第4話・反エアヴァクセン盗賊団
「あのー。もしかして皆さん、エアヴァクセンの町長、知ってる? ミアスト・スタット町長」
まだもがもがやっているアナイナの口を塞いだまま、ぼくは聞いた。
「知ってるも何も」
盗賊の一人が言う。
「俺らを追放したのはあの野郎だからな」
「え。もしかして……皆さん、元、エアヴァクセンの住人だったって、こと?」
一番若そうな盗賊が頷いた。
「俺はな、Bランクの町から栄転でエアヴァクセンに来た。スキルは水を操る「
そりゃすごい。水を自在に操る能力をレベル3000で持っていたら、十二分に町のために働けるだろう。
「だけど、移転者歓迎の式典、俺は腹を壊して休んだんだ。緊張からくる心因性のもので、一日休めばよくなるって診断だった。ところが、次の日俺を待っていたのは、追放処分だった」
「え……?」
「ミアストの野郎曰く、エアヴァクセンの住人に、
「……マジか」
「マジだ」
若そうな盗賊が大きく頷く。いや、若そうじゃなくて若い。栄転してすぐ追い出されて三年なら、十八かそこらかってことになる。
「オレもそう変わらねぇ。Aランクの町で生まれ、空中に光で絵を描く「
「私は範囲内にいる人間に決まりを守らせ、守らない場合は罰を与える「法律」。上限は4500。町長に「SSランクの住人に相応しい行動をとるように」と言う決まりを町に、と言われたが、そもそもSSランクに相応しい行動がどんなものか分からない、具体的に決まりを作ってくれと言ったら逆切れされた」
「儂は土地を肥やす「豊作」。上限は5000。全部の畑にスキルを使えと言われて逃げ出した。エアヴァクセンの畑全部にスキル使えというのは無理じゃろ」
「ボクは動物を食べられるようにする「
五人が五人とも、元エアヴァクセンの住人だったとは。しかも、ぼくよりはるかに役に立つスキルを持って……。
「問題がなければ、エアヴァクセンで平和に生きてけたんだ……」
「まあ、もうあの町に住もうっていう考えはないな」
「エアヴァクセンが理想にあふれ、よい町になろうと皆が努力していたのも今は昔、もう
「じゃあ、わざわざSSランクの町の傍で盗賊してるのは……」
「嫌がらせだよ、単純に」
スキル「水操」を持っていた盗賊、ヴァダーさんが言った。
「俺たちを追い出したことを後悔させてやる、ってな。それが俺たち「反エアヴァクセン盗賊団」だ」
「……聞いたこと、ない」
五人の盗賊団は苦笑いをした。
「仕方がないさ、儂が三十年前に作って、団員を入れ替えながら嫌がらせを続けてはきたものの、ミアストはともかく普通の住人は警備兵に守られているから、そういう盗賊団があるということすら知らん。一時は団員が十五人いたこともあったが、派手にやらかしすぎて徹底的に潰されて、囚われたり別の地方に逃げ出したりした。今ここに儂を入れて五人いるだけで奇跡だ」
団長のヒロントさんが渋い顔をして言った。
思えば、寝物語に聞く「盗賊」は、卑怯で薄汚くて臭くって恐ろしい、そういう存在だった。
だから、反エアヴァクセンを真面目に掲げる盗賊団がいるとも思わなかった。
「……月頭にここに顔を出すのは、実際には移転者への警告だ。相当上手く立ち回らないと町から追い出され帰る場所を失う、とな。ほとんどの移転者は栄転組で、そんな儂らの警告など聞かずに飛び込んで行ってしまうが……」
「後はあんたみたいな追放者のスカウト。……正直、エアヴァクセンの移転は無茶苦茶と言っていい。
「空画」と言うスキルを持つシエルさんも苦い顔だ。
「町を、造ればいいじゃない」
「アナイナ?!」
突然の一言に、盗賊団の全員が目を丸くした。
話される事実に呆然として思わずアナイナの口を塞いでいた手を放してしまった、その途端にアナイナが続ける。
「町がないって言うなら、町を造ればいいじゃない。みんなが平和に暮らせる、エアヴァクセン以上の街を」
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