しか考えてない
「な?!」
「町長を舐めるな!」
叫んだ瞬間、頭痛が吹っ飛んだ。頭のネジが切れたのかもしれないけど、そのままの勢いで怒鳴り続ける!
「私も遊びでグランディールのトップ立ってるわけじゃない! 町の全責任背負ってる! そちらが欲しがってる町民もデザイナーも、ぼくが守らなきゃならない存在!」
「…………!」
一瞬引いた二人の声に、ぼくは怒鳴り声で畳みかける!
「若年で頼りないかもしれないけど、それでも百人以上の責任背負ってるんだ。陶土に目ェ取られて町民の信頼失ってることに気付かなかったヤツなんぞに、町の人の誰一人として渡してやるもんか!」
言葉遣いも戻ってしまっているけど、もうぼく自身も言葉を止められない。この先どう言うことになろうとも、言いたいことを言ってしまわなければいけない。この二人に何も響かなくても、だ。
「小童ぁぁ……!」
「あと、ピーラーもな!」
「なっ」
「金と暴力と権力で何でも手に入る訳じゃないぞ! 特に彼系の人間は、仲良くならなきゃ手ェ貸そうともしないタイプ。その時点であんたはアウトなんだよ、アウト!」
「! ガキぃ!」
「殴るか? もう一発殴るか? 構わないけどこの世界にあんたらは入ってこられないんだろう? 見て声を届けるだけ、違うか?」
再び、沈黙。
「……町長として町民を守るというのか、青二才」
デスポタの不気味なほど落ち着いた声。
「町長の仕事とはそういうものだろう? 少なくともぼくはそう思っている。ある反面教師を見て育ったからね」
「私が反面教師だとでもいうのか!」
「ぼくはファヤンスの生まれじゃない。だから反面教師にしたのは違う町長だけど、そうだね、反面教師の自覚があるんなら、言動を改めたら?」
ギシ……と不吉な音が聞こえた。歯ぎしりってこんな音なのか。へえ。
「小童が……!」
「クソガキ……!」
完璧に頭のてっぺんにまで血が上ったな。
「殺したいかい? でもぼくを殺すわけにはいかないんだよねえ」
笑い含みに言ってやる。
「町長を殺して町を併合することはタブーの中のタブー。それを認めたら、町長同士の殺し合いが始まるから。仮にそれが成ったとしても、殺した本人や殺すように命令した町長に罰が下る」
「ぐ……」
「町からの人民引き抜きもだ。基本的に別の町へ町民が移住する場合、元の町の町長が生きて許可を出さなければならない。……デスポタ町長は陶土に夢中でリストを調べもせずにサインと印をしたけれど。つまりデザイナーを引き抜くにはぼくを脅して契約書にサインをしなければならない。だけど、ぼくがサインすると思う? 無駄だよ、ぼくはそんなに親切じゃない」
「なら! 一生! そこに! 閉じ込めるぞ!」
「構わない」
相手はぼくの声色も表情も変わっていないのを悟っているだろう。
「ここにぼくがいる限り、町民の連れ戻しもデザイナーの引き抜きも出来ないってことは分かってるから」
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