第61話・一番の町
「こんな町って……」
ポルティアが呟いた。
「私、これまで旅した中でも、一番と言っていい町ですよ」
「え? ほんと? それは嬉しい」
ナーヤーありがとう。それはすごい褒め言葉。
「家具って特産なしでもここに住みたいって奴は大勢いるだろうに、何故俺たちを?」
改めて聞き直したポルティアに、ぼくも真面目顔……町長の仮面をつけて答える。
「この町を造った第一目的は、エアヴァクセンに勝つこと」
「エアヴァクセン……鑑定、SSランクの町か」
「この町に住む、ぼくを含んだ半分近くがエアヴァクセンから追い出された放浪者なんだ」
「こんな町を造るようなスキルの持ち主を追い出したってのか?!」
「うん。ぼくの場合はレベル上限が1、つまりスタート状態で上限に達しているから鑑定式の時点で不要だって言われた。実際にはこの町のほとんどを造ったほどのスキルを、ね」
「……馬鹿だな、エアヴァクセンも」
「でも、私たちはこの
「だから、スキルは求めてないって」
ぼくは二人を見た。
「ここに住みたいっていう人、他の人と仲良くやってくれる人、約束を守ってくれる人。そうであれば立場も身分もスキルも問わない。ああ、ちゃんとみんなで食べていくために畑の手伝いとか掃除とかそういうことをしてくれる人なら大歓迎」
「……えらく条件が良くないか」
「ぼくの条件はこれを守ってくれる人。それ以上は求めない」
「これが、私たちの今の立場でなければ大歓迎なんですが……」
「大歓迎ならいいじゃない、問題なし」
「いや、ある、あるぞ?」
慌ててポルティアが口を出してくる。
「俺たちは貴方たちの町を見つけることを依頼されて、失敗してここに来てるんだ。俺たちが気を変えてピーラーにこの情報を売ったら」
「売らないでしょ」
「あ?」
「だから、売らないでしょ? 依頼失敗したからってあっさり切ってここに取り残すような依頼主に、そんな義務を果たすだけの義理もないでしょ?」
「そりゃあ……そうなんだが」
「それに、ピーラーの性格からしたら、二人がスピティに戻っても戻れないくらいにはしてあると思うね。悪い噂流すとか、他の門番に知らせておくとか。ナーヤーもピーラーと長い付き合いなんだから、その性格くらいは分かってるだろ?」
「……ええ。顔もいいし演技も超一流だけど、他人の意見なんてものは聞かないわ。そして、自分に逆らう人間も大嫌い。グランディールも目をつけられていると考えていいわ。今は四ヶ月後……いえ、デレカートとの取引を狙って来るでしょう。別の手段を考えてね」
「というわけで二人はスピティには戻れない。スピティの近くにあるヒゥウォーンに送ることも考えたけど、一度Sランクの町に慣れてCランクに行くって厳しいでしょ」
「……それを考えると、この町に置いてもらえるのはありがたい、としか言えないんだが……もう一度言うぞ、一度この町を売ろうとした俺たちを、どうして迎え入れられるんだ?」
「売ろうとしたなんて可愛いもんじゃないか」
「は?」
目が点のポルティアとナーヤー。
「俺たち、スピティから出てきた町長たちを襲ったっすもんねえ」
「ああ。取り囲んだ俺様たちを見て「町民にならないか」と来やがった」
「正直、町長の正気を疑ったわね」
元スピティ近辺盗賊だった面子がうんうんと頷く。
「ぼく、そんなに怪しかった?」
「当たり前だろ。盗賊の俺様たちを、雇いたいってのまでは百歩譲って分かるとして、町についたら家族も含めて町民にするなんて。しかも町の印まで押すなんて、有りえねえだろフツー。まあそのおかげでこっちは町に住む夢が叶ったんだから、願ったりだけどよ」
「いいじゃん、めでたしめでたしで」
「……元盗賊が、町民に?」
「ていうか過半数が元盗賊」
「はあ?」
「大丈夫、今は悪いことしてないから」
「それで町の評判が落ちるって可能性も」
「その程度で落ちる評判ならいらない」
ポルティア、ナーヤー、唖然呆然。
「で、町民になる? ならない?」
「~~~~~~~~~」
ポルティアは唸るしナーヤーは混乱しているし。
「湯処行く?」
それまできちんと黙っていたアナイナが、ピッと指をあげた。
「アナイナ?」
突然何を。
「お兄ちゃんはこの二人を町民にしたいんでしょ?」
「ああ」
「だったらお湯に入れちゃえばいいのよ。お湯に入っていい気持ちになれば、この町にいようって気になるわ」
「それはいい考えですねえ! わたくしも賛成します」
……アナイナとヴァリエが落ち着いてくれたのはいいんだけど、あんまり仲良くなるとなんか怖い気がするのはぼくだけか……?
思わず第一説教係だったシートスを見ると、シートスは微妙な笑みを浮かべていた。
でもまあ、いい考えではあるよな。
「ちょ、待って、私たち、五日も体洗ってないのよ。湯処の湯を汚しちゃう」
「循環してるって言ったろ?」
「でも」
「大丈夫っす! お湯は綺麗になるっす!」
さあ行こうやれ行こうと一緒に来た面子が二人を引っ張っていった。
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