第76話・デレカートの警告
スピティに行く日。
ヒロント長老と他のみんなに町を頼んで、ファーレに馬車を作ってもらって、家畜売買のゾーオン・ジヴォートナイに馬を用意してもらって、今度こそちゃんと荷馬車で行ける!
がたがた、かっぽかっぽと荷馬車は進む。
今回はぼく、アパル、サージュ、アレ、ヴァローレ、リューの六人。いざとなったら逃げだす準備満々のスキル準備。
だってなあ、ピーラーとデスポタ、どっちか一人だけでも厄介なのに、二人揃って待ってる可能性があるんだぞ。最悪の想像をすれば二人が手ェ組んで手ぐすね引いて待ってるかもしれないんだぞ。
気も重くなる。
ぼくとヴァローレが馬車の中、アレが御者台で、残りが御者台や幌から周りを警戒している。
「今のところは?」
「何もない」
後ろを見ているサージュの返事。
「こっちも」
右を見るアパルの返事。
「今ン所ないっす」
左を見るリュー。
「まあ今は出てこないだろう」
サージュが呟く。
「あっちもスピティともめ事を起こしたくないだろうからな。来るとしたら帰りだろう」
「はあ~あ……」
吐く溜息までが重い。
人数が増えた今、お金なしで町をやっていくことは難しい。ちゃんと働いた人にはお給料を出さなきゃだし、町民が町の外と商売する時にも必要だし。
だから、サージュ曰く「外貨がいる」んだそうで。
町で勝手にお金を作ってやり取りするんじゃなくて、ちゃんと世界で通用するお金を町の中、外で流通させなければならない。そうじゃないと町と認められない。Cランクの理由は通貨が通用していないところにもあるらしい。
外貨を手に入れるためには外と物を売買することで、今のところ売れるのは家具だけ。そのうち陶器も売れるようになるだろうけど、ファヤンスとガチぶつかりになるのは今は避けたい。
は~、町って厄介厄介。
ミアストやデスポタがスキルで町民を使っていた理由も何となく分かってきた。
スキルは、本人のやる気の有無に関わらず、確実に評価できるものが作れる。だから、町長は町民をスキルで割り振る。確実に成果が出るからだ。
やらされてる方はたまったもんじゃないだろうけどね。
クイネやピェツのように嫌がっている人もいる。
ぼくはそんな人を出したくない。
やりたい仕事をやって、成果を上げて、みんなで喜べるような。
そういう町にしたいと思ったから。
だからどんなにややこしかろうが面倒くさかろうが近道を選ぶまいと、そう決めた。
決めたんだから腹を据えなきゃね。
デレカート商会に着いた後も、警戒は続いていた。
ぼく、アパル、サージュが取引している間は三人が馬車に乗ったまま辺りをぎっちり警戒している。何か馬車に仕込まれないように。
三人に苦労させている間、ぼくは精神的にしんどい仕事をしている。
町長の仮面をつけて、真面目に商売のお話。
「素晴らしい……素晴らしい!」
デレカート、大絶賛。
「いいのですか? このランクであれば、S……いやいやSSランクの町長用にしてもおかしくないのに。Aランクの町には勿体ないのでは……」
「その机が見合うような町長になってください、とお伝えいただければ」
ここで机の出来が良過ぎたから他の町に売ると言うと怨みを買う。
怨みは今のところピーラーとファヤンスだけでいっぱいいっぱい。
「では、しっかりお納めいたします」
「ありがとうございます」
「二ヶ月後後にはトラトーレ、ですか」
「ええ」
デレカートは声を落とした。
「ピーラー氏、相当お冠だそうですよ」
「ほう?」
「ポルティアの首を切った、戻ってきても戻すな、と町長に言ったとか」
理由は知っているから、ぼくは笑ってごまかす。
「ポルティアはいい目を持っていたので、正直痛手です」
「でしょうね」
ぼくらの家具もポルティアが保証してくれたようなものだし。
「しかし、こちらとしてもまだ町の場所を知られたくないのです」
「ですな。まだ新しい町でここまで成果を出していると、大きな町が併合しに来る可能性がある」
そして声を潜めて、茶目っ気いっぱいに教えてくれた。
「実はこちらも依頼を受けているのですよ。グランディールの場所を探れと」
「ほう?」
ぼくは視線をあげてデレカートの目を見た。
「スピティはグランディールを併合したいと」
「それも目的に入っているようですね」
デレカートはもう一ランク声を潜めた。
「ファヤンスの町民をごっそり引き抜いたことも噂になっています。帰り道は重々お気をつけて。家具の町、陶器の町と知名度が上がっていくにつれて、グランディールの場所を知りたがる人が出て来る。こちらとしてはまだ出すべきではないと判断して町長の依頼も断っていますが、実は懸賞もかけられていると」
デレカートはとんでもないことを教えてくれた。
「そこまで来ているのですか」
「ええ」
デレカートは笑顔の奥に心配を隠して言った。
「ですから、どうぞご無事でお帰りを。デレカート商会はグランディールと長い取引を望んでおります」
「ありがとうございます」
ぼくは深々と頭を下げた。
いや、その情報だけで本当にありがとうございますだよ。
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