第59話・実はスカウト

「あなたも、逆らえなかったんですね?」


「……ああ」


 家具の町スピティの門番は大体どこかの商会と繋がっている。新しく町に入ってくる家具を鑑定して、良い家具を自分の商会に持っていく。フリーだったポルティアは、ぼくらの持ってきた家具を見て、最大の評価をして、大商会二つに繋いでくれた。でも、その裏でピーラーと繋がっていたんだろう。多分相当売り込んだはずだ。でなければ「新人潰し」の異名を取るほど新人好きな取引相手でも、一つの商会で四ヶ月かかる注文をするなんて真似はしないだろう。


「ピーラーはいい取引相手だった。無茶は言うが、それに相応する報酬はもらえた。だから、あの日、ピーラーにあなたたちの後を尾行しろと言われても疑問に思わなかった。ピーラーは気に入ったものは何でも手に入れたがるから」


「ピーラーの愛人兼使用人のナーヤーと俺、二人がかりの尾行で、見つけられないものはなかった。……今までは」


 ポルティアは渋い顔をした。


「多分、スキルなんだろうが、どうやって俺たちの目を眩ませた?」


 ぼくは素直に話した。


 ぼくのスキル「まちつくり」で、町とも言えないこの門と塀を作り、時間稼ぎする間に「移動」のアレがグランディールに行って「鑑定」のヴァローレを連れてきて、スキルを察知、それを捨てて、町の塀だけ残して「移動」で帰ったと。


「「鑑定」「移動」……スピティにもそうはいないスキルだな。なんで出来たばかりの町があんな家具やスキルを……いや、それが「まちづくり」のスキル……?」


 ポルティアはぶつぶつと考えている。フリー門番やれるくらい頭の切れる人だ、判断も早い。


「で、わざわざ俺たちを助けに来たのは、ピーラーの情報を得たいのか?」


「いいや、情報はいらない」


 ポルティアは渋い顔をした。ここでピーラーを売って、自分たちを安全な場所に送ってもらおうと思っていたんだろう。取引の種を失ったと思って。


「うちは「知識」があるから。必要な情報は安全に手に入る」


「……そうか」


「実は、別の話が合ってこっちに来たんだ」


「別の話?」


「ああ。……うちの町に来ないか?」


「は?」


 きょとん。


 そんな擬音がしたと思うほど、ポルティアもナーヤーも丸い目を見開いてこっちを見た。


「グランディールに?」


「そう」


「お前……正気か?」


「こんな話が出来る程度には正気なつもりだけど」


「俺たちは、ピーラーに頼まれて、お前らを追って来たんだぞ? グランディールの場所を見出すために」


「知ってる」


 でも、切られたんだろ?


 そう言うと、ポルティアもナーヤーも頷いた。


「ああ、切られた、切られたが」


「なら問題ないじゃないか」


「俺たちが他の連中に知らせるという可能性は?」


「ないだろ」


 言い切ったぼくにポルティアは目が皿のように丸くなっている。


「それに、うちには「法律」ってスキルがあるんだ。町民に決まり事を守らせるスキル。今のところ、うちにある「法律」は、町民以外の人間の町のこと……特に場所を話さないこと、って言うことが決まっている。……破ったらどうなるかは分からないけれど。破った人いないから」


「何故……私たちを?」


「ん~、正直に言うと、うちの町、人が少ないってのがある」


「少ないって……どれくらい」


「二〇人?」


「少なっ」


 思わずポルティアが呟く。


 そう。ヴァリエはまだ正式に町民じゃないから、子供除いてぼく入れて二〇人。グランディールの家具というブランドがなければ、町ではない、村だと言われていただろうね。それだけうちは人がいない。


「しかも、ほとんど元盗賊」


 これにも唖然とした表情の二人。


「それに、町から引っ越し希望者を集めると、町の秘密が色々と漏れやすくなる。だから大っぴらに町民を募集できない。だから、放浪の、良さそうな人に声かけて、うちに来ないかって誘ってる」


「で、俺たちも?」


「そう」


「だけど俺は家具作れないぞ。「家具鑑定」ならあるが、既に「鑑定」がいるグランディールには不要だろう」


「私の「跡追い」も、……ここへ真っ直ぐ来たということは、同じようなスキルの持ち主がいるのでしょう? 今更、声をかけなくても」


「ぼくが集めているのは、スキルじゃなくて人だから」


「……人?」


「そう。人。スキルはどうでもいい。住みたいって言ってくれる人なら、誰でも」


「……本気か?」


「本気も本気」


「……正気を疑う」


「なるほど、町長は町民スカウトの為にここに」


 ヴァリエが納得顔で頷く。


「わたくしはまだ町民ではありませんが、グランディールはいい場所ですよ」


「お兄ちゃんが作った町だから、最高に決まってる」


「スキル「まちづくり」か……」


 ポルティアは唸って、眉間にしわを寄せて、それから言った。


「もう俺はスピティには戻れない。ナーヤーもピーラーの付き人を捨てられて変える町はない。だが、この目で確認して決めたい。町を見てからで、いいか?」


「もちろん!」


 二名様グランディールにご案内。

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