第31話・社会の在り様

「だって、お前がこの町の在りようを決めたんだろう?」


「在り様?」


「どんなスキルでも、どんなスキルレベルでも受け入れるって」


「ああ。だって」


 空を見上げながら呟く。


「ミアストがそれで大失敗してるじゃないか。ぼくやシエルなんかで」


「まあな」


「それにスキルで人間決められても、いいスキルの持ち主がいい人とは限らない。スキルレベル高い人たちで俺が一番私が一番なんてギスギスしながら暮らすより、レベル低くてもできることがあってそれでほかの人のサポートをして、ニコニコしてられる方がよっぽど町としては良くない?」


「それな」


 ピッとヴァダーがぼくを指した、


「何が?」


「お前の考え方」


「考え方って……そりゃ異端だとは思っているけどさ」


「異端? そんなもんじゃない」


 ヴァダーはぼくを指したままニッと笑った。


「多分、スキル以上に反則だ」


「……反則……?」


 反則って……なんだ? 世界の常識からかけ離れた考えだってことは分かってるけど……。


「分かってないなあ」


 ヴァダーは苦笑した。その顔が随分と若く見えて、そこでぼくはヴァダーがぼくと三つしか違わないことに思い至った。アナイナを除けば、多分一番ぼくと年が近いだろう。


「分かって、ないって?」


「うん、分かってない。お前の考えが、どれだけ周りに影響を与えてるか」


 …………?


「自覚なしかあ」


 ヴァダーは呆れたように半身を起こして笑った。


「お前のその考えが、今このグランディールを率いているんだ」


「はあ?」


 思いもよらない言葉に、ぼくは思わずヴァダーに詰め寄る。


「何処が? 何が? どうして?」


「あのなあ、エアヴァクセン、元SSランクの追放者って、どんなものか知ってるか?」


「は?」


 ぼくは疑問しか出ない。


「追放されて、次の町が見つかることは、まずない。たとえ追放先の町を紹介されていても、だ」


 ヴァダーはもう一度寝転がる。


「なんせ、SSランクを知ってる。一度でもいい生活を味わった人間ってのは、もっと、もっとと上を求めるのに、ランクが一つ下がっただけでも我慢できない……つまり、生きてけないんだ。Eランクの町なんか町だとも思ってない放浪者もいた」


「…………」


「プラス、プライドが滅茶苦茶高いってのもあるんだ。これ以上生活を落としてなるものかっていう見栄もある。スピティの一同と、俺たち。初めて出会った時、違いを感じなかったか? ……俺たちと、あいつらの」


「違い?」


 一ヶ月くらい前の記憶を探る。


 反エアヴァクセン盗賊団と、スピティの人たちとの違い……。


「あ」


 二つの絵を頭の中で並べて、気付いた。


「何か、エアヴァクセンの方が、小ざっぱりしてた」


 スピティのみんなに会った時、なんか、髪の毛がねばねばしているように見えた。革鎧も手入れされてなかったし。本人たちもそれを気付いていたようで、家に入る前に体を洗えるところを……と言ってきていた。


「そう、それ」


 ヴァダーは肯定する。


「盗賊やるのに、体洗う必要はない。武器も食い物も奪えばいい。反エアヴァクセンなんて掲げる必要すらない。なのに俺たちはエアヴァクセンに拘り続けた。何故だと思う?」


「エアヴァクセンに……戻りたかった?」


「正確に言えば、エアヴァクセン以上の町に」


 ぼくは横を向く。


 ヴァダーは空を見ながら笑っていた。……苦笑していた。


「もう落ちるところまで落ちたってのに、まだ天国のような暮らしが忘れられない。湯があって、食い物の心配もなく、寝る所も着るものも何の心配もない。そんな生活に戻りたくて仕方ないんだ。例え盗賊に落ちたとしても、キレイな服は着たいし頭も体も毎日洗いたい。ウマいものも食いたい。なのに、プライドだけが高くって、ランクの低い町に行くことを拒絶する。そういう、どうしようもない放浪者になっちまうんだよ、SSランクの追放者ってのはな」


「……」


「そんな俺たちの目を覚まさせてくれたのが、お前だったんだよ、クレー」


「ぼく?」


 ……何かしたっけ?


「俺たちに話した記憶がないから覚えてないんだろうな。アパルが教えてくれたんだ、サージュを口説きに行った時のことを」


「サージュを?」


 あの時、何かあったっけ。


「お前が望むのは、スキルもレベルも関係ない。みんなが笑って過ごせる町」


「うん」


「町に入れない役立たずなんて、いないと言った」


「言ったような……」


町長ミアストはスキルがあいまいだったりレベルが低かったりすると追い出すが、エアヴァクセンを追い出されて、お前は思った。スキルのレベルや種類で町民を決めるなんて、間違っていると。……スキルがなくたって、人はちゃんと作れるし耕せるし生きていけると」


 ふぅ、と息継ぎをして、ヴァダーは続けた。


「スキルで成り立ってる社会を、お前は変えると言った」


 ふっと、あの時のサージュさんの呆気にとられた顔を思い出した。


「グランディールで。不要とされたスキルの人たちを集めて。みんなが笑って暮らせる町を造る。もしそれがSSSランクの町よりいい町だとみんなが思ったら、それは町長ミアストや、あちこちの権力者の考えが間違っているって証明になると、思う……」


「言ったね、そう言えば」


「俺たち、ショックだったんだぜ」


「ショック?」


「町を追い出されたばかり、十五の新成人が、社会を変えると言った。俺たちが不貞腐れてエアヴァクセンに研がれてもいない牙をむいていただけだったのに、レベル1のスキルを武器に社会に立ち向かうと言った。ランクもレベルも関係ない、全部を受け入れて、最高の町にする、そう言った」

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