第43話・仮面

 ヴァリエとアナイナ、厄介者二人を噛み合わせて追いやることに成功。その逆で気が合いすぎると厄介が二倍どころか十倍になりそうな気がするけど、考えないことにする。


 とりあえず試すことは、「町長らしい振舞い方」がスキル「まちづくり」の中に入っているか。「まち」を「つくる」んなら、町長だって町の一部、町長を創り上げるスキルがあっても不思議じゃない。


 で、ぼくより年上は全員スキルを扱い慣れた先輩なので、スキルの中の新しい力を目覚めさせる方法を色々聞いてみて。


 返ってきた答えは「分からん!」だった。


 そこを何とかと聞いてみると、「なんとなくしようと思ったらできた」。……そんなわやわやな。「多分スキルレベルが上がった時だと思う」。……真似できない方法を言わないでくださいもうレベル上がらないんです。「やれるはずだって言う思い込み」。……スキルて思い込みで何とかなるのか?


 結局「やれば何となくでできる」というのがみんなの答えだった。


 どうしろと。


 やればできる……できる……できる。


 それでふと思った。


 もしかしてぼく、既に、できてるんじゃ?


 なんでそんなことを確信したかというと、スピティでトラトーレやデレカートと話し合っていた時のことを思い出したから。


 何か精神が集中して、話を聞いて、アパルやサージュのフォローを受けながら、町長らしい顔をする。それを二人は後々「初めてとは思えない」「上出来」と言った。今までおままごとでもやったことのない偉そうな態度。それができていた。トラトーレやデレカートの前では。


 町長の仮面をつけてるってイメージしろと言われたけど、もしかしてそれは既にあって、ぼくはスピティで無意識の内に町長らしい振舞いをしていたんじゃなかろうか。


 アパルは……まだ会議堂か。


 よし、町長の仮面をつけて再チャレンジ。


「たのもー」



 そして。


「……完璧だ」


 アパルが唸った。


「食事作法としてはこれ以上ない程完璧。一回試した時はあれだけグダグダだったのに、一体どんな魔法を使ったんだ?」


「魔法じゃない。スキルだ」


 あ、やっぱり言葉遣いも変わってる。


 仮面を外すイメージをして、アパルを見る。


「仮面を被るってイメージで、前から出来てたみたい」


「出来てたのかっ?!」


 はい。やってみたら出来てました。


 偉そうな態度とか苦手意識があったんで、仮面をつけるってイメージで表向きの町長の顔が出来るようになっていたんです。はい。


「思い出して見れば、町長の仮面をつけたってイメージのぼく、何か不必要なまでに偉そうな態度してたしマナーで失敗することもなかったし」


「町長の育成も町づくりの一環か」


 多分。


「ただ、あんまりつけたくない」


「何故だい?」


「ヴァリエみたいのが喜びそうなタイプだから」


 あー、とアパルが表現しづらい表情をする。


「古今東西偉い人間の顔は同じってわけか」


「うん。ぼくも仕事って割り切った時以外つけたくない」


「今のところスピティでしかつける必要は……ああ、ヴァリエを止める時も必要か。とにかく、付けなければならない時間と場所は限られてるから、仕事として割り切れ」


「うん。マナーとか全部この「町長の仮面」に入ってるみたいだから、オンオフ切り替えはちょっと意識すればできるみたいだし」


「しかし便利だね「まちづくり」。町に関わることだったら何でもできるのか」


「分からないけど、多分まちづくりで行き詰まったらスキルを探ってみると出て来るっぽい」


「……つくづく便利というか卑怯技だね」


「使えるものは使うよ、ぼくは」


 SSランクのエアヴァクセンを負かし、町長ミアストを泣かすためなら。


 過去一つしかないSSSランクの町とするためなら。


 その為ならどれだけでも努力するよ、ぼくは。


「とにかく、今日は疲れただろう。湯処へ行って、ゆっくり眠りなさい」


「うん、そうする」



     ◇     ◇     ◇



「あ~ほぐれる~……」


 湯処の広い湯船に浸かって、まったりするのが気持ちいい。


 今の時間はみんな食事とかだから湯処に人の姿はない。手足を伸ばしてのんびりできる。


 まさか男湯にはアナイナもヴァリエも特攻をかけては来ないだろうしな。


 ふやけるまでまったりしよう。今日は疲れすぎた。


 その時、ぎぎぃ、と更衣室側からドアが開く音がした。


「ん?」


「あー町長。来てたか?」


「アレ」


 アレも体を流して湯船に浸かると、ぷひーと息を吐く。


「今日はお疲れ様」


「町長こそ、お疲れさん」


 背掛けに寄りかかって、アレは息を吐く。


「初めて使った時も思ったけど、湯処っていいな。何か……こう……」


「体がほぐれる?」


「そう、それそれ」


 アレはんーと体を伸ばした。


「こんなものがあるところに住めるとはちっとも思ってなかったよ」


「グランディールはまだランク付けされてないけどね」


「ランク? んなもんいらん」


 アレは一旦顔の半分まで沈んでから浮かび上がってきて、言った。


「オレの住む町はグランディール。一つしかないから比べる必要はない。グランディールがこのままあってくれればいい」


「アレ……」


「感謝してんだぜ町長。こんな素晴らしい町を造った上に、オレたちを住まわせてくれてんだからな」


「そっか」


 ぼくの顔が緩むのを感じた。


「そっか……」

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