第18話・家具を作る(グランディール流)

「今は夢を語っても仕方ない。これから実験その二」


 サージュさんはガリガリと紙に何か書きだした。


「エアヴァクセンの生まれなら、字の読み書きはできるだろう?」


 書いた紙をぼくに手渡す。


「これは……」


 設計図。文字と数字だけだったらどうしようと思ったけど、ちゃんと図解してあって助かった。タンスだ。細かく数値が描かれている。町の偉いさんのお宅に置いてあるような装飾が施されている。


「これを作れるか?」


「ん~。やってみます」


 ん~……うまく把握できないというか想像できないというか……。


 そもそもぼく、家具そのものを想像して作ったことないしなあ……。家についてきたものばかりだし……。突然家具作れって言われても……。


 その時、ピンと来た。


 そうだ。


 家具を作るんじゃなくて、家具を作る場所を造ればいい。家具工場とかそういうところを造れば、その中で家具を作るイメージができる。


「よし」


 気合を入れて、今度はエアヴァクセンにあった工場を思い出す。スキルを持った職人さんが一生懸命作っていたあの工場を。グランディールに相応しいものとして。


「ん?」


 アパルさんの声に目を開ける。


 そこに、とんでもない光景があった。


 うにゅ~んと音を立てるように地面が歪んで広がる。そこに床から盛り上がるように石づくりの工場ができた……と言うか生えた。


 なるほど、こういう感じで家ができてたんだ。


「何だ? 俺は家具を作ってみてくれと……」


「……ああ、なるほど」


 アパルさんが呟いた。


「家具じゃなくて、家具を作る場所、か」


「うん。家具を作るのに具体的なイメージがわかないから……まず作る場所から考えようと。そもそも家具はぼくが念じて作ったものじゃないし」


「家の付属物として、私たちの望んだものが出てきたんだから、家具だけを作れというのは難しかったんだな」


 はい。と言うか、どうやらこのスキル、ぼくが認めた町民のイメージが反映されるみたいなんで、ぼくだけのイメージで何かを作るのは難しいようです。


「で、この家具ができるようにって、みんな、念じてみて」


 サージュさんから渡された設計図をみんなに見せる。


「こういうのができるようにってか?」


「あの工場で作っているようなイメージで」


「よし、任せとけ。イメージするのは得意だ」


 シエルさんが請け負って目を閉じる。


「何かよく分からないけど……ボクも同じようにすればいいんだね?」


 マンジェさんも目を閉じる。


「アナイナも」


「よくわかんないけど、お兄ちゃんの思う通りになるようにって祈ればいいのね?」


 町民みんなでイメージを考え、最後にぼくが、それが形になるようにと念じる。


 すると。


「お?」「ん」「あ」


 みんなも感じたらしい。


 ぼくが感じた「手ごたえ」を。


 できたばかりの工場にみんなで駆けつける。


 そこには、サージュさんの設計図通り……いや思った以上に立派な「タンス」があった。


 サージュさんのデザインを基にしたうえで、素敵な光沢を持った木材。


「栗の木か」


 サージュさんは感心したように呟く。


「木材を意識したのは?」


「オレ」


 やっぱりシエルさん。設計図の時より三倍は豪華に見える。


 もちろん木材だけがいいわけじゃない。


 出来上がったタンスをまた荷車に乗せ、町の外に出してみる。


 消えないのを確認して、サージュさんは満足げに笑った。



「これで、金の目途はついた」


 サージュさんは満足そうに言った。


「まずは商品を売り込む」


「タンス一つで?」


「見本だ」


 軽くコンコンと本棚を叩くサージュさん。


「高級木材を扱えるという保証。この細かい細工を施せるという実績。もう一つ二つ作って、家具の町スピティに持ち込む」


「スピティに?」


 家具ならスピティ、と呼ばれる北のSランク町だけど、流しの職人やランクを上げたい町とも家具の取引をしている。そこで審査を通りランクのついた家具は、最低ランクでも値段が五倍に跳ね上がると言われるほど。


 家具でランクを上げたい町や寄り合いが、家具を持ち込んでは「規定外」と弾き出されるのを何度も繰り返しているという。


「持ち込むの?」


「ああ。グランディールの名で」


「名前、出すの?」


「出すとも」


「そりゃあ、ここで出さなきゃ意味ないよな」


 マンジェさんがぼそり。


「エアヴァクセン以上の町にするには、名声も必要なんだ。グランディールの能力で一番手っ取り早く金にできて名声にもなるのはスピティに家具で認められることだろう」


「なるほどねえ」


 ヴァダーさんが感心したように呟く。


「できればスピティを通さなくても注文が来るくらいにしたい。Sランクの町の町長クラスから注文が来るくらいには」


 すごい夢だ!


 人口九人の町でSランクに注文させる家具をとは!


「と言うことを俺は考えているわけだが、町長、どうだ?」


「……すごい」


 ぼくの声は呆然としていた。


「できるんだ。それが」


「そう。九人だけで、物・人・金すべてを集めるのは、これしかないと思う。町長がGOサインを出したらすぐにでも動き出す……と言うか町長が出さなきゃ俺たちは何も始まらないんだが。どうだ?」


 ぼくは唾を飲み込んで、頷いた。


「シエルさん。豪華な机って考えられる? 高級そうで、でも飾りがうるさくなくって、落ち着ける」


「おう、任せとけ!」

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