第79話・拉致監禁
……痛い。
意識を取り戻して見れば、後ろ頭のズキズキと、気持ち悪い沼に引きずり込まれるような感覚。
異常事態。
一体、何が……。
落ち付け。
頭が痛いのは辛いけど、今は状況を把握しなきゃ。
アレとリューと一緒に町を降りて、ヴァローレの気がかりの元を探しに行って。
そして、後頭部に強い衝撃を感じた。
リューが目を見開いて、「町長危ない」と言っていた。つまり、後ろから誰かがぼくをぶん殴ったってことか。
そして、今の状況……。
ズキズキに耐えて、薄目を開ける。
真っ暗い場所。何処だろう。少なくとも場所はあそこから移動されている。
人の気配はない。
だけど、誰かが……。
誰かがこっちを見ている感覚。
まだ動かないほうがいい。まだ気を失ったままだと思わせたほうがいい。
後ろ頭がズキズキと痛むけど……。
痛い素振りを見せてはいけない。心の中で町長の仮面をつけて、気絶していると思わせる。
アレとリューの気配もない。上手く逃げたか、捕まって別の場所にいるのか。
一番理想的なパターンは、逃げたにしろ捕まったにしろ二人が同じ場所にいること。「場所特定」と「移動」があれば例え何処であっても逃げ出してぼくの居場所を特定して逃げられる。
最悪のパターンは……三人とも捕まって、別々の場所に囚われてるってとこだな。
その場合、グランディールからの助けを待たなければならなくなる。
町を出る時にアナイナに事情を話せたのは良かった。心配性のアナイナなら帰りが遅いと思ったらすぐにでも会議堂にすっ飛んでいく。そうすれば捜索隊が出るだろう。元ファヤンス町民の中にも探索系のスキルの持ち主はいた。ヴァリエと話したのは三日前、「追跡」は効くだろうか。
とにかく、現状を把握しなければ。
今転がされているのは木の板か? 土の上か? 石か?
……どれでもない。
とすると、誰かのスキルが関わっている?
スキルで閉じ込められたんだったら話がもっとややこしくなる。スキルを「合わせ」るのではなく「ねじ伏せ」るのはそれこそレベル勝負になる。
とにかく、今のぼくに出来るのは時間稼ぎだ。
気絶したままなんだ。本当は痛くて頭抱えて転げ回りたいけれど、町長の仮面は弱みを外へ出さない。傍から見れば気絶して起きないように見えるだろう。
「……まだ起きないのか」
声。
だけど、人の気配はない。
「まさか殺したんじゃなかろうな」
「まさか。怨みがあるとはいえ」
うっわ。
ヤバい、ヤバい、ヤバーい!
この声……二つとも聞き覚えがあるっていうか!
ピーラーと、デスポタだろ!
嫌な予感爆当たり! 二人、組んでた!
ピーラーの依頼を蹴ったのが二週間前。ファヤンスから町民をごっそり持ってったのはつい先日。その短い時間で、手を組んだってのか。
デスポタはともかくとして、ピーラーのヤツ、なんて粘着質。
となると、ぼくを無事で出すつもりは……ないな。
ピーラーはシエラを手に入れたがっている。デスポタは町民を戻したい。その両方を邪魔する最高責任者……ぼくを人質に取った。
となると、まずはグランディールの場所を聞き出そうとするだろうな。
アレとリューはアパルの「法律」で縛られているから、ぼくの許可なく町の場所を吐くことは出来ない。
二人に試したか……? まさか拷問なんて……いや人の頭殴って拉致監禁する人間が拷問しないなんて保証はない。
アレ……リュー……無事でいてくれよ……!
「チッ。水でもぶっかけろ」
「それはダメだ」
デスポタが止める声。
「私のスキル「閉じ込め」は、閉じ込めるだけなんだ。人間を閉じ込められるが、それ以外の要素を入れることができない」
「役立たずなスキルだな」
「そのスキルのおかげで逃げ出せも見つけも出来ないようにしているんだろうが! 感謝しろ!」
「ふん、成人間もない町長にしてやられて町民をごっそり持ってかれたヘボ町長が」
「何?!」
「言えた立場じゃないだろうが!」
よーしよし、仲間割れしろ仲間割れしてくれ。
それだけこっちが動きやすくなる。
気絶してる(ように見える)ぼくの扱いをどうするかで、二人は揉める揉める。
「金を出せば何でも手に入るわけではないぞ!」
「そうだな、土で町民持ってかれた町長が言うと含蓄深い」
「デザイナーを引っ張り出そうとしてきっぱり断られた俳優もな」
喧嘩までおっぱじまったぞ。互いの悪口の言い合い。おうおう、やってくれやってくれ。
「二人逃がしたくせに!」
「三人捕まえたとしても私のスキルでは一人しか閉じ込められないのだ! こういう時に役立つスキルすら持たずに偉そうな口を叩くな!」
アレと、リューは、逃げた?
よっしゃ!
希望が出てきた。アレとリューは、自分たちで助けに来ようとせず、町に一旦戻るだろう。自分たちだけではどうにもならない時に意地を張って何とかしようとする二人じゃない。
それに、逃げる時、ピーラーかデスポタどっちかの顔を二人が見ていたら、「感知」でぼくを探せる可能性が高まる。
あ~それにしても頭痛い。町長の仮面を被っていなければ頭抱えてもんどりうってるところだよ。町長の仮面ありがとう。町長らしい振る舞いが出来るスキルありがとう。気絶してるように見せかけてるだけだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます