第3話・盗賊と出っくわす
エアヴァクセンからこの森の街道までは徒歩で約四半日。
野宿するならエアヴァクセンが見えない場所で、と言われているから、森の街道沿いで……と思ってたけど、この可愛いお荷物のせいで大急ぎで回れ右しなければならなくなった。
昨日までは親切だった警備兵さんたちからすれば、今のぼくは勝手に町に入り込もうとする放浪者でしかない。近付けば追い払われる。その傍に仮住人がいれば保護しようとするはず。場合によっては仮住人を誘拐したと思われるだろうけど、その時は全速力で逃げるしかない。
そんなぼくの思いも知らず、上機嫌でついてくるアナイナ。
……本当に、もう。兄の事情も苦労も知らないで……。
アナイナは両親にもとっても可愛がられていたので、ちょっとワガママな性格に育ってしまった。あと、世間知らずでもある。一年後、自分がエアヴァクセンに居残れるかどうかなんて、考えたこともないだろう。いつまでも家族四人の生活が続くと、能天気に考えていたんだろうな。
町が町民に求めるのは、顔でも知恵でも体力でもない、スキルだ。町の役に立つスキル。
それがない人間は容赦なく切り捨てられる。
例え親がどれだけ町に貢献していても、だ。
十五歳未満の子供……仮住人なら、いいランクの町の仮住人であればあるほど、下のランクの町に移転されることを恐れる。仮住人としてそのランクの生活に
いわゆる、追放。
……もっとも、大体の追放はそのスキルに見合ったランクの町を紹介されてそこへ行かされることになるので、生活レベルが変わっても寝食に困ることはあまりない。
Eランクにも行けなかったぼくが例外なだけだ。
もちろん逆のパターンもある。ランクの低い町に生まれ育ち、成人式でランクの高い町への移転が決まる人も大勢いる。これは栄転と呼ばれ、その町出身の英雄のような扱いを受けて、子供たちはその後に続くのを望む。
しかし、いくら努力しても十五歳になるまでスキルが分からず、判明してもスキル上限をあげることができない。運次第だ。
努力でレベル上限が上がるなら、多分ぼくは残留が決まっていた。「まちづくり」と言うスキルを試してみたことはないけど、多分何かが造れるんだろう。レベルが上がればエアヴァクセンの役に立てたかもしれない。
Lv1のスキルで何ができるって言うんだろう……。
「おう、移転者か?」
聞いたことのない声に、ぼくははっと顔をあげ、足を止めた。
顔をあげて見回せば、粗末な服に粗末な剣で武装した男五人がいつの間にかぼくたちを取り囲んでいる。
「SSランクの町へ行けるなんて、相当な栄転じゃねぇか。その幸せ、ちょっと俺たちにも分けてくれよ。あるいは俺たちと一緒に来るか」
「なあにあなたたち。わたしは栄転なんてしてなムグッ」
ぼくは慌ててアナイナの口を塞いだ。しかし遅かった。
「栄転してない? その面からして、ガキ……仮住人か?」
「へえ。エアヴァクセンの仮住人なら、いい生活してるだろ」
「SSランクの町のアイテムの一つや二つ、置いてってくれよ」
盗賊――!
盗賊は町に属していない。犯罪などで町にいられなくなった人間が、町から遠く街道に近い場所に集まって小屋などを作って住み、街道を通る商人などを襲う。もちろんランクの高い町の品物が目当てなんだけど、当然のことながらランクの高い町ほど運び出す商品は厳重な警護がついていたりするので、そこらの盗賊じゃ手が出せない。
でも、なんでエアヴァクセンからこんな近い距離に盗賊がいる?
エアヴァクセンはSSランク、当然町や商品を守る警備兵も大勢いる。
「月頭は稼ぎ時なんでな、足を伸ばすんだよ」
ぼくの表情から考えを読んだのか、盗賊の一人が嫌らしい笑みを浮かべた。
「追放や栄転、目覚めたばかりのガキが街道を出歩く。スキルの使い方も慣れてないから町から支給された金が手に入れやすいんだよ」
「うわ、最悪」
「そうさぁ。だが、最悪のことをしなければ俺らも生きてけねぇんでな。町に頼らず生きるには金が必要なのさ」
「でも、残念ながらぼくは売り物にはならないよ」
アナイナが何か言おうとする口を塞いだままぼくは答える。
「ぼくは追放も追放、追放先がないんだから。Eランクの町すら紹介されない人間だよ? 紹介する町がないからお金も支給されなかったんだよ? そんなぼくが何か持っているとでも?」
「追放先がない?」
「そ。何処へでも行け、でも町の恥さらしだからどの町にも行くな。要するに人間のいる場所には行くな。それがぼくの鑑定結果」
「具体的には?」
「レベル上限が1だった」
うわ、と盗賊たちの顔が歪む。
「相変わらずエアヴァクセンはひどいな」
盗賊の一人が顔を歪める。
「町長のプライドが高いからなあ」
「ああ、SSランクってことで調子乗ってる」
「町のためじゃなくて自分のためだろが」
ん? この盗賊たち、ミアスト町長のこと、知ってる?
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