第13話・目指すところ

「ぼくは」


 考え考え、ぼくは言葉をつづる。


「このスキルだから担ぎ上げられた町長で、正直、みんなの為に何をしてあげられるか分からない」


 成人になったばかりのぼくの言葉を、ぼくよりずっと賢いだろうアパルさんとサージュさんが真剣に聞いている。


 だから、ぼくも真剣に答える。


「だけど、造りたい町は決まってる」


 ファーレさんもニコニコと笑いながらぼくの話を聞いている。


「スキルも、レベルも、関係ない。みんなが笑って過ごせる町」


「役立たずを受け入れるってことかい?」


「役立たずなんて、本当はいないと思う」


「ほう?」


「ミアスト町長はスキルがあいまいだったりレベルが低かったりすると町に相応しくないって追い出すけど、エアヴァクセンを追い出されて、盗賊団の人と出会って、ぼくは思った。スキルのレベルや種類で町民を決めるなんて、間違っているって。……スキルがなくたって、人はちゃんと作れるし耕せるし生きていける」


「一つの真理だ」


 サージュさんは呟いた。


「だが、今の社会はスキルで成り立ってる。町も組織も、生活すら」


「だったら、ぼくが変える」


 ちょっと喉が渇いていた。背中から汗が流れている。


「グランディールで。不要とされたスキルの人たちを集めて。みんなが笑って暮らせる町を造る。もしそれがSSSランクの町よりいい町だとみんなが思ったら、それはミアスト町長や、あちこちの権力者の考えが間違っているって証明になると、思う」


 アパルさんは目を細め、サージュさんは軽く口笛を吹いた。


「本気かな?」


「本気です」


 口の中はカラカラだ。


 でも、言ったことは本気だった。


 エアヴァクセンを出て出会った人たちは、アナイナ以外、スキルが相応しくない、レベルが相応しくない、不要とされた人たち。


 でも、ぼくにはそうは思えない。


 ミアスト町長が自分から呼び込んでおいて切り捨てたりと滅茶苦茶やっているせいで追い出された盗賊団の人たちは、他の町に行けばすぐにでも受け入れられるだろうスキルの持ち主。だけど、エアヴァクセンを見返すためにもと盗賊団を作った。それはスキルの力じゃない。自分たちの力で組織を作って、エアヴァクセンに対抗してたんだ。たとえそれが小さい力だとしても、エアヴァクセンがその気になれば簡単に潰される程度だとしても、団長……いや長老たちは、本気だった。盗賊に身を落としても、エアヴァクセンに対抗すると決めたみんなはスキルに頼らず組織になった。


 なら、グランディールでもできるはず。


 集まる場所……町は確かにぼくが造ったものだけど、それを形にするのはぼくだけではできない。みんなの力がいる。


「ぼくの造りたい町は、みんながいられる町です。みんなで一緒に暮らせる町です。そこには、サージュさんの居場所がある……いいえ、サージュさんでなければ埋められない場所がある。……お願いします、サージュさん。グランディール、ぼくらの町に、どうか来ていただけませんか」


 サージュさんは、ぼくを品定めするようにじっと目を細めて見ている。いや、品定めをしているんだろう。


 ぼくが町長に足りるかどうか。


「……サージュ」


 サージュさんは声をかけるアパルさんの前に右手を突き出し、そしてぼくをもう一度見る。


「俺のスキル「知識」は、それ単体では何の意味もなさない」


 サージュさんは静かに告げた。


「ファーレのような形にする人間がいて初めて役立つ力だ。だから、町長ミアストは俺を不要とした」


「はい」


「君にはできるというのかな? 町長ミアストが不要と投げ出したこの「知識」を、ミアストよりずっとうまく操って、町を造ることが」


「操りません」


「ふん?」


「ぼくは、操るって言葉が嫌いです。それは当人の意思を無視して動かすって意味だから」


 深呼吸する。空気が上手く入ってこない。もう一度深呼吸して、そして、言った。


「ただ、力を貸してください、サージュさん、ファーレさん。ぼくの町には大勢の人の考えが必要で、そのみんなの中にお二人もいる……それだけです」


 ファーレさんがぼくを見て、優しく微笑んだ。


 そしてサージュさんは。


 笑った。


 腹の底から響くような大笑い。


「言った! 言ったな! 成人したばかりのまだ尻尾が付いたままのカエルが、俺のスキルではなく、考えが必要なのだと!」


「はい、そうです」


 ひーひーと苦しそうに息をして、少しむせて、それからサージュさんは顔をあげた。


「小生意気な新成人だ。だが、ミアストに対抗できるのは、奴を叩き潰すのは、この小生意気な新成人かも知れん」


「じゃあ――」


「ああ、行ってやるとも、クレー町長。この機会を逃せば、俺たちは多分一生ここでミアストを呪いながら日々生きていくだけの生活が続くことになりそうだからな」


「そうね。私の力も、まずはみんなで考えて使うというなら……よろしくね、クレー町長」


 ビズダム夫妻は、右手を差し出した。


 ぼくが出した右手を、がっちりと掴んでくれた。

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