第29話・愚か者

「でも、町のキャパ超えたらどうするんだ」


「あ。それは大丈夫」


 ティーアの質問に手をひらひらさせる。


「増えた分広がるみたいだから」


「は?」


 ぼくがまともなことを言ったのか、と疑う視線。


「多分、町民として迎え入れるって決めた瞬間に、家のスペースも畑のスペースも何か必要なもの置く為に広がるんだ」


「広がる?」


「うん。町も最初の頃から比べれば随分大きくなった」


「広がり続けたらどうなるんだよ」


「広い場所に移動する」


「はあ?」


 今度はヴァローレも入って来た。


「移動って……この町動くのか?」


「動く。ていうか、飛ぶ」


「…………」


 ティーアもヴァローレも身動き一つしない。


「…………飛ぶ?」


「うん、飛ぶ」


「待て。ちょっと待て」


 ヴァローレが片手でぼくを制し、残った片手で自分の眉間のしわを撫でた。


「そうだな、エアヴァクセンからスピティまで、結構な距離がある。クーレやこの町にいたのがエアヴァクセンの人間ばかりと考えれば、あの速さの牛車では半年はかかるだろう。だけど」


 眉間のしわが深くなる。


「普通町は空飛ばない! 飛ばないから!」


「普通じゃないから」


「伝説のペテスタイじゃあるまいし」


「町であるペテスタイにできるなら「まちづくり」のスキルで再現できるっぽい」


「再現、できる?」


「うん。だから飛んできた」


 ヴァローレが泣きそうな顔でエアヴァクセン出身組を見る。


「……飛ぶの?」


 ある者は苦笑を浮かべ、ある者は憐れむような顔。ある者はうんうんと同意の頷き。


「……飛ぶんだ……」


 ヴァローレは顔を覆った。


「伝説であっても町ができたことであれば再現できるわけか?」


 ティーアが確認するように聞いてくる。


「試したことはないから分からないけど、ペテスタイができたってことはそう言うことなんだろう」


 ヴァローレ、両手で顔を覆ったまま動かない。


 ティーアは天井を仰いで動かない。


「……まあ、普通な反応だな」


 マンジェが頷いた。


「お兄ちゃんの作った街に何か文句でモガっ」


 喧嘩を売り始めたアナイナの口を塞ぐ。


「でも、世界中どこにでも、町から出ずに行けるよ」


「……そうだな」


 ティーアは何とか考えを切り替えたんだけど、ヴァローレが戻ってこない。


「海底の町ズプマリーンも再現可能?」


「まだ海に行ってないから分からないけど、多分」


「……なぜエアヴァクセンの町長はここまで有益なスキルを追い出した?」


「上限レベルが1だったから」


 はーっと大きく息を吐いたティーア。


「確かエアヴァクセンの町スキルは「価値」だったような気がするが」


現町長ミアストに変わってから低レベルってだけでかなりの数追い出された。あとは言うこと聞かないとかレベル上限行ってこれ以上スキルが動かないみたいな人も」


「片手の指の数もないSSランクの町がそんなことやってたら潰れるだろいずれ」


「潰れる前に越えたい」


 ぼくの言葉に周りのエアヴァクセン組がうんうんと頷く。


「目指すはSSランク?」


「いいや、SSS」


 五十年前の謎の滅亡を迎えるまでは最強の町だった「富める強国」ディーウェスしかいないSSSランク。


 どうせ目指すならそこまで目指そう。


「大きく出たな!」


「走り出しがよくないだろ、盗賊上がりばっかりだ」


「好きで盗賊やってたの?」


「まさか。町から追い出されて食っていく道がなかったからだ」


「じゃあいいでしょ」


 ぼくはあっさりと返した。


「住む場所があって服があって食べるものがある。何も問題ない」


「確かに、人を襲う必要はない」


 ティーアさんは髪の毛をガシガシやりながら唸った。


「だが、盗賊上がりってだけで町の評判は落ちる」


「盗賊上がりだってことを忘れるほど別のことで有名になればいい」


 ぼくは視線をアパルとサージュに向ける。二人が頷くのを確認して、ヴァローレとティーアに向き直る。


「事実、エアヴァクセンから追い出され盗賊上がりばかりのグランディールが作った家具は大人気」


「言ってないからだろ」


「言う必要はあるの?」


「ないな」


 ぼくの問いかけにマンジェさんが肩を竦める。


「この町の「法律」で町のことを町の外で語るなってことになってるから町の外へは漏れない。もっと有名になって他の町が調べるようになればバレるかも知れないが、その頃には家具は既に定評になっている。他の町がグランディールを上回る家具を作れなければ評判が落ちることはない」


「そんな頃には別の物も有名になっているだろうしな」


「……別の物?」


「布、服」


 やっと戻ってきたヴァローレにシエルはあっさり答える。


「綿ができることは分かってる。服もできる。町民の為に無料で家具ができてそれを売ることができるなら、服や布だってできるに決まってるじゃないか」


「……町で作れるものなら何でも作れるし何でも売れる、そういう判断でいいか?」


「ああ」


「……反則というか卑怯というか……」


「追い出したミアストが愚かなのじゃ」


 ヒロント長老が呟いた。


「SSSを目指しておきながら、低上限レベルを自分の思い込みで追い出す。有力なスキルでも所有者が気に食わなければ追い出す。多分エアヴァクセンにはスキル学を教える者がいないか追い出されたか。サージュも追い出されたのだから後者じゃろうて」

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