第10話・町長と町名
門まで行った、その光景。
塀で囲まれた部分と、門のすぐ外。
さっくりと切り取られたようになって、その先に地面がない。
(まさか?!)
その、まさかだった。
恐る恐る切り取られた先を見下ろすと、下には緑のもこもこ。森だ。
つまり……浮いている!
「うっそ、本当に……」
盗賊団の皆さんも、ぼくと同じ思いだったらしい。
「本当に空を飛ぶとは……」
「嘘だろおい……」
「なんで……」
呆然とした声が空に流れていく。
真下の山肌に洞窟が見えることから、今はこの町は真上に浮いているようだ。
それだけでとんでもない話だ。
しかも、それがぼく一人のスキルで。
レベル1、Maxの力で。SSランクの町に相応しくないと追い出された力で。
この方向は……。
「わ、ストップ、ストップ!」
明らかにエアヴァクセンへ向かい出したので、慌てて声に出して止める。
風景が流れなくなったのを確認して、ぼくは胸をなでおろす。
「よかった~……焦った~……」
「クレーくんの思った通りに移動することも出来るんだ……」
「すごいな。世界中を回ることだって可能だ」
「えー、なんで? なんでやめるの?」
アナイナが不満げに声をあげた。
「町長に見せびらかすチャンスなのに」
「今行ったら空の飛べる人たちに乗り込まれて町を奪われて終わりだよ」
アパルさんもうんうんと頷く。
「捨てて逃げて、もっといい町を造ればいいじゃない」
「クレー君が造って動かせると知れば、
「分かった。うん。お兄ちゃんをエアヴァクセンに行かせちゃいけない」
アパルさんの説明でやっとアナイナが納得してくれた。
アナイナが納得するなんて、さすがはアパルさん、勉強好き。説得が上手い。
「あのさ」
ぼくは恐る恐る声をあげた。
「一つ、いい?」
「勿論」
「本当に、町にしない?」
アナイナ以外全員年上、町から追い出されて苦労した人たちを前にこれを言うのは度胸が要った。でもぼくは言った。
「この町はランク外。だから、紹介状もランク確認もいらない。この町に住みたいって人を集めて、エアヴァクセンよりも立派な、エアヴァクセンのみんながこっちに来たいっていうような町にしよう。そうすればあの町長を見返せる」
「おお!」
「いいな、それ」
「賛成!」
「勿論納得だ」
「いいと思う」
みんな、ぼくの意見に賛成してくれた。やっと成人になったばかりのぼくの意見を。
「もちろん町長はお兄ちゃんだよね!」
「アナイナ!」
「えー? だって、町を造ったのも飛ばせたの、町にしようって言ったのもお兄ちゃんじゃない!」
「ヒロント団長とか、アパルさんとか、大人でいい人がいるじゃないか!」
「ああ、団長と言う呼び名はやめてくれ」
「ヒロントだん……じゃなかった、そうですよね、町長になるんだから」
「いいや? 儂は長老になる」
「え?」
「こんな先のない年寄りに町長の座を任せても、すぐに入れ替わるだけ。ならばアナイナさんの言う通り、クレー君が町長になるのが一番いいと思うぞ」
「私も長なんてガラじゃないよ。それより君の補佐をしたいね。私の頭脳でどこまで行けるかは分からないが」
「え? え?」
「あんたが造った。あんたが飛ばした。あんたが望んだ。あんたが町長にならなくてどうするんだ」
「シエルさん?!」
「ボクも賛成。
「マンジェさんも……」
「第一俺たち盗賊から足を洗っても傷のある身には変わりない。盗賊町長なんて言われたらたまったもんじゃないしな」
「ヴァダーさん」
「ね? みんなお兄ちゃんがいいって言ってんの。ここはこう、覚悟を決めて、どーんと! 町長になろうよ、ね?」
「どーんと、と言われても……」
「ほら、そこで引っ込むのがお兄ちゃんの悪いクセ! 今ここに居る人たちは全員お兄ちゃんがいいって言ってるでしょ!」
そうそう、とヒロント団長……じゃない、ヒロント長老が言った。
「みんなで
「う……」
みんな、ぼくを見ている。
ぼくが町長になると信じて疑わない目で。
ごくり。
ぼくは唾を飲み込んだ。
「……みんな、協力してくれる……?」
「ああ」「当然」「決まってるだろ」
色々な言葉が返ってくる。
「じゃあ、まずは名前を決めなければ」
大げさな物言いが得意のシエルさんが口を開く。
「町長、初仕事じゃ。町の名前を決めてくれ」
いきなり長老に難問を突き出された。
「うーん……うーん……」
昔話で出てきた名前を口にした。
「グランディール」
成長とか、そういう意味の古語だったと思う。
「グランディールか。いいな、響きがいい」
シエルさんは、胸を張り、歌うように宣言する。
「おおグランディール、我が町よ、何処までも飛んで何処までも人を魅了せよ」
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