第74話・正しいランクの上げ方
「やっぱりわたしのお兄ちゃんは最高のお兄ちゃんだ」
ぼくの腕に絡みつくようにしながら、アナイナは笑う。
「町を追い出された人、町に住めない人を集めてこんなすごい町を造っちゃうんだもん!」
「みんながいるからだよ」
これは間違いなくぼくの本音。
「ぼくだけだったら、ここまで立派な町にはなっていなかった」
ヴァローレに「鑑定」してもらったところ、グランディールは現在Cランクだそうだ。
主な理由は知名度が低いこと。設備とか人数とか出来ることは十分Aランクなんだと。
スピティに家具を卸しているだけじゃ知名度はなかなか上がらない。
知名度を上げるにはどうすればいいか。
何処か大きい町にグランディールで乗り付けるのが一番だとは思うけど、グランディールの力を知られたら流血沙汰を起こしても手に入れたいという人間が、エアヴァクセンのミアスト町長を含めて大勢いるだろう。
ランクを上げる手っ取り早い手段が、近くの町を併合して一つの町にしてしまうことだ。ぼくらが実行した手だ。
ただ、これは普通は大きい町が近くの小さい町に仕掛けるもの。
遠くの町を併合したところで、移動手段や連絡手段がなければそのうち関係も途切れ、元通り二つの町になってしまう。そして、小さな町が大きな町に行えば、余程事前の手回しがない限り、併合された方の生活雑貨や食料を売る店がそっぽを向いて町として先行かないようにしてしまう。結局小さな町は町を維持できず手放すことになる。
ぼくらが成功したのは、ファヤンスから出たいという人数をある程度以上把握していたこと、デスポタ町長の目を陶土で逸らせたこと、そして人数分広がるグランディールの特性があったから。
この町の正体がバレてみろ。目につく町片っ端から町民を強制的に引っ越させて町民にしてしまえる。特産の材料もほぼ無償で手に入れられる。つまり楽勝でSSSランクに行ける。
卑怯だよ。我がスキルながら反則だ。
だからこそぼくはただSSSランクを目指すのではなく、町民全員が満足して幸せに暮らせるSSSランクを目指すんだ。
ミアスト町長やデスポタ町長の同じ轍を踏みたくない。
水路の行き交う空を見上げたぼくの腕にアナイナが絡みついた。
「何考えてるの、お兄ちゃん?」
「いや……何でもない」
「何でもない顔じゃないよ」
相変わらずアナイナは観察眼がすごい。
……町長の仮面をつけてないときのぼくが分かりやすいってところもあるけどさ。
「いや……ミアストやデスポタと違う方法で町を育てなきゃな、と思って」
「町を、育てる?」
「そう」
ぼくはすっかり広くなってしまったグランディールを見る。かなり高所にあって水路があちこちにあるから冷えてもおかしくないのに、まるで水の網に守られているかの如くぼくらは寒気を感じない。穏やかな暖かさと心地よい風だけ。
「最初は、小さな小さな町だった。家が六軒、食肉解体所、水汲み場、倉庫や畑。七人が暮らしていけるだけしかない町だった」
「それが今じゃ百人超えちゃったもんね」
アナイナは視線を奥に向ける。
牧草地の裏手にあった陶土の崖は知らないうちに別の場所に生えてた。いや生えてたとしか表現できない。多分、土を取る人たちが家畜に影響を及ぼさないように、だろう。フレディが心配してたから。
で、移動した崖の近くに何軒もの工房が建っていて、窯もあり、陶器を成形したり焼いたり絵付したりしている。
自分たちの体重と同じ値段で取引された陶土を見て、ファヤンスの職人さんの陶器魂に
そう、食堂。
クイネは宣言した通り、陶土に見向きもせず、望み通りにできていた食堂を一通り見た後、アパルやヒロント長老、マンジェ、パン職人なんかと話し合って、早々に食堂をオープンさせた。
と言っても今のところ金はいらないんだけどな。
畑は畑チームがファヤンス組の中から畑仕事したい人を募って大量生産を成功させ、家畜もティーアが降りて連れてくる野の獣やファヤンスから家畜を大量に連れてきた家畜商人、ついでに言うと「生産増加」と言う肉や野菜を増やすスキルや狩りや弓矢のスキル持ちが何人かいて、手を挙げてくれたおかげで肉には困らなくなった。町は飛んで閉してしまえば町の中だけで十分食糧も衣服も循環するし家は言うまでもないので、町の外で買い取りをする以外にお金が要らないという話になる。
不気味なほどうまく回ってるなあ。
不気味と言えば……。
こちらに執着する目を思い出した。
ピーラー。
もう一・二日でデレカート商会に執務机を納める期限だ。
スピティに行ったら……ご本人様登場、とはいかなくてもピーラーの息のかかった人間は接触してくるだろうな。
ピーラーには間違っても町を見せたくないし。
どうしようかねえ……。
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