第67話・知り合い
「呼びたい知り合いがいるんだが、いいか?」
ポルティアがそう切り出したのが、新入り二人が町に馴染んできた二日後だった。
「知り合い? どんな人?」
「スピティと繋がりのあるファヤンスの町に住んでるんだが」
「ファヤンス?」
次の陶器をどう作ろうかと考えていたポトリーが反応した。
「知ってるのか? ファヤンスを」
「知ってるも何も。おれの出身はそこ。陶器の町、Dランク、違う?」
「いや、合ってる。ポトリーはスキル「陶器作り」だろう? なんでこんなところに?」
「レベル低いって追い出されたんだよ。上限は1000だから低上限でもない。伸びしろがないって言われて、追放ー」
ポトリーは冗談めかしてパッと手を開いた。
「だけど、デレカートに詫びの飾り皿を送ったって聞いたぞ。それはポトリー作だろう? 低いって言われるレベルが作って納得する男じゃないぞデレカートは」
「シエルが絵の指導してくれたんだよ。クレー町長も陶土の崖を作ってくれた。同じ皿だったらいい陶土で綺麗な絵が焼き付けられている方が値は上がる。で、ファヤンスの誰かさんがどうして移住したいと?」
「町のスキル第一主義に合わないんだと」
「スキル第一主義って……ほとんどの町がそうだろう」
エアヴァクセンをはじめとして、ほとんどの町が町民をスキルで決めている以上、スキル第一主義になってしまうのも仕方ない。で、そこから弾き飛ばされる人間も少なくない。シエルのような別の才能を持っている人間、ぼくのようなレベルで測れないスキルがそうやって取りこぼされ、グランディールに集まっている。
「あいつはかなり才能のある料理人なんだが、スキルが「陶器絵付け」でな、しかも9000近いと来た。当然絵付けの仕事しかやらせてもらえない。絵じゃなくて料理をしたいといつもいつもそればかりだよ」
「なんでポルティアがそんな奴のこと知ってんだ? 9000レベルだったらそもそも町から出してもらえないだろう」
「デレカート氏の依頼を受けて、彼の執務机に飾る飾り皿を見て欲しいと頼まれてファヤンスに行ってな、その時知り合った。何か妙に気に入られてな、泊まってけって言われたんだ。その時に、手料理をごちそうしてくれてな……。それが非常に美味かったんで、料理のスキルも持ってるのかって聞いたらこっちは自分の趣味でつい夢中になって楽しくってって盛り上がって、……でも自分のスキルは「料理」じゃなくて「陶器絵付け」だから作らせてもらえないってしょげてたな。夢は食堂を開く事って言ってたが……」
「9000レベルだったら町の宝だ、出してはもらえないね」
「……ああ。だけど、
ポルティアの目の下にうっすら隈が浮いている。多分そのことを思い出しての不眠症だろう。
「ん~……」
ぼくは首を右へ傾げた。続いて左へ。
「スキルに関わりなくって言うなら、あいつも誘ってやりたいんだ。……無茶を言うのは分かってる。ファヤンスが絶対手放すわけはないし、9000レベルが抜ければ町の存亡に関わってくる」
ポルティアが真剣な顔で訴えてくる。
「でも、俺はあいつを引っ張り出してやりたい。好きな料理を存分にやらせてやりたい。ここに来てから、あいつの夢ばかり見るんだ。滅茶苦茶楽しそうに料理をしてるあいつの夢を。……出来るなら、叶えてやりたい」
「アパル、サージュ」
「その人の名前は?」
アパルに聞かれ、ポルティアは軽く唇を噛んだ。
「クイネだ。クイネ・コシネーロ」
「それなら知ってる。ファヤンスの看板だ」
サージュが渋い顔をした。
「ファヤンスがランクアップを狙っているという話を聞いたが、多分その男がいるからなんだろうな」
「…………」
「多分ファヤンスはクイネを逃がさない。監禁してでも手放さない。クイネ・コシネーロのいるファヤンスの町、それが町の売りなんだから」
「やはり……無理だろうか」
「……ぼくは……」
ぼくは町長の仮面をつけて、顎を触りながら口を開いた。
「その人がグランディールに来ること自体は拒否しない。グランディールはスキルで町民を決めない。他の町民に悪影響を及ぼさない限り拒絶はない。ただ……」
ポルティアは唇を噛んだ。
「分かっている……他の町とやり合いたくない……そうだろう」
片肘をついてその手で頭を抱える。
「だけど……あいつの夢を見るたびに言われているような気がするんだ……お前だけ解放されて、何故自分が解放されないのか、と……」
「ポルティア」
「分かってる……俺の感傷だ。グランディールに無茶を言っているのは分かっている」
「ポルティア、ポルティア」
二度名前を呼ぶと、ポルティアは顔をあげてこちらを見た。
「誰も、クイネさんを見捨てるなんて言ってないよ」
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