第60話・見学

「とりあえず見てから」


 こっちも最初からそのつもりです。


 会話の間にアレの「移動」スキルも発動可能になったし。


「グランディールに住まないってなっても、約束は守ってもらう」


「グランディールの場所をか?」


「ううん。それ以上の秘密を」


 ポルティアとナーヤーが顔を見合わせる。


 そして同時にぼくを見た。


「場所が知られたくないんで逃げたんじゃないのか?」


「いやー、場所なんてあってないようなものなので」


「……貴方のスキル「まちづくり」に関係がある?」


「うん、まあ、そう」


「……分かった。貴方には俺たちを助けてくれた恩がある。住まないとしてもグランディールの秘密とやらを明かさないと誓おう」


「私もです」


「ありがとう」


 そしてアレを見る。アレは頷いて「移動」した。


 移動したのは、荒れた土地が斜めになっている場所。雲で太陽が隠れていて、より一層辛気臭く感じる。


「ここは? ここが……まさか、この荒れ地がグランディールと言うのか?」


「言わない。ヴァローレ」


 ヴァローレの瞳が金に光る。辺りをじっくり見まわして、頷く。


「誰も居ない」


「OK。今、呼ぶから、待ってて」


「呼ぶ?」


 見てりゃ分かるので、説明を省いてグランディールを呼ぶ。


「……ん?」


 光が遮られて見上げた二人が口を開けたまま上を見続けている。


 グランディールはゆっくりと降りてくる。


 微かな音を立ててグランディールは水平に着地した。


「はい、グランディールです」


 まだ口が開いている。虫入るぞ。


「……待て、ちょっと待て」


「何を待てばいいか分からないけど待つよ。何?」


「本名はペテスタイ、とか言わないか? この町」


 うん、伝説の空飛ぶ町。浮いてて降りてきたらそっちを疑うよな。


「いいえ。グランディールです。能力はペテスタイをパクったけど」


「パクった?」


 ていうかぼくのスキルの反則技なんだけど。


「とりあえず町の中に入ってしまってくれないか? 何処からか見られてると厄介だからさ」


「お……おお」


 ぼくたちで二人を囲んでとりあえず入る。全員入って、グランディールを浮かせる。


 門につかまって体を固定させながら遠くなる地面を見下ろして、そしてぼくを見て、ポルティア、一言。


「……なんで浮くんだ」


「浮くようにってしたから」


「そんなんで浮くのか?」


「浮いてる」


「すごい……浮いてる……飛んでる……」


 ナーヤーが呆然と呟く。


「とりあえず、町の中、見る?」


「……あ、ああ」


 恐る恐る歩き出す二人。わたわたと手を泳がせて、ぼくの両方の肩につかまる。


「……大丈夫だって、落ちない」


「分かってても落ち着かない!」


「お願い、掴まらせて!」


 しょうがないなあ。


 ぼくは少し歩くスピードを落として案内を始める。


「まず、ここら辺が町の中心部ね。正面に見えるのが会議堂。町についてのことはここに集まって話し合う。あとは家具のイメージを固めたりとかする場所でもある」


「これはまた、立派な……人口二〇人の町にこんなものが……」


「で、周りにあるのがみんなの家」


「こんな立派な家……どうやれば作れるの……?」


「えいって、気合で」


「作れるわけないでしょ!」


 作れたんだからしょうがないよね。


「で、あっちにあるのが水汲み場で、それからあれが湯処」


「湯処まであるの?!」


「男女分かれてます。湯が循環しているので昼間だろうが真夜中だろうがいつでも入れます」


「そこまで?!」


 湯処を持っているAランク以上の町の中には、場所がなくて混浴、あるいは時間で男女別になっている所もある。お湯を確保できなくて決まった時間に決まった人数だけ、という所もある。つまり、あれだけ広い湯処で男女別でいつでも入れるなんてまずありえない。


 そのありえないがあるんだから驚くだろうなあ。


 湯が循環しているのはシエルの思いつきだけど、そのおかげで寝苦しくて目が覚めて湯を浴びて寝なおすというもんのすごい贅沢もできる。


「で、あそこが家具工場と縫製場。と言っても中身空っぽだけど」


「はい?」


「説明はあとでするね。とにかく町の人間の着るものと売り出す家具はあそこで作ってるってこと。で、あっちの緑が牧草地と家畜小屋」


「…………」


「向こうが畑」


「……牧草地の向こうの崖は」


「陶土の取れる崖。時々山羊が上ってる」


「…………」


「待て、待て、おい、待て」


 ポルティアがこめかみを抑えながらぼくの前に手を出した。


「人口二〇人の町でこの設備ってありなのか?」


「あるんだからしょうがない」


「うん、最初驚くよな」


「生えてきた時は心臓が止まるかと思った」


「待って、生えてきたって何が? どういう意味?」


「そうとしか言えない」


「なあ」


 元スピティ盗賊団のみんなが顔を見合わせて苦笑する。


 慣れちゃうとこれが異常現象なんだって思わなくなるよな、ほんと。


「で、設備はこんなとこ。移住するって決めたら家が出来るから、そこに住んでもらって全然構わない。家は自分の好きにしていい。町の設備も自由に使ってもらって構わない。町のことを外の人間に話さない、って言うのが今のところ唯一のルールで、それ以外は常識に照らし合わせてくれればいい。こんな町で良ければ、町民になってくれると嬉しいんだけど」

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