第27話・町の成長
それからが結構大変だった。
新住民たちは新しい家にひとしきり
心配性で皮肉屋のマンジェがこの町の所在地を売るんじゃないかと心配していたけど、その必要はない。
町のことは町長の許可なく他言しない。場所も教えてはいけない。アパルの「法律」で決まっている町民の守るルールは今のところこれだけ。だけど「法律」なので背いたら反動が来る。どんなかはよく知らないけど。
彼らは数刻もしないうちに大量の荷物と一緒に戻ってきた。
ティーアの奥さんと娘さんと息子さん、アグロスの妹さん、ヴァローレの娘さん。この五人が追加だった。
もちろん五人とも契約書を交わし、この町のことを教えないという法律を守ってもらう。しかし子供三人はそんなこと聞かずにまっしぐらに牧草地にダッシュしていった。……気付かれないように森の奥地に住んでいたっていうから、広くて障害物のない場所が珍しいんだろうな。
その他に、ティーアが捕まえて奥さんのフレディが懐かせた獣たち。
野牛が五頭、野豚が十頭。鶏が十の
一気に賑やかになったな。ていうか「動物親睦」つまり動物を懐かせるってスキル、森の中にいたら色々便利だな。
先住の家畜たちと喧嘩しないように言い聞かせてとお願いして牧草地に放す。あまり下草のないところにいた野牛たちが猛然と草を
「それと、頼みがあるんだが」
「頼み?」
「汚れていい水場はあるだろうか? さすがにこの
「そうだね、服もいるし、
服を作るのは縫製所か。湯処……町民が集まって湯につかり汚れを落とす場所……はランクの高い町には必須なんだよな。住民が不潔な町はそれだけでランクダウンの可能性もあるから設備投資が大きいって聞いた覚えがある。
「じゃあ念じてみよう。縫製所と湯処」
「デザインは任せろ」
門を閉じて入って来たシエルが笑顔を見せる。
「いや、まず縫製所からだからね?」
「縫製所もセンスのいいのにしてやるよ」
グランディールのセンス担当が胸を叩く。
「とりあえず、今ここに居る人」
ぼくが声をあげる。
「縫製所と湯処をイメージして」
「いや、イメージしろと言われても」
「そんな所のある町に住んでたことないよ」
「……じゃあとりあえず、服ができる場所と体洗える場所って念じて」
エアヴァクセン盗賊団はエアヴァクセンの出身なので当たり前のように縫製所や湯所を知っているけど、スピティ盗賊団は結構あちこちの放浪者や追放者の寄り集まりで元住んでいたランクもそこまで高くはないらしい。
「とりあえず、服! あと、湯処!」
町の一部分が膨らんで、にょいっと広がり、その跡に建物が建った。
片方は縫製所。もう片方は平屋の建物。
「ちょっと待ってろ」
シエルが頷いて、縫製所の中に入っていく。
戻ってきた。
「やっぱりできてた」
大量の服が出てきた。
「あんたらのと……オレたちのもあるな。下着もついてるけど一応女性の下着は自分で持ってきてくれ」
女性陣が入っていく。あ、いつの間にかアナイナもいた。
「着替えと湯処ができたなら言ってよ! わたし身体痒くなってきたんだから!」
「ああはいはい」
「湯処は……」
服を取り合ってすったもんだしている住民たちを後に、アナイナとシエルが向かう。ぼくもついていく。
ドアを開くと、男処と女処が分かれている。とりあえず女処はアナイナに任せ、ぼくとシエルで男処に入る。
広い、大理石らしい石材で造られた、天井は低いけど広々とした空間。その半分ほどが低い段差になっていて、そこにお湯が入っている。手を突っ込んでみたけれど、熱すぎない心地いい温度。残った半分は天井から湯が流れ、その下で体が流せるようになっている。
そして。
「お湯を常時綺麗に循環させるようイメージしておいたから」
何とも行き届いたシエルの丁寧設計。
外に出ると、新旧取り混ぜた町民たちが自分の新しい服や下着を持って待っている。
「どうぞー」
どどどどど、と駆け込む町民。
「……オレたちも行くか?」
「う~ん……ひと段落ついてからにする」
◇ ◇ ◇
ぼくたちも含めて全員さっぱりしたところで、ぼくやアナイナ、元エアヴァクセン盗賊団の一味、ティーア、ヴァローレが、新しく作った会議部屋に集まった。
スピティであったことの報告。ティーアとヴァローレには随時修正を入れてもらう。
「トラトーレ商会とデレカート商会か!」
シエルが目を丸くする。
「うん。シエルのデザインが効いたみたい」
「そうだろそうだろ、はっは!」
「で、見本家具二つがそれぞれ五十万テラで売れた。デレカート商会から新しい家具の注文が入ったのでもらってきた」
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