第16話・局地的地震

「ああ……知りたい。スキル「まちづくり」……どこまでの町を造れるのか……どこまで広がるのか……どこまで……」


 サージュさんの目が爛々らんらんと輝いている。怖い。


「少なくともペテスタイは再現したぞ」


「ペテスタイ!」


 アパルさんに伝説の空飛ぶ町をあげられて、ピーンとサージュさんの背筋が伸びた。


「そうか、空飛ぶ町……! 伝説ではあるけれど実在は確かだという町……その再現!」


「ああ。町長は造った町全体を飛ばした。しかも、それを、目を閉じて祈るだけで実現させた。レベル1Maxも当然だと思えるじゃないか」


「町が……実在していれば、再現できる……」


 ああ……アパルさんにあおられてサージュさんの目がおかしくなってる……。


 サージュさんはおかしな目のまま、ガバッとぼくの肩を掴んだ。


「……樹上の町シルワ……海上の町マル……地底の町オンデゥル……海底の町ズプマリーン……湖の町オーズィア……」


 何か呪文唱え出した。怖い。


「再現できるのか? できるんだな? ペテスタイが再現できたならその他の町々も……!」


 痛い! 痛いですサージュさん! あなたの両手、力入りすぎて肩に食い込んでる! 壊れる! 肩壊れる!


「可能性は十分にある。グランディールだけでなく、複数の町を造れる可能性だって」


 アパルさん、この状況であおらないで!


「すごい! これはすごい! なんてスキルだ! おい、本当に、本当にミアストは愚かだ! SSSランクの町を目指しておいてこんなスキルを手放すなんて!」


 今度はがったがた揺すぶられ始めた! 何か酔う! 目が回る!


「ねー、ミアスト町長は馬鹿だよねー!」


 アナイナが早速話に乗っかってくる!


「1レベルってだけで追い出すんだもん! しかも町も紹介してないし! どこかの町でお兄ちゃんが力を使ったら呼び戻す事だって出来たのにねー!」


「ああ! 本当にあの男は愚かだ! レベルの高いスキルばかり集めるから! その内容を分かろうとしないから! こんな重要なスキルをみすみす見逃すんだ!」


 今度はアナイナの肩を掴んでゆさゆさ。


「立派な町になったら、エアヴァクセン行って、ざまー見ろって言いたいよね!」


「ああ! グランディールは間違いなく、唯一のSSS、ディーウェスを超えてゆく!」


 アナイナまでサージュさんをゆさゆさし始めた。


「……局地的地震でも起きてるのか?」


 ヴァダーさんの一言。


「ぶふっ」


「うぷっ」


 マンジェさんやシエルさんが噴き出しかけて、何とか飲み込む。だけど奥さんのファーレさんは隠さずくすくすと笑っている。


 サージュさんとアナイナがお互いの肩を揺さぶりながらグランディールと言うかぼくのスキルをたたえている。


 ……ぼくは喜べばいいんだろうか。止めればいいんだろうか。


「あらあら、サージュが二人」


「すいませんファーレさん、ぼくの妹が……」


「いいのよ。サージュがああなったら、止めようがないの。あの状態で迂闊うかつに反論でもしようものなら猛反撃されるわ。一緒に盛り上がってくれる人がいれば盛り上がるだけ盛り上がってそのうち落ち着くわよ」


 ……さすが奥さん。旦那さんの取り扱いに慣れている。


 ぼくなんか十四年一緒に妹を取り扱うことが出来てないのに……。今度秘訣教えてもらおう。


「海の果てにも空の果てにも地の底にも行ける町! 最高だ!」


「さすがお兄ちゃん! わたしのお兄ちゃん!」


 散々盛り上がって、ようやく疲れたのか。


 アナイナは座り込み、サージュさんは手近のマンジェさんに寄りかかった。


「うわ、重い、サージュ!」


「悪い、一番俺の体重を支え切れそうなのが君だったから」


「それは単にボクの体形が丸いだけだろう?! ボクにはあんたを支え切れるほどの力はない!」


 やれやれ、とヴァダーさんがサージュさんに肩を貸す。


「シエルさんは貸さないんだ」


「一応右の指と肩を、あの有り難い町長ミアストのせいで痛めてるのでね、オレは」


 ……そうでした。忘れてました。空に絵を描き過ぎて炎症起こしたんでしたね。


「それに笑いが復活するとまた手近なヤツの両肩掴んで揺さぶり出すから、オレは傍に居ないのが一番安全なんだよ」


「……微妙に迷惑?」


「こういうパターンになった時は」


 なるほど、覚えとこ。


 にしても微かに聞いた覚えのあるようなないような名前が続出したなあ……。エアヴァクセンで十四歳の時に教えられた「町学」にあったっけ? 伝説の町。実在したかどうかすらわからない。しかも受けている全員目の前に十五が迫ってるから期待と不安でそわそわしてて町のことなんて考えてなかった。


 グランディールに学校を作るとしたら、町学を学ぶ時期は変えよう。十四歳でまともに勉強が頭に入る少年少女なんていない。


「で、まずこの町にないものは?」


「肉と種」


 すかさずマンジェさんが前に行ったのと同じ言葉を繰り返した。


「金」


 アパルさんが続けて。


「それを手に入れるための人」


 ヒロント長老が付け加えた。

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