第78話・ヴァローレの気がかりが気になる
でも、気になるなあ。
あのヴァローレがあそこまで気にしていた……本人は解決済みと言っているけれど、それでも町一番の「鑑定」使いが気にすることだ、町長としては放置できない。
とはいえ、ぼく一人じゃ何にもできないし……。
グランディール町長と呼ばれ、ある町では敵視され、ある町では警戒されているその正体は、「まちづくり」のスキルがなければ何もできない十五歳。シエルやクイネのようなスキルとは別の才能は……多分、ない。
ああ~このもやもやを抱えて湯処や食堂に行けない~!
うろうろと門の辺りを歩き回っていると、ぽん、と後ろから肩を叩かれた。
「アレ? リュー?」
旅姿から着替えてもいない二人が、真剣な顔で立っていた。
「やっぱ気になるんすね、ヴァローレの気がかり」
「きみらも?」
「当然だろ。あのヴァローレが気にしたことで外れたことはほとんどないんだ。本人は珍しく疲労でそれ以上の追及を諦めたようだけど、あいつと長いこと一緒に行動してた人間としては、ちょっとな」
アレが眉間にしわを寄せている。
「あいつのスキル以上に、あの勘でヤバイことから逃げられたことも多いんすよ。そんな俺たちがあいつのあの発言を見過ごせるはずないっす」
リューが熱弁する。
「……確認したほうがいい、ってことか?」
うん、と二人が頷く。
「スキルは様々っす。スキルで出来ないことはないとも言われてるっす、俺のように居場所を特定できるスキルもあれば、アレのように長距離を一瞬で移動するスキルもあるっす。特に俺みたいなスキルでレベルが高かったりしたら、空の上にあるグランディールに気付く可能性もあるっす」
「そしてこの町を手に入れようと画策する、か」
頭が痛い。
本当はヴァローレについてきてもらいたいけど、あの疲れ様だと連れていくのは難しそうだ。
とはいえ、ぼくら三人だけと言うのも厳しいよなあ……。
「不安なら、サージュに頼んでみるっすか?」
リューが、ぼくの顔色を見たんだろう、こう提案してきた。
サージュかあ……。
確かに、この町では一番スキル学に詳しくて、「知識」で正しい知識を手に入れられるサージュなら、付いてきてもらうにはもってこいだ。
でも……。
「……ぼくら結構、サージュに頼ってるよな」
「……そうっすね」
「町の運営とか、動向とか、結構任せてるよな」
「……ぼくらだけで、調べられることを調べてみよう。アレがいるんだから誰かと出っくわしてもすぐ逃げられる。それに、行くのはこの真下だけ。そう危険もないだろう」
「っすね」
「じゃあ、行こうか」
「お兄ちゃん、どこ行くの?」
「アナイナ」
ぼくが戻ったのになかなか家に帰らなかったから心配したんだろう、アナイナがすぐ傍まで来ていた。
「ちょっと下に降りて来るよ」
「ええ? なんで?」
「ヴァローレが気になることがあるって言ってたから、その確認に」
「ヴァローレが?」
アナイナは小首を傾げている。
「うーん……確かにヴァローレの気がかりは気になるよね……でもこの三人じゃ危なくない?」
「おまえはついてくるんじゃないぞ」
ちょっと厳しい言い方だと思ったけど、ここで念を押しておかなければあとで困ったことになる。
「それは分かってる。まだわたし十五じゃないから、スキルも何にもないことくらい分かってる」
「ならいいけど」
「でも、お兄ちゃんたち三人でも危なくない?」
「大丈夫、アレがいるから。すぐ逃げられる」
「ん~……」
アナイナは心配そうな顔をしていたけど、最後に頷いた。
「分かった。危なかったらすぐ戻ってくるのよ?」
「分かってるって。心配するな」
「行ってくるっす」
「アレ、リュー、お兄ちゃんに何かあったら、命賭けてでもお兄ちゃんを逃がすのよ?」
おい、物騒なこと言うんじゃない。
「分かってるっす。全力賭けてでも町長は逃がすっす!」
リューも乗るなそこで!
◇ ◇ ◇
と、言うわけで、下降門で降りてきたわけだけど。
門を消して、辺りを見回す。
「ここだよね、「移動」して到着したの」
「間違いないっす。ほら、あそこ、
荷馬車が到着して、ほとんど動かず上昇門に入ったから、
「で、ここで、ヴァローレがスキルの気配を感知した、んだな?」
「そうっす、でも相手はこの距離はカバーできないらしいって言ってたっす」
「なのにヴァローレが気にかけていた」
「それが引っ掛かるんだよな……。ヴァローレは確信のないことは口にしない。つまり、何かが追っかけてきている気配を掴んでいたんだ」
「方角は掴んでる可能性はある?」
「そこから真っ直ぐに移動すればここにはたどり着ける。でも……距離は半端ないぞ、移動関連のスキルがないと数か月がかりの旅になる」
んー……グランディール、しばらくはここらへんでいいと思ってたけど、移動させたほうがいいかなあ?
その時。
「町長、あぶなっ……!」
ごっ。
後頭部に衝撃を感じて、ぼくは意識を失った。
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