”友達クエスト”の少数派 ―フレンド数=強さのVRMMOで芋ぼっち美少女の世話をしたら「と、友達なんかじゃないもん……」とデレてきたので一緒に攻略しようと誘ってみた―
4-5 友達とのゲーム遠足は思い出になるかもしれない話
4-5 友達とのゲーム遠足は思い出になるかもしれない話
「パソコン画面に大きな風景映しながらお弁当。なんか雰囲気でるよね。あ、水筒も持ってきたよ」
「い、家で水筒はいらないでしょ……」
「そこは雰囲気で。遠足先で冷えたお茶を飲むとさ、なんかすっごく美味しく感じない?」
テーブルに弁当箱を二つ並べ、ぱかっと開いてみせる。
中身はシンプルな塩おにぎりに、玉子焼き。インスタント品のチキンナゲットに、ポテトサラダ。枝豆とレタスにミニトマトを添えた子供っぽいお弁当だ。
手抜きなのは僕の自炊能力の低さなので許して欲しい。
「時々、あなたって物凄くバカなんじゃないかと思うわ」
呆れ半分といった体で彼女が箸を取った。
さすがにヘッドセットを被ったままご飯は行儀が悪いので、自宅のパソコン画面に山頂を写しながら、自宅でお弁当。
水筒から冷たいお茶を注ぐと、とくとく、と可愛い音がした。
彼女が塩おにぎりに手を伸ばす。
一口含んで、ん、とちいさな声をあげた。
「なにも入ってないのに美味しい……何味なの、これ」
「ただの塩。でもお手製の塩おにぎりって、家の味がするんだよね」
「まあ。……インスタントの味って、ベタっていうか、慣れた味しかしないものね」
お手製でおにぎりを作るとちょっと塩が濃かったり、不格好だったりするけど、その違いが結構面白い。
彼女がはむはむとおにぎりを口にし、玉子焼きに箸を伸ばす。
ふっくらとしつつもしょっぱい口あたりに、彼女がぱちぱちと瞬きした。その口元がそっとほころんだのを見て、彼女の好みが甘口派でなかったことに安堵したのは秘密だ。
ついでに、ぷちトマト。水分を吸ってちょっとふにゃっとしてるけど、それくらいが僕好みだったり。
「お弁当の最後に枝豆つまむのが好きなんだよね。デザート代わりに丁度いいっていうか」
「ホントの遠足みたいじゃない」
「まあまあ」
そうしてお弁当を平らげた僕らは、一息つきながらのんびりとお茶を口にした。
パソコンの画面は相変わらず山頂のまま、雲がゆるりと流れていく。
僕はふと昔を思い出し、小学生のころの記憶を探る。
……人の中に紛れるのは、あまり好きではなかったけど。でも――
「小学生のころさ、僕の学校でも鍛錬遠足があったんだ。……正直に言うと、嫌いだったんだよ。前日は風邪気味で、当日も身体が重かったんだ。けど親に心配かけたくなかったから、元気なフリして出かけたんだよね。そしたら結構な山道でさ。途中で同級生も二人くらい、体調不良で下山しちゃって。僕も降りたいなーって思ったんだけど、ここで降りたらみんなや先生に迷惑かかるし変な目でみられると思って、必死に登ったんだよ」
あの時は辛かった。本当に辛かった。
……けど山頂に近づくと、空がひらけてきて。
疲れを忘れるくらい、わーっと景色が広がって。
「疲れたけど、でも、山頂でみた景色がすごく綺麗だったんだよね。本当に」
「それで?」
「まあ、それだけの話なんだけど。ていうか深瀬さんじゃないけど、鍛錬遠足ってあんまり意味ないかなって……次登る時は、ロープウェイ使いたいね」
特にオチのない話をしてしまった。
というか僕自身、今一何の話をしたいのか自分でも掴めていなかった気がする。
そうこうしてる間に、ゲーム内時間もリアル時間もすっかり暮れてしまう。
水平線の向こうに太陽が沈み、青空が溶けるように藍色へと変わりやがて夜へと落ちていく。
それを、何となく二人で眺めていた。
「意味はないけど、綺麗ね」
「そうだね。意味はないけど。でも、なんだろ。こういう感じだと思うんだよ」
「アレ?」
「同級生とファミレスに寄ってさ、色々喋るんだけど、後で考えたらよく覚えてないなーってやつ」
「……そ、そうなの……? ふーん」
それから僕らは何となく沈黙した。
ゆるりと時間が過ぎていき、僕等は特に理由のない時間を、のんびりと楽しんだ。
このイベントはきっと、僕らにとって何の実にもならないだろう。
ただお隣さんの家で、一緒にゲームの風景を見ながらお弁当を食べたという、それだけの話だ。
非効率で無意味で無価値、なんて、もしかしたら人に言われるかもしれない。
でもまあ、それでも良いかなぁ、なんて……僕は思う。
深瀬さんがふっと息をついた。
いつもの青ジャージ姿のままゆるりと笑い、大切なものを収めるように弁当箱を閉じる。
「お弁当、美味しかったわ。ありがとう」
「いえいえ。美味しく食べて貰えると、僕も嬉しいから」
そうして彼女が席を立ち、
「じゃあせめて、弁当箱はあたしが洗うわ」
「え、深瀬さん洗い物できるの? やり方教えようか? まずね、スポンジに洗剤を――」
「あんたあたしを何だと思ってるの!?」
僕がわざと突っ込まれやすい台詞を言うと、彼女は期待通りにノッて、いつもの空気に戻った。
洗い物を彼女に任せ、僕らはのんびりとゲーム内での下山を始めた。
*
翌日、僕等は獅子王さんから目的のローブを頂いた。
星屑のローブと名付けられたそれは、深瀬さんの魔法攻撃力と防御力を飛躍的に上げられるだろう。
僕が満足げに回収していると、深瀬さんが僕の肩をつついてきた。
「ねえ。……あの龍の絵、普通のイラストとして貰えないかしら」
「え?」
「拠点に飾っておきたいの」
それ以来、僕らの拠点には二つのイラストが飾られるようになった。
獅子王さんから貰った、夜空に昇る龍のイラスト。
それと、もう一つ。
笑顔の僕と仏頂面の深瀬さんが並んだ、ササラ山山頂で撮影したスクリーンショットのイラストだ。
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