第65話・デザイナー紹介

「ああ。俺はヴァダー・マニッジだ、よろしく……。で、この町の水は地下から取ってるんじゃないのは分かるよな」


「……空飛ぶ町が地下水に頼るわけにはいかないよな」


「今は町長のスキルで出来た水汲み場があって、湯処は湯を供給する設備が揃ってるけど、俺たちが普通に飲む水とか、家畜にやる水とか、畑に撒く水とかは水汲み場に頼るしかない。そして、この町は住人が増えると広がっていく。広がれば広がるほど水汲み場の往復が大変になる」


「……その水汲み場の水は何処から出てきているか聞いていいか?」


「誰も知らないから聞いても無駄」


「無駄か……」


 ポルティア、またまた沈没。


「町民に水が必要だと思ったから出来たのね? でも、それだったら水汲み場を増やせば」


「水汲み場だらけの町になるぞ……」


 突っ伏したままのポルティアに、ヴァダーが頷く。


「だから、水路を作ろうと思ったんだ。町をぐるっと回って水が流れていれば、そこから水も汲めるし家畜も飲めるし畑にも撒ける。という案を俺が出したら」


「シエルが出てきたわけ?」


「そりゃあ、この町に何かを作るんだったらシエルが出てこなきゃおかしいだろ」


「確かに、こんなアイディア出すのはシエルしかいないよな……」


「シエルって、家具のデザイナーか?」


 頭だけをあげてポルティアが聞く。


「うん。というか、町全体の何かを作る時は大体シエルが音頭取るから」


「デザイナーのスキルなのか?」


「いいや、スキルは「空画」だっけ?」


「ああ。空中に絵を描くスキルだけど、描かされ続けて右腕壊してスキル使えないんなら用済みってエアヴァクセン追い出されたんだ」


「……どうなってるんだエアヴァクセン……」


「スキルが使えなければ追放。そんな感じ」


「あと、町長ミアストの威厳をやらを傷つける人間も追放。俺は栄転でエアヴァクセンに決まったんだけど、式典に腹痛で行けなかったらそんな奴いらないってわけで盗賊に」


「……グランディールがランクアップする前に自然消滅しないかエアヴァクセン」


「それは困る」


 ぼくは額を指先で叩きながら答える。


「確実にグランディールがエアヴァクセンの上になるって証明してからじゃないと」


 そこへ、ガチャリと扉の開く音。


「うぉーいおはよう。水路はどうだ?」


 欠伸しながらやってきたのはシエル。


「おはよう。そろそろ呼ぼうかって話してたんだ。それにしても相変わらず斬新なアイディアで」


「おっ新町民二人? オレはシエル・テークヌンですよろしく」


 シエルは軽く手をあげる。


「彼が噂のグランディールデザイナーのシエル。シエル。彼は元スピティ門番のポルティアとピーラーの傍付きだったナーヤー」


「ポルティア・ポーターだ。……貴方がグランディールのデザイナーか」


「ナーヤー・ヒゥンです。お会いできて光栄です」


「お、オレ突然有名人?」


「ピーラーがものすごく会いたがっていましたもの。是非ともあのベッドの入る家のデザインも任せたい! と駄々こねて……。クレー町長に止められた後もぶつぶつ言っていましたよ。この才能は自分が生かすべきだ、って」


「あー、評価高いのはありがたいんだけど、オレはやりたいことは何でもやるけどやりたくないことは絶対やらないんだ。町長ミアストに腕壊されて追い出されてから、もうそれは決めた。ピーラーの傍で言われるまま作るなんてお断り。みんなで色々言い合いながら最高傑作を作るのが好き」


「ああ、ピーラーと関わらせちゃダメな人種だな。ぶつかり合って両方消滅するタイプ」


「うん。最初スピティに行って家具の評判聞きたいって言ってたけど、帰してもらえなくなるって説得した」


「それが正しいでしょうね」


 ナーヤーがうんうんと頷く。


「ピーラーだったら拉致監禁してでも手元に置いて、何も作らないとしても放さないわ」


「冗談!」


 ばん、と机を叩くシエル。


「はいこの話もうここでやめましょーお互い嫌な気持ちになるだけですー楽しい話しましょー水路の話しましょー」


 ばんばん叩きながらぼくより小さい子供のような文句を言う。


「そうだね、水路の話にしよう。……だけどこれだとヴァダーの負担にならない?」


「大丈夫。最初に水の流れを作るだけだから。アパルの推測だと、一旦水路が出来れば後は勝手に流れ続けるんだそうだ」


「無限階段みたいなもの?」


「そんな感じ」


「まあ、グランディールに箔がつくデザインではあるけどさ……結構ぼくのスキル頼りでもない?」


「うん。出来なかったらもっと確実にできる方にする」


「んー……」


 確かに、今までできている理論としては出来るはず。出来れば町は美しくなるだろう。


「よし、町民集めて」


「ちょっと待て、今集めるから」


 少しして、透き通った、カーンカーンという音。


「いつの間に鐘なんて出来てた?」


「会議堂に出来てた。時の鐘とは別に出来てたから、町民集合の鐘にした」


 すたすた、てくてく、たったかたったか。


 足音が近づいてきて、みんながやってくる。


「全員集合した? じゃあ新しい町民の紹介。ポルティア・ポーターとナーヤー・ヒゥン。それと、今更だけど、ヴァリエも仲間入りすることにした。ヴァリエについてはもうしばらく経過観察ってことで、何かいらんことやらかしたらすぐに報告するように」


 はーいと主に子供たちからのお返事。


「というわけで、聞いてる人がほとんどだと思うけど、ヴァダー提案の水路を作ることになった。で、協力お願い」


 再びはーいの返事。


「じゃあ、水路を作るとするかね。三人も、ぼくの言う通りにしてくれ」


 期待に胸を膨らませているヴァリエと、何となく察したナーヤーと、分かっていないポルティア。


 ここからがまちづくりスキルのスタートだ。

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