第14話・仲間入り
サージュさんとファーレさんはちょっと待ってろと小屋に入って荷物をまとめ出した。
「サージュを口説き落としたか」
アパルさんが楽し気に笑った。
「口説くって」
ぼくは思わず口を尖らせた。
「ぼくは真剣に……」
「分かってる。その真剣が、あの堅物を口説き落としたんだ」
笑いをひっこめ、アパルさんはぼくを見下ろす。
「サージュのスキルは強力だ。限度があるようだが、知りたいと思った瞬間に大体のことは頭に入るんだからな。だからこそ、サージュは共にいる人間を選ぶ。自分に頼り切りになられたら困るからだ」
「確かに……頼っちゃいそうなスキルだよね……」
「だが、君はそれを否定した。欲しいのはサージュの「知識」ではなく「思考」……スキルではなく、頭の中に思い描く過去図や未来図なんだと……そう言った。だからこそサージュはファーレと共に町に行くことを同意した」
アパルさんはぼくの背中をばん、と叩いた。
「あの夫婦は強力なスキルの持ち主だ。「知識」も強力だが、その知識から必要なことを取り込んで「ものづくり」するファーレの力は、限界があるとはいえ「町のこと」しかできない「まちづくり」より便利かもしれない。だが、利用されやすくもある。だからサージュとファーレはこんな森の中で生きてきたんだ。それを引っ張り出したんだから、あの二人と約束したことは守らなければならない。絶対に」
スキルではなく、一緒に考えてくれる人が欲しいと言った、あの言葉。
それをぼくは守らなければならない。……ううん、違う。
「ぼくがやらなきゃいけないことは、グランディールに住みたいという人みんなの考えを受け取って、まとめ、そして実行すること」
「ああ。覚悟はできているようだね」
「難しいと思う。でも、みんなに手伝ってもらって、初めてグランディールはぼくらの町と言えるんだ」
アパルさんは頷いた。
そこへ、夫妻が出てきた。
「荷物はまとめた」
「家畜は連れて行けるのかしら」
家畜小屋を覗くと、牛が二頭。豚が四頭。鶏の
「ちょっと待って」
グランディールを頭の中に描く。
ビズダム夫妻の好きそうな家を。家畜が飼える小屋と食べさせられる草原を。
その時、初めて。
手応えを感じた。
できた! と言う感触。望んだものが町にできたという反動。
「大丈夫。連れていける。できた」
「できた?」
「ああ……あなたの低上限の理由は、材料がなくても思うだけでできちゃうところでもあるのね」
ファーレさんが感心したようにぼくを見る。
「ファーレさんのは?」
「私の「ものづくり」は、元になる材料が必要なのよ。森だから木があれば小屋とか色々作れたけど、鉄がないと金物は作れないし、生命あるものはもちろん作れない」
「じゃあ、この家畜は?」
「私は作ってないわ。病気の放浪者を拾って助けたら、お礼として置いていったのよ。家畜を操れるスキルの持ち主だったけど、この子たちの世話をしながらの放浪生活はできないからって」
愛し気に牛の頭を撫でてやるファーレさん。
「忘れ物はないか?」
「小屋は置いておけば誰かが使うだろう」
「そうね、財産と言えるものは全部持ったから」
「町長」
アパルさんに
「町長になる覚悟はあるが、自覚は薄いんだな」
「なんせ十五になったばかりだ、仕方ない」
「ヒロント団長がやればよかったんじゃないのか? いや、クレー町長に賛成した俺が言うのもなんだが」
「町を作ったのと、後はさすがに盗賊上がりの町長だと風聞が悪いという意見の一致でな。あとこれの妹が熱心に推したのもある」
「妹? 町長が十五歳なのに?」
「ああ、十四だ。追放された兄を追いかけて
「つまり、今町の住人は、生き残りの盗賊団五人と町長と未成年の妹の七人なんだな?」
「そう。とりあえず町の推しと決めるのと住民を増やすのが必要だと思って、まず真っ先に思い付いたのがあなたたちだった」
「……信用してくれて何よりだ」
これは大変なことになりそうだぞとサージュさんはこめかみに指を当てる。
「とにかく、グランディールに行きましょう。行かないことには始まらないでしょう?」
「そうだな。町長」
今度は間違いなくぼくのことだと反応して、昇降円を出した。
牛二頭に豚四頭鶏まで抱えて大丈夫なくらいの円になっている。
そこに全部が入ったのを確認して、上がれ、と念じる。
次の瞬間、ぼくたちはグランディールの門に戻っていた。
「サージュ!」
マンジェさんが声を裏返らせる。
「あの堅物サージュが来た?! クレー……町長、あんた、すごいな!」
町長とつけたのは、アナイナに耳を引っ張られていたから。
「君も相変わらず口が悪いなマンジェ。そこの彼女が町出した妹君かい?」
「町を捨ててやったの。アナイナよ」
唯一初対面のアナイナが自己紹介して、くるりと背を向けて夫妻を家に連れて行った。
「家が唐突に建って、草原や家畜小屋ができたから成功したとは思っていたが」
ヒロント長老が感心したように言う。
「ええ、団……じゃない長老。聞かせてやりたかったですよ、町長がサージュに切った
夫妻の家の方から悲鳴が聞こえてきたので、多分彼らの望んでいた通りの家ができたんだなと自分を納得させる。
実際、このスキルでできることの上限や下限が分からないから、反応はお楽しみなんだよね。
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