第12話・森の知識人

 アパルさんと一緒に光の輪に入った瞬間、なんていうか、浮遊感? があって、次の瞬間には森の拓けた場所にいた。


 唖然としている、アパルさんを更に真面目にしたような人。


「久しぶりだな、サージュ」


 アパルさんが軽く手をあげて挨拶する。


「アパル……本当にアパルなのか?」


「ああ」


「あの大きな浮遊物体は何なんだ? 君、あれに乗ってきたのか?」


「ああ。グランディール。私たちの町だ」


「町?」


 不審そうにアパルさんを見て、そしてこっちに視線が移る。それで思い出したように、アパルさんはぼくの腰を押して自分の前に出した。


「彼が町長。クレー・マークンだ」


「随分と若い……いや幼いというか……」


 そりゃ十五になったばかりですから。


「町長、彼はサージュ・ビズダム。エアヴァクセンを抜けて、森を拓いて生きている放浪者……私の幼馴染で、師匠だ」


 不審そうにぼくを見る目。町長と言うのが納得できないんだろうな。


「盗賊団を捨てたのか?」


「いや、全員で盗賊をやめた。今はグランディールで待っている」


「上でか?」


 サージュさん、顔でも態度でも、ぼくが疑わしいと思っている。そりゃあなあ。盗賊団は一番若くてもヴァダーさん十八歳。しかも団長のヒロントさんを差し置いてぼくみたいなのを町長に据えた理由が分からない、と言ったところかな。


「町長はあなたの奥さんの同類だ。規模はもっとすごいが」


「ファーレの……?」


 少し考えて、ピンと来たらしく、目が丸くなった。


「低上限レベル?!」


「ああ。しかもレベル1でMaxだ」


 ひゅっとサージュさんは息を飲みこんだ。


「本当か」


「本当だ。それで成人式当日に町を放り出された」


町長ミアストめ」


 サージュさんが舌打ちする。


「知識の使い方を未だに間違っているのか」


「間違っているというか、都合のいいように解釈しているのだな。上限レベルの真の意味も知らない」


 アパルさんが露骨に嫌そうに顔を歪める。


「知っていればそこの町長君を手放すこともなかったろうな」


「偉そうなくせに早とちりで勘違い。所詮しょせん俗物ぞくぶつ。人の上に立つ器ではないさ」


 何か勝手に進む会話に、今度はぼくが疑問顔だ。


「……ああ失礼。置いてけぼりにしてしまったようだ。改めて自己紹介させてもらう。俺はサージュ。スキルは「知識」で、レベルは1500だ」


「クレーです。スキルは「まちづくり」、レベル1です」


「なるほど、それで出来上がったのがあの町か」


 サージュさんが空を仰いだ。森に影を投げかけるグランディールを眩しそうに見上げる。


「スキル「知識」って? 色々なことを知っているってことですか?」


「知っているというのとは少し違う。知ろうとしたら、関りのある知識が頭の中に入ってきて、整理してくれるんだ」


「すご」


 なんて便利なスキルだ。


「あなた、そろそろ私、出て行っていいかしら」


 小屋から女の人の声がした。


「ん? ああ、大丈夫だ。アパルはアパルのままだったし、君に嫌なことをさせる人間じゃなさそうだ」


 きぃ、と小屋のドアが軋んで、女の人が顔を出す。


 お母さんにどこか似た、優しそうな女の人。


「クレー町長、彼女はファーレ。俺の妻だ。君と同じように、低上限レベルのスキルの持ち主」


「初めまして。クレー・マークンです。スキルは「まちづくり」、レベル・レベル上限は1です」


 にこりとファーレさんが微笑む。


「ファーレ・ビズダム。スキルは「ものづくり」。レベルは3、上限は10よ」


 レベル上限が10、と言うことは。


「レベル上限行っちゃうと世界がどうにかなっちゃう系のスキル?」


「そうよ。と言ってもどうにかする気はないけどね」


 お茶目にウインク一つ。


「そのせいで町を追い出されたけど、サージュと出会えたから逆に良かったわね。私のスキルの力を知ったら、絶対、何処にも出してもらえなかったから」


「この小屋とかも、スキル「ものづくり」の?」


「ええ、そうよ。でも、私のスキルは、この小屋の二倍くらいのものまでしか作れないわ。大きさの上限があるからレベル上限が少し高いのね」


「なるほど」


「レベル上限が1ってことは、それ以上の物を作っちゃいけないってことだって主人が言ってたわ。実際に空飛ぶ町を造っちゃうんだからすごいわねえ」


「まだ造っている途中なんですけど」


「そこで、サージュ、あなたに頼みがあるのだが」


 真剣な顔でアパルさんが切り出す。


「俺にグランディールへ移住しないかってことだろう?」


 サージュさんが切り返した。


「ああ。……あなたが来てくれると、とても助かる」


「それは、まず町長に聞いてみないとな」


 サージュさんはぼくに向き直った。


「グランディール町長クレー殿」


「はっ、はい!」


 サージュさんは真剣な目でぼくを見ている。だから、ぼくも真剣に見返した。


「君は、俺の「知識」や妻の「ものづくり」、元盗賊団のスキルを使って、どんな町を造りたい? 目指すところは何処だ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る