第17話・町に必要なもの

「物と人と金か」


 やっと冷静に戻ったらしいサージュさんが腕を組んだ。


「人はそれほど苦労はしないと思う。エアヴァクセンと、それに並ぼうとするSやAの町が優秀なスキルを手に入れるため低レベルや役に立たないスキルの持ち主を追い出していると聞く。街道や森を探せば来たいという人はいくらでも出てくる」


「え、森の中に住んでたのになんでそんなに詳しいんですか」


「「知識」で時々最近の情報に更新しているんだ。知識が古いとそれは知識じゃなくなるからね」


 なるほど、「知識」は更新しないと使えなくなっちゃうわけだ。


「それで、知らない情報を仕入れるわけなんですか」


「そう。ファーレの「ものづくり」も、傍で見ていたから知識を蓄えることができた」


 サージュさんによると、離れた場所にいても情報が更新されていく知識と近くで観察していないと更新されない知識があるらしく、世界の情勢などは離れていても何となく更新されていくけど、個人の情報……特にスキルの類は近くにいないと更新されないらしい。なるほどね。


「じゃあぼくのスキルも近くで見てればそのうち分かってくると」


「う~ん」


 サージュさん、なんでそこで悩むの?


「君のスキルは初見で「町を造る」としか出なかったからな……。そこから今君がスキルでできていることを分かる前に君は先に進んで行ってしまっているだろう」


「進むって……レベルはもう上がりませんよ?」


「レベルの問題じゃない。スキルに慣れて使える力が増えていくことだ」


 …………?


「あー、1の1じゃ分からないね」


 シエルさんが頭を掻いて教えてくれた。


「スキルでできることを増やす方法は二つある。レベルをあげることと、習熟度をあげること」


 シエルさんが教えてくれる。


「習熟度……?」


「簡単に言うと、例えばヴァダー。「水操すいそう」で、レベルが上がってできるのは水の流れを地上から空に昇らせるとか地面を抉らせるとか」


「習熟度は?」


「操れる水の量とか、操れる距離」


「あ~、何か分かった気がする」


 つまり、数値で測れることが慣れてできるようになること、数値で測れないのがレベルが上がらないとできないこと。この差。


 つまり、ぼくはまちづくりに関してはレベルが上がらないとできないことは何もない。だけど、慣れることによってできることは増えていくってこと、かな? 例えば人口が増えた時の町の拡大とか。興奮したサージュさんの言った通り、慣れてくれば海を行くことも地に潜ることも出来るようになる……かも知れない。


「金は……ファーレと町長の力が使えるな」


「あら、私?」


「ぼくの?」


「まあ……君のは試してみないと分からないけど」


 よくわからないけど……。


「ちょっと実験してみよう」



 グランディールを樹海の奥深く……と言っても空を行って着陸しただけで楽勝……で下ろして、門のすぐ外に樹海があるというシュールな状態になった。ていうかグランディールの着陸した下はどうなっているんだろう。


「町長とヴァダーとマンジェ、アパル、手伝ってくれ」


 シエルさんが外されたってことは力仕事だな。


 男五人でサージュさん家に。


「ちょっとこのタンス、運ぶぞ」


「何処まで?」


「町の外まで」


 よいしょよいしょと夫婦二人暮らしのせいか大きいタンスを五人がかりで運んでいる様子を見ながらファーレさんが笑う。


「私に言えば荷車くらい作ったのに」


 ……無駄な労力を使ったことを知らされる。


 今からでも遅くない、とファーレさんは樹海の木一本と引き換えに大型の一輪荷車を作ってくれて、そこにタンスを乗っけてよいしょよいしょと運んで門から出す。


「で? 運んで?」


「うん、消えないな」


 納得したようにサージュさん一つ頷く。


「町で作ったものは町の外に出しても大丈夫ってことは分かった」


「……あ!」


 マンジェさんが気付いたように声をあげる。


「そう、自動で作られる家具が売れるってことだ」


「でも、それは町の住人のためだろ?」


「だから、町の主要産業を家具にするってことだ」


「えーと」


 ぼくは頭の中を整理して、答えらしいものを出した。


「つまり、家具を作るのは町のため。なら、町でできた家具を売るのも可。……ってこと?」


「正解!」


 それまで眺めていたシエルさんがスッと足を引いた。


 気付いてぼくも一歩引こうとして……五歩詰められた。


 遅かった、と思うと同時に肩に食い込む指の感触。


「そう、町のためならば町で作ったものでも売れる! しかも君の力では材料は必要としない! 無から金を生めるんだ!」


 がっくんがっくん。肩ホールドされて揺すぶられる。や~め~て~!


「試してみなければ分からないがこの町に一旦足を踏み入れてもらえれば理想の家具が出来上がる……そうなってみろ、世界中からグランディールの家具が欲しいとやってくるぞ!」

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