第41話・新人潰しの注文

 ヴァリエとか言う女騎士をアナイナに預けて、ぼくはシエルを呼んでサージュ、アパルと共に会議堂に入った。


 ヴァリエは涙を流してご一緒したいと願ってきたけど当然却下。ぼくはまだ彼女を町民と認めていない。家ができてないのがその証。町民ではない人間を町に関する相談に入れるわけにはいかない。


 で、話し合いというのは当然スピティのトラトーレ商会からの厄介な依頼……厄介俳優ピーラー・シャオシュがねじ込んできた巨大ベッド。


「まったこりゃ……厄介な依頼をねじ込んでくれたなあ……」


 設計図を見たシエルがガシガシと頭を掻く。ものづくり系ということでファーレとポトリーも入っている。


「かなり大きいわね……壁に穴をあける気?」


「いや、ベッドを見てから建物を決めるそうだ」


「つまり気に食わなきゃ難癖付けられて押し返されるか」


「でも押し返されてもこっちは損しないだろ」


「まあ町スキルって言うか反則技で作ってるから材料費も製作費も何一つかからないからな。戻されたら名声は落ちるが、トラトーレ氏も無茶な依頼って知って振ってきたんだろ?」


「うん。了解したら本当にほっとした顔してたし。こっちに戻ってきても本当にベッド囲むみたいに家作っておいとけばいいかなーと思って引き受けた」


「おい、テキトーだな」


「テキトーにしとけばいいよ。無茶を言ったのはピーラーで、トラトーレさんも渋々受けたんだし」


「いや、テキトーはオレのプライドが許さねえ」


 シエル、燃えてる。


「グランディールのデザイナーとして、手ェ抜いた物は作りたくない」


「じゃあ本気で作るの?」


「本気に決まってるだろ。グランディールの名前がつくものに手抜きはありえない」


 シエルは巨大ベッドの設計図と睨めっこ。


「この大きさだったらもっと足が太くないとダメなんじゃない?」


 ファーレ、ものづくりスキルの持ち主として冷静な判断。


「強度考えて設計したのかなこれ。単に個人の意見を詰め込んだだけじゃないか?」


 ポトリーも眉間にしわを寄せる。


「それはそうだろ、敵は「新人潰し」だ」


「サージュ?」


 割って入って来た旦那にファーレが続きを促す。


「「知識」仕入れたんだがな、ピーラー・シャオシュは新し物好きで、ちょっと目の出た才能のありそうな作家にしょっちゅうオーダーするんだと。それ自体は別に問題がないんだが、「自分の見込んだ作家ならこれくらいできるだろう」と、その道うん十年のベテランでも断るような無茶な直接注文をする。受けた作家はこの大チャンスを何とかものにしようと頑張るが、結局無理が祟って潰れるパターンが多いらしい。それでついたあだなが「新人潰し」。本人は親切のつもりだから質が悪い」


「あら……潰しに来ていると思ったら、違うのね」


「親切のつもりならもっと使い道のあるもの頼めよ」


「使うらしいぞ」


「こんなデカいベッドを?」


「トラトーレ氏は、多分愛人を囲う別荘に置くんだろうと」


「うわ……」


 ポトリーがおえっと吐く真似をする。


「よし、やったろうじゃないか。ベッドに合う建物が作れませんって先方が泣きを入れてくるようなものを」


 逆にシエルは燃えている。


「じゃあ、実体化する時まで任せていい?」


「おう。任せろ。最高の逸品を作ってやる」


 こうなったシエルは本当に最高の物を作ってくれるから頼もしい。


「町長ー」


「ソルダート? どうしたの?」


「町の動きが止まったんだが、目的地についたんじゃね?」


「そっか。ありがとう教えてくれて。でもしばらく下には降ろさない」


「別に降りなくても問題はないけど、何か理由でも?」


「女騎士……ヴァリエが逃げ出さないために」


「なんで?」


「グランディールが空を飛ぶって知ってるひとだよ? ほっぽり出して見ろ、「我が君は空飛ぶ町の町長」とかなんとか言い出して、やっと動き始めたばかりのこの町が変に注目浴びる。押しかけてくる奴もいるだろう。それは避けたい」


「あーなるほど。物好きが大勢集まるか」


「ぼくらが目指すのは、誰でも来れるSSS、エアヴァクセンを超える町なんだ。その為にやらなきゃならないことは多すぎる。だから、今のうちだけでも面倒が発生しないようにしとかないと」


 了解と頭を指で叩いてソルダートは部屋を出る。多分空に浮いている今でも門に詰めて、出入りの可能性があるヤツ……飛空獣や空飛ぶスキル……に注意するんだろう。言葉遣いは悪いけど彼に悪意はない。むしろいいやつだ。


 ベッドは四人に任せてぼくは会議堂を出る……と。


「はい待った」


 アパルがぼくの肩を掴んだ。


「何?」


「都合よく忘れたか、忘れた振りをしているか」


「何が?」


「前者の方だね、町長、食事の作法の時間だよ」


 げ。


 ヴァリエの一件で忘れてたのに!


「い、いや、ぼく、結構疲れてるから、昼寝でもと」


「基本を学んでからね」


「な! なら! アパルに印を渡すから!」


「この町の町長は君だよ」


 会議堂に視線を巡らせてフォローしてくれそうな人を探す。


 ……誰も居ない。


「はい諦める。作法を覚えなきゃ話にならない」


 ずりずり引っ張られていく。ずりずり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る