第19話・町スキル
次にできたのは、シエルさんデザインのテーブル。
つやつやして木目のはっきりわかる木材で作られたテーブルは、思わず頬ずりしたくなるほど手触りもよかった。
「オレの才能は空中だけじゃないのさ」
「うん。すごい。このテーブル、欲しがる人いっぱいいると思う」
「高すぎて買えない連中がわんさといるな。最初の内は」
マンジェさんが呟いて、チラリとサージュさんを見た。
「こんなもんをぽんぽん作ると、価値も下がるし、たかられる。その辺のところは考えてあるのか?」
マンジェさんは皮肉っぽい言い方を好むけど、言葉は芯を突いている。確かに、最初は高級さと物珍しさから売れるだろうけど、同レベルの品物がどんどん出てくれば価値は落ちる。
「グランディール独自のスキルでできると言えばいい」
サージュさんはちゃんと考えていた。
「一つの家具を作るのに二ヶ月。スキルを結集させて作る家具。だから二ヶ月に一回、一つの家具。それだけの注文しか受けられない」
「ふむ」
ヒロント長老が頷く。
「町スキル、ということにするのじゃな?」
「そう。実際町スキルなんだから教えるわけにもいかないし」
町スキル。
それは、町の特色。住民のスキルを組み合わせたりして作り出す「何か」。
今話題に上っているスピティは「家具」。家具を作るだけでなく、家具の価値まで見抜く。家具スキルを持っている家具職人が大勢いて、町スキルになっているんだろう。
エアヴァクセンは「価値」。ぼくの鑑定式でスキルを見た鑑定士さんを代表とするスキルを組み合わせて(と言ってもどう組み合わせるかは町に永住する住民だけに教えられるので、仮住民だったぼくは知らない)品物などに価値をつける。エアヴァクセンは物や人などに価値をつけるのを得意とする。その代表が鑑定式。他の町はあそこまで露骨にレベルで人を追い出すことはない。小さい町や寄り合いはスキルがなんであれ受け入れることもある。
「エアヴァクセンの「価値」レベルが下がってくれるとありがたいがな」
アパルさんは悪い顔で笑った。
「と言うか、スキル落ちてるんじゃないか? クレー町長っていう、一番役に立ちそうなスキルを上限レベルだけ見て追い出すなんて」
ヴァダーさん、不思議そう。
「ああ、それは
当たり前のように言うサージュさん。
「エアヴァクセンの代々の町長が積み上げてきた町スキル「価値」がどんな力なのかを、自分好みで、しかもSSSランクにしたいがために見誤っている。目に鱗が何百枚も貼りついているんだろう。自分が追い出しているのがどんな力かを分かってない」
「だな」
シエルさんが端的に頷いた。
「だけどさ、お兄ちゃんのスキルが「まちづくり」なのに、なんであいつお兄ちゃんを追い出したんだろ。追い出してお兄ちゃんが町を造ったら立場まずくない?」
「舐めてんだろ、あとは勉強不足」
マンジェさんが悪い笑顔をした。
「こんなガキにエアヴァクセンを超える町が造れるわけない……なんて……思い込み……なんだから、耳引っ張るな放せ、ボクの意見じゃない」
「アナイナ、人の耳を引っ張るのは失礼だ」
「だってこいつがお兄ちゃんのことをガキって」
「思ってるのは
「おお痛……。あとはレベルが既にMaxで、これ以上成長しないという思い込み。
「ああ。低上限レベルのリスクとメリット、リスクの方しか見ていない。実際はリスクをはるかに超えたメリットがあるのに」
サージュさんとアパルさんが揃って頷く。
「まあ俺たちはクレー町長はミアスト町長からの贈り物だとありがたくいただいて、エアヴァクセンを超える町を造ろうとしているわけだが」
「じゃあグランディールのとりあえずのスキルは「家具」?」
「町が大きくなっていけば、別のスキルも付けられるだろう。現在、
食糧、燃料と言った生死に関わってくる分野から家具、装飾品と言った贅沢品まで、町のためならばほぼ何でも作れる……とサージュさんは楽しそうに指折り数えた。
確かに……応用の利く町だな、グランディール。自分で作っておいて何だけど、ほぼ何でもありの町になる。
「じゃあとりあえず、向かうのは北?」
「ああ」
サージュさんが「知識」でスピティまでの地図を作りながら頷いた。
「もちろん、移動中のグランディールの存在は隠す。空飛ぶ町なんて知れたら、何が起きるか分からない。北街道の北に放棄された町があるから、とりあえずそこに置こう」
「北かあ。寒いんだろうなあ」
マンジェさんとヒロント長老、
「今の時期なら朝夕少し冷える程度だよ。薪と暖かい布団を町にお願いするんだな」
アパルさんが笑って言い、マンジェさんと長老は必死で祈り始めた。うん、確かに寒いのは嫌だよな。ここでぼくのスキルを使わない手はない。
「あー、俺も用意しとこ」
「オレもだ」
薪、と、暖かい布団。
みんなが念じるそれを、それぞれの家に。
お。
手応えあり。
「準備ができたようだから、町長、北へ向かってくれ」
何より精密な地図を辿りながらのサージュさんの言葉に、ぼくはグランディールを起動させた。
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