1-7 友達? なにそれおいしいの?
地下洞窟から脱出――の前に、やることがあった。前衛後衛の決定だ。
「隊列どうしましょうか。深瀬さんは前衛ですよね?」
初期装備が大剣と黒鎧。間違いなく重戦士タイプだろう。
僧侶である僕との愛称は、とても良い。
「破壊神さんの職業は、戦士ですか? それとも魔法戦士?」
「…………」
「あれ、では聖騎士とか、あるいは特別な……?」
「……ま」
「ま?」
「……魔法使い」
!?
「大剣と黒鎧を装備してませんでした?」
「あ、あれは【軽装薬】っていう、装備品を軽くする薬を使って無理やり装備してて……。普通だと一歩も動けなくて、そ、そもそも魔法使いが装備できる鎧じゃなくて」
「ではなぜ鎧を……」
「そ、っ」
うぐぐ、と声に詰まる破壊神さん。
顔から湯気が出そうなくらい真っ赤になっている。
「……だって。初対面の人と会うんだもの。武装しないと、ここ、怖いじゃない……」
「成程」
「も、もし相手がいきなり『へいへいお嬢ちゃーん、俺と遊ばない?』とか言ってくるパリピ陽キャだったら、あたし確実にぷるぷる震えたまま10割コンボ確定だもの……そ、そうならないように、まずは形から威圧しないと、って……」
「それなら戦士職にしたら良かったんじゃないです?」
「……でも魔法使いの方が、え、遠距離で近づかないまま、一方的にマウント取れるかなって……」
ぷるぷる震えつつ、涙目で訴えてくる破壊神さん。
思考は合理的といえばまあ……合理的? かは分からないけど、気持ちは分かる。
状況を整理すると――
モンスターが出まくる未知の洞窟。
初心者の後衛職LV1ふたり。
迷子。
死んだらレアアイテム即没収。
「ね、ねえ蒼井君。もう詰んだとか思ってない?」
「そうですね……入学式の日に腹痛で寝込んで、一週間後に初登校したら教室のグループが出来上がってたくらいの難易度ですかね」
「あたしなら詰んでるわそれ!?」
「創意工夫でがんばりましょう」
「創意工夫じゃコミュ障は治らないのよ……」
それでもなんとかしましょう、とお互いのアイテムを確認しようとして。
ぴこん、と効果音が響いた。
【フレンド登録を行いますか? はい\いいえ】
【チュートリアル:フレンド登録を行うと、自分と相手は【友達】状態となり以下の恩恵を受けられます。
・フレンド数に応じた経験値の増加
・フレンド数に応じた入手アイテムの増加
・フレンド救援の実行可能
その他フレンド数に応じて様々な特典が解放されます。ぜひ最高のフレンドを登録し、友達になりましょう】
フレンド登録――通常のオンラインゲームでは、サポート機能としてありふれた単語だ。
けどそこは”友達クエスト”。フレンド登録しただけで経験値やステータスUP効果まであるらしい。
逆に言えば、フレンド登録をしなければ攻略が難しい難易度だろう。
本ゲームの真価は楽しむことでなく、人間同士のコミュニケーション能力を向上させるためのグループワーク。
彼女とのフレンド登録こそ、本ゲーム攻略の最重要項目――だけど、
「とと、とも、だち……? なにそれたべれるの……?」
メッセージを前に、彼女はちいさく震えていた。
血色のよい顔が青ざめ、チュートリアル画面の【はい\いいえ】をじーっと見ながら身を縮めたまま、どうしようどうしようと戸惑い――いや、怖がっている。
うーん……
考え事をしてると、彼女が僕に気付いてびくっと肩をふるわせた。
「あ、えと。その。ごご、ごめっ……これ、フレンド登録した方が、攻略的には有利なのよね? いい、いや別に、嫌とかじゃなくて……ただ、びっくりしたっていうか、あ、あたしなんかが友達っていうのも、気持ち悪いかなって……てか、ふ、フレンドってこれ登録したらリアル友達にならなきゃ絶対ダメなの……?」
「そんなことはないと思うけど……」
「でもフレンド登録した方が、やっぱり、有利なのよね?」
確かに攻略上、有利か不利かと言われると絶対に有利だろう。
アイテムロストの件といい経験値といい、本ゲームがフレンド登録を前提として組まれているのは明白だ。
けど、うーん……
幾ら学校のイベントだからといって。
フレンドを強要するのは、どうにも――腑に落ちない。
「まあ、攻略上は有利だと思いますけど……今は止めておきましょうか、深瀬さん」
「え!?」
彼女がびくっと震えた。
ああいけない。誤解させる言い方になってしまったか。
焦ってはいけない、と、僕は彼女へ丁寧に事情を説明する。
「えっと……このゲームって”友達クエスト”ですし、フレンド登録をした方が有利になるとは思います」
「そ、そうよね? だったら」
「でもゲームに有利だから絶対フレンド登録しなきゃいけない、ってこともないと思うんです。確かに攻略上は有利ですけど……好きでもない人と一緒にパーティ組むのは、嫌でしょう?」
「ぅ……」
「僕と深瀬さんはまだ初対面です。初対面の人に『友達になろう』っていきなり言われたら、やっぱり困るじゃないですか」
それに今見た感じ、深瀬さんは明らかに僕を怖がっていた。
正直僕も、初対面の人によく知らないまま「友達になろう!」って言われると困るタイプだし。
なら、一旦保留でもいいだろう。
「このフレンド登録、いつでも出来るみたいですし。まあ、気が向いたらやりましょう」
「……あ、蒼井君は、それでいいの?」
「急ぐものじゃないと思います。まだ序盤ですし、ぼっちプレイにもそこまで厳しくない設定かと。あと――」
付け加えた台詞は、自分でも少し、格好付けすぎたか、と思ったけど。
「友達って相手に強要するものじゃない、って僕は思いますし。こういう時フレンドを組まない方が、なんか本物の友達っぽい感じ、しません?」
彼女の目がぱちりと瞬いた。
驚いたような、呆けたような。
暫く待つと、彼女が我に返り、うんうん、と犬みたいに大きく頷いた。
「う、うん。それで、いいなら……い、いいと思う!」
「じゃあ、そういうことにしましょう」
何事も、曖昧にしておいた方がいいこともある。
物事を円滑に進める秘訣だ。
そうして僕らは、初めて出会った相方とフレンド登録をしないまま――このゲームの本質に背を向けて、歩き始めた。
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