第69話・ファヤンスの事情
三々五々、伝令鳥たちが帰ってきた。
五十羽近い伝令鳥は、ほとんどが濃い桃色だ。
普通、伝令鳥は赤いが、この桃色の伝令鳥は宣伝用。だから宣伝鳥と呼ばれている。町が町民に送ったり、商会が商品の案内を送ったりするのに使われる。鳥を放つ人間が出した条件……その条件に当てはまる人間の所に飛ぶ。商会とか
Dランクくらいの町だと、町民引き抜きには過敏になる。人数が減ればそれだけランクダウンが大きいから。特に町の看板を引き抜かれるとランク外になりかねない。だから他の住みやすい町に行かれたりすると困るので、他の町の情報を町民に入れないこともある。
クイネと言う人もそのパターンだろう。
レベル9000の「陶器絵付け」は陶器の町には絶対必要。陶器の町、と言う売り出し方をしていながらDランクなのは厳しい。名産があるならせめてCが欲しいところ。ファヤンスがクイネに仕事を強制させているのも、早くランクアップしたいからだろう。
ちなみに町ランクは町ランク鑑定のスキルを持っている人間が見れる。ヴァローレも見れて、グランディールを見てもらったことがあったけどその時は「まだランク外」と言われてちょっとショックだった思い出。原因は町民数と言われて、何処か町民をないがしろにしている町からゲットすると決めていたその時に、ファヤンスの町から人を招きたいというポルティアの提案に乗ることにした。ポトリーを追い出してクイネを出さない町、陶器の町と言うのにDランクと言うのは何が問題がある町、と言うことになる。で、クイネへの伝令鳥を飛ばすついでに宣伝鳥で町を出たい人に送ったんだけど……。
「鳥が辿り着いた以外にも町を出たい人間はいそうだな、これは」
宣伝鳥が持ち帰った返事……と言っても町を出てウチに来ないかと言う問いにイエスかノーかだけを書く返事で、イエスの数が異様に多い。これだけ町を出たいという人がいるなんてどういう町なんだファヤンス。
「サージュ、ファヤンスの……」
「もう集めた」
「早ッ」
「この頃「知識」を使うことが多いからレベルがアップした」
「幾つ?」
「4500」
「三倍じゃん」
「扱き使われてるからな」
「感謝してます」
片手で拝んで、一羽だけ赤い伝令鳥をポルティアに渡す。
ポルティアは首を反らす伝令鳥から手紙を外す。
「クイネだ。この印は間違いない」
印を見て頷くポルティア。
「なんて書いてある?」
急いで返事を欲しいから書いた手紙にそのまま返事を書いてくれと頼んだんだけど。
「「もし出られるものなら、出たい。出られれば」だそうだ」
「こちらを信用していないけど、本音は出たい、という所だね」
手紙を見て頷くアパル。
「信用していない?」
「レベル9000の絵付師を食堂の親父として招く町長は普通いない」
「それでもファヤンスを出たいのが本音だろう」
「ああ、話が途中で反れたけど、ファヤンスってどんな町か聞きたかったんだった」
「じゃあ、改めて」
サージュが一つ咳払いして、話し始めた。
「ファヤンスは四十年ほど前ランクダウンしてDランクになった」
「へえ?」
ポトリーが興味津々、と言う顔で聞いてくる。
「おれの生まれる前にそんなことがあったのか」
「ああ。昔はBランクだった」
「2ランクも落ちた? 一体何が」
「当時の町長が、「相応しくない人間を追い出した」からだそうだ」
「へえ?」
「高レベルの町を自称したかったそうで、無関係のスキルや低いレベルの人間を追い出して、他の町から関係のありそうな高レベルスキルをさらって連れてきたんだそうだ」
「うーわ」
「結果、人口ががた減りして、町を見捨てる人間も増えて、一気にDランクまで落ちたそうだ。当時の町長は座を追われ、息子は跡を継いだんだがファヤンスの落ちた評判は戻らず、孫の現町長はBランクへの返り咲きを目指しているそうだ。で、絵付師のクイネと窯師のピェツ・バーケを抱え込んでいるんだと」
「うーわ」
「ピェツ・バーケ?」
「こいつも高レベルなんだ。8000以上はあるとかで。だからこの二人で陶器を作らせればBランクに戻れると信じてる。逆を言えば」
「この二人がいなくなれば、ファヤンスはランク落ちどころか村にまでなってしまうということだね」
ぼくの言葉にサージュが頷く。
「そのピェツって、こいつじゃね?」
マンジェが宣伝鳥が持ち帰った手紙の一枚を振った。
「こいつ?」
「ピェツ・バーケって書いてある」
アパルが手紙を受け取る。
「あ。本当だ」
イエスかノーかだけを書いてくれ、と書いた手紙の裏。
大きくイエスと書かれた隅に書いてある名前。そして。
「何もできないかもしれないけど、この町から出られるなら何でもします。条件とかそういうのを教えてください。」
と、必死の懇願が書かれていた。
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