第62話・新町民ご案内
というわけで、湯処。
一応体が汚れている人が入る時はしっかり洗ってから、という決まりがあるので、ポルティアは洗い場でこすられてから湯に入った。
「……こんな広い湯処、初めてだ」
湯の中に放り込まれたポルティアが、呆然と呟く。
「……ちなみに、使用料は?」
「使用料?」
考えてもなかった。
「……まさか、タダ……?」
「ていうか、今のとこ、この町でお金って使ったことも使われたこともない」
「家具売って出来た金は?」
「スピティで食糧とか買った」
「その割り当ては?」
「みんな平等のご飯になりました」
「…………」
もはや言葉も出ない模様のポルティア。
そう言えばお金のことって考えなかったよなあ。町の施設もいるものも望めば生えてくるから……。ご飯とか野菜とか、外の物を手に入れる時くらいしか使わないなあ。
「……エアヴァクセンを超える、か」
ぽつりと呟かれた言葉に、ぼくは頷いた。
「それがぼくの目標。でも、最終目標は違う」
お湯で顔を洗って、ぼくは続けた。
「最終目標は富める強国ディーウェスだけが持っていたSSSランク」
「SSS……!」
「無茶な夢って思うだろうけど、この町に住んでいるみんなは信じてる。こうやって町を大きくしていけば、いつかはその称号を手に入れられるだろうって」
「…………」
ポルティアは天井を仰いだ。
「とんでもないスキルと、途方もない夢、だな」
「分かってる」
でも、とぼくは付け加えた。
「ぼくのスキルは、そのためにあるんだと思ってる。エアヴァクセンのミアスト町長を見返して、最高の町を造るために」
「そうか」
ポルティアは腕を伸ばした。
「俺はポルティア・ポーター」
「ん?」
「スキルは「家具鑑定」。レベルは3000。正直スピティの門番って言うのは家具を見るから、単純に門番として役に立たないのは分かってる。それでもいいなら」
「いいの?」
「……いや、町長がそれでいいというんなら」
「良かった」
ぼくはほっと息を吐いた。
「そんなに俺みたいな役立たずでも嬉しいのか?」
「半分はそれだけどもう半分は違う」
「半分?」
「町民になったから、着替えが出来る」
「……は?」
脱いだ服は洗っておくから、ということで引き取ったのだけれど。
「町民ってなったら、服も出来る」
「服……出来る……?」
「ああ。家も出来てるだろうな。見て驚くぞ」
「出来てる……?」
「うん、出来てる」
不審そうなポルティア。まあ、分からないだろうなあ。直で見るまでは。
「町長ー」
外から呑気な声がした。
「新町民の服出来てたから持ってきたぞー。女性の分はフレディが持ってったー」
「ああ、ナーヤーも同意したのか。……ありがとー。家は?」
「出来てる出来てる」
「……出来てる?」
「着替えが出来た所でそろそろ湯上りするか。あんまり長いとのぼせる」
「いやちょっと待て詳しく説明しろ町長」
「ぼくのスキルながらぼくが上手く説明する自信がないんだ。直で見て、うちの頭脳派二人に聞いてくれ」
「おい、ちょっと」
さっさと上がって着替えるべし。いっそのこと更衣室に個々のカゴおいてそこに服が出現するようにしようかな。
ぼくが着替えていると、ポルティアが服を手に取ってプルプル震えている。
「? どしたの」
「これ……
「うん、提案者は、全部が
「絹ぅ?!」
「そこんところも説明してくれる人いるから」
「下着まで……」
「はい着替えて着替えて」
「この肌触り……着慣れない」
そわそわしながら出入り口に向かうと、その向こうから女性の悲鳴。
「なんだッ?!」
門番の職業病か、手が探っていたけど、いつも持っている槍がないと気付き、不安そうな顔になる。
「大丈夫。浮いてるから外敵じゃない」
「じゃあ、落ちてるのか?!」
「だったらみんな大騒ぎするしぼくたちも気付くだろ」
これは……多分……あれだな。ナーヤーだな。
「出ればもう一つ悲鳴が上がるけど、出る?」
「いつまでも湯処に留まってはいられないだろう!」
ポルティアは飛び出し。
視線を巡らせ。
ある一転に視線を留めて、こちらも叫んだ。
「な、な、な、な」
「うん、ポルティアの家」
それまであった家々の間に、まるで前からあったかのようににょっきりの二軒の家が生えて……いや建っている。
「ちょ、ちょっと待て」
ポルティアの指が震えている。
「湯に入る前は、この家、なかった」
「うん、そう」
「なんであるんだ。この家」
「町民になるって言ったから」
「言ったら建つのか! 家が!」
「ちなみに家具などの生活必需品も揃っています」
ポルティアは恐る恐る家に近付く。この町の家は個人の好みが優先されるんで、自分の家だけは誰も間違わない。バラバラな街並みがそれでも統一性を保っているのは、「まちづくり」のスキルだろう、新しい家は以前から建っている家の間、不自然にならない場所に建つ。
「一応ポルティアやナーヤーの好みになっていると思うけど」
ポルティアとナーヤーは顔を見合わせると、思い切ってそれぞれの家のドアを開け。
またも悲鳴が上がった。
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