第77話・急いで帰ろう

 取引で得たお金と、次の注文を受け取って荷馬車へ戻る。待っていた三人は緊張と安心の入り混じった微妙な顔で出迎えてくれた。


「近づいたり、何かしようとした人は?」


「いないっす。時々ヴァローレに「鑑定」もしてもらったっすけど」


 リューが答える。


 ふー、と息を吐く。


 今のところ仕掛けては来てないか。


「じゃあ、さっさと帰ろう。今回は買う物もないし」


 本当は伝令鳥を一羽欲しかったけど。


 ちなみに、伝令鳥を買うか買わないか悩んだ頃に教えられたことがある。


 伝令鳥はスキルを持った鳥なんだって。そのスキルで特定の人物の場所を突き止めて物を届け、戻ってくる。そして、そのスキルは他のスキルとは「合わせ」られない。伝令鳥の居場所を特定するスキルなどを伝令鳥や運ぶ荷に仕込んだり、追いかけたり、場所を特定しようとしたりすると、伝令鳥は目的の場所に荷を運べなくなる。宣伝鳥も同じく。だから伝令鳥で場所バレすることはないのがありがたい。


 だから、直接「匂い」をつけられないよう自分たちが気を付けるしかないんだって。便利なのかそうでないのかよくわからない。



     ◇     ◇     ◇



「で? 何かいい情報は入ったんすか?」


「いい情報と言うか……警告をもらった」


 三人がこっちを見る。


「スピティじゃグランディールの居場所に懸賞金をつけてるんだと」


「げ」「うわ」「本気っすか」


「デレカートが嘘を教えるとは思えない。懸賞がどれくらいかは分からないけど、尾行してくる奴はいるだろうね」


「いるね」


 金の瞳で幌から背後を見ているヴァローレが言う。


「五人。明らかにこっちをつけている」


「大物……強力なスキル持ちは来てない?」


「まだ」


「馬車に異常は」


「ない」


「じゃあ、さっさと消えるか」


 ピーラー辺りはこっちにスキル移動の手段があることに気付いてるはず。そして移動手段があってそれを使っても誰にも文句言われる筋合いはない。


「頼む」


「OK」


 グランディールはスピティの近くにはない。周りを探しても出てこない。そしてアレは低上限レベルの「移動」だ。ついてこれるもんならついてこい。


「じゃあ、行っていいか?」


「ああ。頼む」


 まとめて~。


 「移動」!



「消えた?!」


「まさか」


「スキルか?」


「おい、どうするよ」


 五人の追手は、顔を見合わせた。


「町の居場所突き止めないと、懸賞金もらえないんだぞ!」


「こっちはピーラーから頼まれてんだ、失敗したらどうなるか!」


「俺はファヤンスの町長に……!」


「ファヤンスってもう金も人もいないんだろうが、雇われるだけ無駄だ!」


「無駄なら懸賞に回すんだよ!」


 無意味な言い争いを他所に、一人が荷馬車の消えた場所を見つめる。


 そこまでで途切れたわだち


 触れて、スキルを発動させる。


 そして、眉をひそめた。


「……いない?」


「そう、いないんだよ! 何を今更!」


 追手の一人に怒鳴られても、最後の一人の顔は変わらない。


 轍の跡に精神を集中させても何も引っかかってこない。大地に触れているなら、ある程度の距離ならカバーできるのに。


「「移動」関係のスキルが相当強いのがいた……と言うこと?」


 これは報告すべきだろう。グランディールと言う町に、高レベルの「移動」関連スキルの持ち主がいると。



 「移動」終了。


「いない、な?」


「いない」


 ヴァローレが確認する。


「? ……いや」


 その言葉に、ぼくを含めた残り五人が反応する。


「スキルで探ってるヤツがいるな……」


「場所割れる?」


「いいや」


 ヴァローレは真剣に金の瞳で車輪を見ながら呟く。


「相手のスキルはここまで辿り着けない……恐らく車の触れていた場所からこちらの居場所を探るスキルだろう……けど、この距離はカバーできないらしいな。辿り着けていない」


「よかった~……!」


 ぼくは思わずしゃがみこむ。


「よし、上昇門を出してくれ町長」


「うん」


 上昇門が地面に光る。


 スピティから南に真っ直ぐ。山道の中にある。この更に上に浮かんでいる町があるとは思えないだろう。


 荷馬車で上昇門の中に入っていって、グランディールに帰った。



     ◇     ◇     ◇



「……おっそろしく早かったな」


 出迎えてくれたソルダートが思わず呟く。


「おっそろしく早く帰ってきたから」


 としか言いようがないぼくたち。


 だって、町長の仮面をつけてたって、金目当てで尾行してくる奴がいること確定な状況でゆったりしていられるほどぼくは心臓が強くない。


 同行してくれた五人は、町長の仮面とかそういうのは持ってないから、行きも帰りも常にぴりぴりしてた。


 これ以上ゆっくり帰るのは、ぼくも含めたみんながもたない!


「……悪い、帰って寝ていいか?」


 ヴァローレが疲れ果てた声で言う。


 そうだろうなあ、スキル全開で相手が仕掛けてくるのを警戒し続けたんだから、疲れもするよな。無茶させ過ぎた。


「うん。後から娘さんへのお土産持ってくから。ゴメン、子供いるのに引っ張り出しちゃって」


「……いや、あいつは僕が町の役に立つのを喜んでくれてる。フレディやシートス、ファーレも見てくれてるしな。だからこれは俺の仕事だ、金が使えるようになったら給料払ってもらうぞ……」


「もちろん」


 ヴァローレは夢遊病者のようにふらふら歩きながら帰って行った。

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