4-4 リアル遠足は大変だけど、
「別に必要ない装備なのに……」
「ごめんね。僕が欲しくなっちゃったから、素材集め一緒にしよ?」
獅子王さんと別れた後、僕らは北方にあるササラ山を訪れていた。
目的は山頂にある【ウツシヨの実】というアイテムの採取だった。
とはいえ、道のりは楽だ。
ササラ山は本ゲーム内では珍しくモンスターが出現しない。
山頂にある【ウツシヨの実】だけがレアアイテムであり、たんに時間がかかるだけの作業だった。
ピクニック気分で進む感覚は、何かに似ている――ああ、あれだ。
「学校の遠足みたいだね。山道をのんびり登ってくやつ」
「学校最凶四天王の一角ね。体育祭、クラスマッチ、マラソン大会、文化祭に遠足水泳そして合唱コンクール。遠足なんて歩いて疲れて、一人でお弁当食べてまた疲れて返ってくるだけのクソイベよ。それで先生に『深瀬、友達いないなら一緒に先生食べようか』とか言われて惨めさが増すの……」
地雷踏んだ。
僕はそういうことが起きないよう、また起こさないよう、さりげなくクラスで外れてる子の所に顔を出して、お弁当の交換をダシに混じっていた気がする。
んー……でも。
山道を歩く遠足は大変だけど、いい景色のところでお弁当を食べるのは嫌いじゃなかったなぁ。
――うん。
これは、余計なお節介だけど。
「深瀬さん、今日の夕ご飯まだだよね? 少し、先に進んでてもらっていい? あ、僕一旦ログアウトするから僕の魂魄持ってって」
「は? え?」
彼女に告げて、ゲームを一旦ログアウト。
ササラ山にはモンスターが出現しないので、ソロプレイでも問題無い。
その間に僕は夕食用に焚いておいたご飯に手をつけ、冷蔵庫を開いて仕込みをした。
30分ほど待たせた後に再ログインし、山道をせっせと登る。
現実だと1000メートル近い標高も、ゲーム内なら息切れもない。
そして山登りの醍醐味といえば――山頂からの絶景だ。
無限に続くような坂道がゆっくり途切れ、視界いっぱいの青空が広がっていく――この先が山頂なのだ、と感じるられるわくわく感は、VR内でも同じだ。
「わぁ……」
ようやく訪れた山頂はちいさな平地になっていた。
中央に一本、ぽつんと佇む枯れ木のようなオブジェクト。
その奥には両腕を広げても届かないほどに広々とした、青空と大地が広がっている。眼下に広がる森は、ちょうど、僕らの拠点とクラスメイト達の街をはさむ森林に当たるようだ。
へえ、と深瀬さんが感嘆の息をついた。
「よく見たら、遠目に火山地帯も見えるわね。あっちは……砂漠かしら?」
「結構、広範囲に作られてるよね、このゲーム」
まだアップデート待ちなため行動範囲は限られてるけど、将来的には広範囲のオープンワールドになるらしい。
その頃には他クラス、引いては他高のプレイヤーとの交流も可能らしい。
世界が広がるなぁ、と景色を楽しんでいると、深瀬さんが山頂の木に近づいた。
【ウツシヨの実】を手にした深瀬さんは、景色を楽しみつつ、ふと尋ねる。
「ねえ、蒼井君。余計なお世話かもだけど……こんなことしてて大丈夫なの?」
「というと?」
「次、中間試験でしょ? 四人迷宮だって苦労したのに、こんな無駄なことしてて大丈夫かな、って。……ま、まあ別に、あなたならクラスのみんなと攻略もできるでしょうから、問題はないのでしょうけど。だとしても、絵のために山道登るなんて非効率じゃない?」
”友達クエスト”を成績の観点から見るなら、自己強化するべきでは?
まあ、彼女の意見は正しい。この上なく。
けど――
「深瀬さん。さっき用意したものがあるんだけど……ちょっと待っててね? あ、ゲームじゃなくて、リアルの方ね」
「リアル?」
と、僕は一旦その場でログアウトし、台所から例のものを取り出した。
いつものようにベランダをトントンと叩き、彼女の家にお邪魔しながら僕がお見せしたのは――
「は? え、お弁当?」
「山の上といえば、お弁当かなって。晩ご飯に弁当は、ちょっと変わってるけど」
変わっててもいいじゃない、と僕は彼女に弁当箱を差し出した。
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