第63話・驚愕の極み

「ちょちょ、ちょっと待て!」


 家の中に入ったポルティアの声が裏返っている。


「何だ、何なんだこの高級な家具の見本市は!」


 出てきて開口一番これだ。


「あれだ、これは俺の家じゃない、グランディール製の家具の見本市だ」


「家具はグランディール製で間違いないけど、この家はポルティアので正しいよ」


「だけど、あれ!」


 ポルティアが指した先を見れば、それはまあ立派な家具の見本市。


「ああ、そうか、家具を鑑定できるだけじゃなくて欲しかったのか」


「いや、確かに俺の欲しい家具ばかりだけど! こんな高級な家具、家、適当に町外れにあっていいものじゃない!」


「でも、それがポルティアの希望の家なんでしょ?」


「希望過ぎて怖いわ! 俺の稼ぎで買えない!」


「どの家も稼ぎでできたわけじゃないよ?」


「は?」


「ああ、あんたが新入りか」


 畑の手伝いに行っていたらしいヴァダーが、汗を拭いながら戻ってきてポルティアの顔を見た。


「あなたはこの町の町民か」


「ああ。家がすごいんだろう?」


「すごい? そんな言葉で形容できるか! ピーラーもこんな家に家具揃えてないぞ!」


「町長の「まちづくり」のスキルのおかげだ」


「は?」


「町民の理想の家が出来る」


「はあ?」


「正確には、町民が理想、あるいは必要とするものを、町が具現化するんだ」


「はああ?!」


 何て見事な「は」の三段活用。


「こいつ、何してた人だ?」


「スピティの門番って言うか、フリーの家具鑑定師。だから見てるものはいいのばっかだと思う」


「あー。高すぎて手に入らないけど欲しいのがいっぱい出てきたのか」


 うんうんと頷くヴァダー。


「なんだ、欲しいものが手に入ったなら素直に喜びゃいいのに」


 マンジェが呆れたように言った。


「高すぎて怖い! 俺の人生何回分で揃えられるのか……!」


 ナーヤーは……。


 入口に座り込んでいる。


「大丈夫?」


 シートスが声をかける。


「わ、私が子供の頃に住みたかった家がそのまま出来てる……。嘘……」


「うん、そうなの。思った家が出来るんだよ」


「うらやましいです、わたくし、まだ町民として認められていないから、家がないから……」


 アナイナとヴァリエも落ち着かせようとナーヤーに声をかけている。


「ちょっと、ちょっと待て。この町の町スキルって……いや町長のスキルか……? 町に必要なものが生えて来るって、文字通りの意味なのか?」


「うん」


「ありなのかそんな町……!」


「出来ちゃったんだから、住んでください。住めないって言われたら、また新しい家が出来ちゃいますんで」


「出来るのか……?」


 ポルティア、泣きそう。


「出来るんです」


 これまで売ってきた家具も、ほぼそういうノリで作ってきた。


「……出来るのか……」


 よろよろと家に入っていくポルティア。


「住んじゃって……いいんですか、こんな、立派な家?」


ナーヤーも恐る恐る。


「いいって言うか、生えちゃったんだから住んでもらわないと荒れる」


 入っていく二人の背中に声をかける。


「落ち着いたら会議堂に来てー。一応この町の成り立ちとか決まりとか教えるからー」



     ◇     ◇    ◇



「ちょうどいい所で戻ってきた。相談があるんだが」


 ヴァダーが声をかけてきた。


「いいよ? ここで」


「その前に湯に入ってきていいか。結構汗かいちまったから」


「ああ、あの事、提案するのか」


 マンジェが言ってくる。


「あの事?」


「町長がいない間に色々いるものとか相談してたんだけど、その中で出来やすそうなのをヴァダーが提案してな。スカウトが終わったら相談してみようって話になってたんだ」


 普段不愛想に引き結ばれているヴァダーの口が、少しだけ、緩んでいる。


「自信作だね?」


「まあな」


「じゃあ湯を浴びておいでよ。ぼくは会議堂に居るから」


「急いで戻ってくる」


 ヴァダーが湯処にダッシュする。


「アパルとサージュも、グランディールが浮いた時点で会議堂に待機してるから」


「ありがとう。助かる」



 湯処から出てきたヴァダーが提案したのは、水路だった。


「水汲み場はあるだろ」


「水汲みが大変だろ」


 ヴァダーがぼくに切り返してくる。


「そもそも川がないのだから、畑に撒くのも大変だし」


「ああ……そうか」


「家畜小屋に運ぶのも面倒だ」


「……んー、つまり、町全体に水路を作ろうって、そういうこと?」


「そう。ちょっとアパルとサージュに知恵を借りながら設計図は作ったんだが」


 ヴァダーが差し出した紙を開く。


「……うん。……へえ。……なるほど」


「これだったら町全体に水路が行き交うだろ。邪魔にもならないし水が腐ることもない」


「グランディールだから出来ることだけどね」


 ヴァダーの言葉に、アパルが苦笑して言う。


「それに、これだったら、新町民二人にこの町のスキルを分かってもらえるだろ」


「これ、シエルも手を貸した?」


「ああ。ただ水路を巡らせるだけじゃ意味がない、グランディールらしい設備にしたいと思ってたら、聞いたシエルが案を出してくれて、そしてこの結論になった」


 話し合いがひと段落着いた、ちょうどいいタイミングでポルティアとナーヤーがアナイナとヴァリエに連れられてやってきた。

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