第11話・町に必要なのは

「これで、町長はお兄ちゃん。名前もグランディールに決まった」


 アナイナは満足そうに言って、みんなを見回した。


「これから、どうする?」


「住民を集めるんじゃないの?」


「いや、必要なものがある」


「えー?」


 自分の考えを反対されるのに慣れていないアナイナが。割って入って来たアパルさんに口を尖らせる。


「何よ」


「町の売りだよ」


「空飛ぶ町ってのじゃダメなの?」


「そうじゃない。ただ空を飛ぶだけじゃ、町の売りにはならないんだ」


「なんでー?」


「だって、不便なところもあるだろう? 今のところ、下に降りるにはグランディールを下ろしてやらないといけないし、上り下りする時にいちいち動かさなければいけない」


「あ、そっか」


 納得するしかない言葉を言われて、うん、とアナイナが頷く。


「その不便さを背負ってでもこの町に引っ越してきたいという、こう、背中を押す何かがなければ、人は来ない」


「じゃあ、みんなが来たいと思う素敵な何かを考えなきゃならないの?」


「そう」


 さすがのアナイナもこの難問にいつもの適当な答えを出せず、悩んでしまう。


「売りはさておいて、人を呼ぶとして足りないものは?」


 ヴァダーさんの言葉に、ヒロント長老苦笑い。


「足りないものばかりだねえ」


「食い物で足りないのは?」


「肉。それと、種」


 ヴァダーさんの言葉にマンジェさんが即答する。


「これまでは森の中だったから獣は狩り放題だったけど、今は違う。鳥を狩る道具もない。あと、畑があって、だん、もとい、長老の「豊作」があっても、植える種がなきゃ穀物や野菜は育たない」


「肉や種は買い入れるしかない、そして買うだけの金がない、と」


「そういうことだ。ボクの食獣もまず獣がなければ使えない」


「獣は「まちづくり」の中に入らないの?」


「町民が自動で増えたりしてないから入らないんだろう」


 アナイナの単純な疑問とアパルさんの明快な答え。


「町民を招き入れる広さはどうなるんだい?」


「それは「まちづくり」の中に入るだろう。最初に我々七人が住める町を町長が祈って出てきたのがこれだ、一人入れてみないと分からないが、恐らくは広がるかと」


 シエルさんの疑問にこれまたアパルさんが切り返す。


「あと、単純に人手が足りない」


 これまたマンジェさん。


「七人暮らせるだけの畑があったとしても、畑作に関わる人間が少なければ人は養えない。「豊作」も人の手が加わらなければ畑が荒れるだけだ」


 ……ぼくたちのまちづくりには不安が多そうだ。



     ◇     ◇     ◇



 とりあえず、試しに人を入れてみるということになった。


 なんせ成人したばかりで他の町を知らない町長と何も知らない女の子と元盗賊五人では、思いつくものも思いつかない。何か、町のまつりごとに詳しい人を入れないとにっちもさっちもいかないというのが最終結論だった。


 アパルさんがそういう人に心当たりがあるというので、今、グランディールはそこに向かっている。


 まだ他の町に知られてはいけないということで、アパルさんが手書きの地図を見て確認しながら、町や街道のない森なんかを通過していく。影に気付かれて見上げられたらいけないから、ということで。


 しかし、この町、本当にぼくの思い通りに動くんだな。


 微妙な方向転換にも、ぼくが思うとすぐに反応する。


 音もなく移動するグランディールは、半刻もしないうちにアパルさんの言う「心当たりのある人」の住んでいる場所についた。


 それは、盗賊団と同じように森の中を切り拓き、小さな畑と家畜小屋を備え付けた家だった。


 ポカンと口を開けて見上げる人の姿。


「サージュ! 私だ! アパルだ!」


 門にしっかり掴まって、半身を乗り出して、アパルさんが声を張り上げて手を振る。


「アパル?! これは一体どういう……何がどうなった!」


 サージュと言うらしい人が見上げたまま叫び返す。


「グランディールを下ろすか、人だけを下ろすか、どちらかできるか?」


「ん~……人だけ下ろせるようにやってみる」


 人だけ下ろせる設備……と願うと、門のところに金色に光る輪ができた。


「多分これが昇降装置だと思う」


「そうか。じゃあ私と町長で行こう。長老、町を頼めますか」


「ああ、任されよう」


「わたしも行く!」


 アナイナが手をあげたが、マンジェさんが止めた。


「やめとけ。これは大人の話し合いだ。成人していないあんたが混ざると話がややこしくなる。大人しく待っとけ」


「ぶー! 何よそれ! わたしが足手まといって言いたいの?」


「言いたいんじゃなくて言ってるんだよ」


 猫の尻尾があれば煙突掃除のブラシのように膨らんでいるだろうアナイナに、言葉を選ばないマンジェさんが畳みかける。


「いいか。人一人……いやサージュは結婚してるから二人か……その人生をかけた話し合いに、子供が口を突っ込むな。あんたがあと一年で成人だと言い張っても、今成人していないことは確かなんだから、あんたの言葉には力が伴わない。ただ茶々を挟むだけだったら迷惑だ」


「お兄ちゃん……」


 アナイナがすがるような目でぼくを見上げる。でも。


「マンジェさんの言う通りだ。アナイナが口を挟むと話がややこしくなるって父さんも言ってたろ?」


「お父さんここにいないもん」


「じゃあぼくが言う。大人しくグランディールで待っててくれ」


 アナイナは目にいっぱい涙を溜めていたけど、バッと背を向けて家に走って行った。


「長老、アナイナのこともよろしくお願いします」


 長老が頷くのを見て、ぼくとアパルさんは金色の輪の中に入った。

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