第9話・ならこっちから行けばいい
ほっとしたぼくの耳に届いてきたのは、雄叫び。
なんだ、何があった? 何かあった?
服を着替える暇も惜しく飛び出すと、町はそのままで、並んだ六軒の家の一軒で、ヴァダーさんが雄叫んでいた。
「ヴァダーさん?!」
「家が……家が消えていない! 町も消えていない!」
……そうだね、ヴァダーさん、ぼく以上に心配していたからね。目が覚めたら夢だとか消えてたとか。
「さて、これからどうしよう」
変な場所に町を造っちゃったなあ……。
森の奥深く、野獣や魔獣が平気で出る場所。エアヴァクセンに気付かれない土地。他の町との交流しようがない僻地。
確かに畑があって獣を捕らえて捌く場所があって水も豊かな町になっているけど、見た目だけ。住人七人は正直町とは言えない。村ですらない。寄合だ。
「う~ん」
「どうしたの?」
「いや、色々と」
この返事はアナイナのお気に召さなかったらしい。グイっと耳を引っ張られる。
「痛い」
「お兄ちゃん、わたしに言えないこと考えてたの?」
「いや、そうじゃなくて」
言っても仕方のないことを考えてたんだけど。
アナイナは納得せず更に耳を引っ張る。身長差があるから結構痛い。
「アナイナ、痛い、痛い」
「じゃあ言ってよ。わたしに内緒で何悩んでるの」
「言っても仕方ないから……」
「言ってみなきゃわからないでしょ?」
家の前でわーわーやっていると、ヴァダーさんの雄叫びで起き出した人たちも集まってきた。
「どうしたんだね?」
「ヒロント団長」
「お兄ちゃんが考え事があるのになんでわたしを頼ってくれないのかって言ってたの」
「頼れないんだよ……」
「この町に、何か問題でも?」
久しぶりにベッドで寝たというマンジェさんが不機嫌そうに言う。
「いや……場所が、良くないんじゃないかと」
「場所?」
「他の町とも離れてるし、人がなかなか来れないところだし……」
「ああ、そうだな」
シエルさんも難しい顔をする。
「町と言うには人口もないし増える予定もないし……。一目この町を見れば、是非とも住みたいという人が出てくるんだろうがなあ……この素晴らしい町……」
「最低でも五十人。町と名乗るにはあと四十人近い人間がいるが、追放者を呼び込むにしても街道からも遠い……」
アパルさんが唸る。
「いっそ、町ごと持ち歩ければいいんだけど」
ぽつりと呟いたぼくの言葉に、アナイナが目を輝かせた。
「そうよ! 持ち歩けばいいの!」
「……はい?」
アナイナ、頭大丈夫? どうかした?
「お兄ちゃん、目を閉じて祈ってこの町を出したんだよね」
「うん、まあ」
ヒロント団長にコツを教えてもらって、そのとおりに。
「じゃあ、目を閉じって祈ればいいのよ!」
いやそれはさすがに無理があるんじゃないかと。
と言うのは全員思ったらしく、全員不安顔。
「そこまで都合のいいスキルじゃないと思うんだけど……。スキルはあくまで「まちづくり」なんだから、町に関係のない能力は……」
「……いや、可能性は……ある」
「アパルさん?」
「スキル学で必ず学ばされる伝説の町がある」
「伝説の町?」
「そう、幻の都市、空を行く町ペテスタイ」
空を行く町?
「六百年ほど前になるか。やせた土地にあった町が一念発起、住人同士でスキルを鍛え上げ、自力で空を移動できる町になった。それがペテスタイ」
「行けペテスタイ、目指す先が求めた土地」
シエルさんがまた歌のように呟く。
「あれも町なら、君のスキル「まちづくり」の内容に入っているかもしれない」
アパルさんが最後をまとめて、ぼくの返事待ちの体勢に入った。
「空飛ぶって……さすがにそりゃあ無理なんじゃ……」
「町が造れるんなら、これまであった町を再現することもできるってことね。空飛ぶ町って素敵じゃない、町長も絶対に手を出せない場所で、自由に生きることができるわ!」
いけない、アナイナの頭の中が完璧に空飛ぶ町でいっぱいだ。
そんなこと言われても、さすがにぼく一人のスキルで小さいとはいえ畑も水もある町を飛ばせるなんて思えないんだが。
「やってみようよお兄ちゃん! やってみなきゃわかんないよ! ダメだったらそれはその時考えればいいじゃん!」
「町が空を飛んだらそりゃあすごいことだが……」
「アパル、ペテスタイは伝説の町じゃなかったのか?」
「証拠と言うか、ペテスタイの住人が行ったと言う伝承は、ペテスタイの向かった先々に残っている。空を飛ぶ町が来て、食料を分け合ったとか、厳しい町に耐え兼ねた住民を連れて消えたとか。スキル学では、ペテスタイが空を飛ぶ系統のスキルを搔き集めて飛ばしたと言われているが……」
「町が造れるなら、伝説だって町は町だ」
「よし、やってみてくれんか、クレーくん」
ああ、全員ぼくに期待の目を向けている。プレッシャーだ。
でも、強く祈ることがスキルを発現する術。それは昨日ヒロント団長に教わった。
何となく座って、目を閉じ、地面に手をつく。
伝説の町の通り……飛べ、ぼくらの新しい町。
次の瞬間。
ゴゴゴゴゴ!
地面が揺れた。
「うわっ」
「地震か?!」
「違うよ!」
アナイナがいつの間にか門の向こうまで行って歓声を上げた。
「見てよ、みんな!」
ぼくも揺れた地面がもう一度揺れないか不安に思いながら、ヴァダーさんの手を借りて立ち上がり、塀の外に唯一続く門に向かう。
それは……とんでもない光景だった。
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