第15話・分からない
ぼくのいない間……と言うかぼくが念じた瞬間に変わったのは、新しい家だけじゃない。
ぼくが望んだ通り、家畜小屋や青々とした草の生える広めの草原、それから何故か広がった畑。
畑なんかは住民が生きて行けるだけの広さを常に保つらしい。多分家畜が増えれば草原や家畜小屋も広がるんだろうなあ。
町を造ることに関しては無敵のスキル、のようだ。
少ししてサージュさんが戻ってきた。
「おい。何だあの家は」
「サージュさん家です」
「いや、分かる、分かるけどそうじゃない。なんであの家そっくりそのままの家具ができてるんだ。君、俺たちの小屋の中を覗いたのか?」
「あー。あれは驚くな」
ヴァダーさんが呟いた。
「ドアを開けたらボクの欲しかった家そのものがでーんとなってたから驚いたよ」
マンジェさんも低い声で呟く。
「……てことは、家、全員分?」
「はい、全員の家、家具一式は欲しいものが揃っていました」
ぼくは正直に言った。
「……レベル低上限のスキルの力か……しかしここまで正確に望みを把握して町民のための家を造るという力は……あり得ない、いや、だけど、あり得ている……」
サージュさん、頭抱えてしゃがみ込まないでください。何か作ったぼくがいたたまれなくなるから。
しばらくサージュさんはしゃがみ込んでいたが、急に立ち上がった。その途端、貧血を起こしたのかふらりとよろける。それをアパルさんとヴァダーさんが支える。
「大丈夫か?」
「大丈夫、じゃない……」
大丈夫じゃないそうです。
「低上限レベルスキルの凄まじさは、ファーレで分かっているつもりだった……んだが……結局分かっていなかったということか……? レベル1Maxで、しかもまちづくり……それは、世界でも最高の町を造るだけのスペックがあるということか……?」
「恐らくそうじゃろうな」
長老が来た。
「お帰り、町長。首尾よくサージュとファーレを連れてきたようで何より」
「すいません、長老。アナイナがご迷惑をかけなかったでしょうか」
「なんでわたしが迷惑をかけるのよ」
お前は無自覚に周囲に迷惑をかける天才なんだよ! と言いたいけど黙ってる。口に出すと千倍になって返ってくるから。
「なに、大したことはない。ミアストに比べれば、この
……ミアスト町長と比べられるほどご迷惑をおかけしたという意味ですね?
今度はぼくが頭を抱えたい。
「お久しぶりです団長……いえ、今は長老ですか」
「ああ。命あるうちに家と呼べるものに暮らせるとは思わなんだ」
「すみません、こちらの勝手な都合で皆さんと別れておきながら、今また」
「それは盗賊団の問題で、今は盗賊団はない。あるのはグランディールと町長。何の都合も問題もない」
「家畜、小屋に入れてきた」
シエルさんがファーレさんと一緒に戻ってきた。結構気が付くシエルさん。動物が好きなんだそうで、家畜の面倒を見てくれることになった。芸術家肌と思っていたけど気が利いてやらなきゃいけないことを先回りしてやってくれるシエルさん。やっぱりスキルと性格、得意分野ややりたいことは食い違っているパターンがある。
ちなみにマンジェさんのスキル「食獣」は、獣を美味しく食べるためのスキルで解体や加工はできるけど動物を操る真似はほとんどできないそうです。ほとんどと言ったのは身動きが取れないようにすることはできるので、とのこと。つまり解体の時暴れられないようにするためなんだよなあ。
遠い目をしていると
「その顔をしたいのは俺なんだよ……」
サージュさんに突っ込まれた。
「すいません」
「いや、謝られても困るんだが。……君のスキルは「まちづくり」で正しいんだな?」
「はい」
「お兄ちゃんの成人式、わたしも行ってみてたもん。間違いない」
「ふーむ……」
サージュさんはじっとぼくを見ている。多分スキルを使っているんだろう。
サージュさんの「知識」は、知りたいと思えば頭の中に知識が入ってくるというスキル。多分それでぼくのできることやなんかを探っているんだろう。
「…………っ」
またもサージュさんが頭を抱えてしゃがみ込む。今度は何があった? ぼくのスキルってなんかとんでもないの? いやとんでもないのは分かってるけどどうとんでもないか教えて?
「……分からん……っ!」
「え?」
「ファーレのスキルも初見では細かいところまで分からなかったが……これはダメだ、「町を造る」以外に何も出てこない!」
ええっ?!
「まあ、あなたのスキルでも全然わからないことがあるのね」
ファーレさんはニコニコ顔を崩さない。
「
サージュさんは唸ってしまっている。
「ああ、気にしないで」
ファーレさんは楽しそうに言う。
「この人は、そうなのよ。何でも分かっちゃうから、分からないことがあると混乱する。私と結婚したのも多分そのせい。私のスキルがよくわからないから、気になってしかなかったのね」
「ファーレ……俺はそんなつもりでお前と結婚したんじゃ……」
「私に興味を持ったのは間違いなくそれでしょう?」
言われてサージュさんは頭を抱え直した。
「フフッ。分からないものを知り尽くしたいのがあなただもの。こんな「分からないもの」に出会っちゃったら、そりゃあ髪の毛一本から爪先まで、調べつくさなきゃ気が済まないわよね?」
何かファーレさんが怖いこと言ってる……。
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