”友達クエスト”の少数派 ―フレンド数=強さのVRMMOで芋ぼっち美少女の世話をしたら「と、友達なんかじゃないもん……」とデレてきたので一緒に攻略しようと誘ってみた―
1-8 て、手を繋ぐのは攻略のためなんだからねっ
1-8 て、手を繋ぐのは攻略のためなんだからねっ
洞窟からの脱出を開始した。
僧侶と魔法使いという後衛二人だけど、一応僕が前に立つ。
洞窟の様子を見るに、モンスターの数は少ない。
さっき見た小型ウサギやアリ型モンスターが徘徊しているだけだ。
「蒼井君。こういう迷宮って、左手の触れたところを壁伝いに進むと、かならず出られるって聞いたことあるんだけど……」
「左手の法則でしたっけ。けど、あれは落とし穴があると使えないらしいですよ」
「そう……あ。待って、あたしアイテム他にないか探してみるわ」
深瀬さんがアイテムを探す。
回復アイテムらしき瓶や、謎の巻物が出てきた。鎧と同じく初期ボーナスで貰ったものらしい。
「あっ。こ、これどうかしら?」
彼女が取り出したのは、水色に澄んだ指輪だった。
【隠者の指輪】
【装備者の姿を透明にし他者を欺くことができる。一定時間装備すると自動的に壊れる】
「陰キャの指輪ね」
「隠者の指輪ですね」
「現実でも使えたらいいのに。町中で偶然、同級生と会った時のいたたまれなさから身を守れるわ……」
装備すると、彼女の姿がふっと消えた。完全に見えない。
これなら効果がありそうだ。
ただ、問題がひとつ。
「僕は消えないんですね」
「ぁ。そ、そうね。どうしよう――」
そのとき僕には見えなかったが、彼女の手がふいに僕に触れる感触があった。
視界がぶれ、先程まで見えていた僕の右手が消える。
視界の端に表示される【ステータス異常:透明】の文字。
この指輪はどうやら、装着者が直接触れているものまで透明化されるらしい。
「…………」
「…………」
言葉にしなくても伝わった。
僕はどうしたものかと戸惑いつつ、手をすこしだけ彼女に寄せる。
見えない指先が触れた。
深瀬さんの戸惑いを表現するかのように、彼女の人差し指と中指が僕の指先をさぐりあてる。
彼女の手がやがて僕の手の平に重ねられ、遠慮がちに、きゅっ、と握られる。
最新の感覚共有システムはその柔らかさを遺憾なく発揮し、僕に架空の『女の子と手を繋いでる感覚』を結びつけてきて――正直、ちょっと居たたまれない。
「すみません。これはアリ、なんでしょうか」
「こ、攻略のため、だから……フレンド登録しなくても、で、できるってこと、やってみたい、し……?」
見えないから大丈夫でしょ。
変なことしてる訳じゃないし。
……という深瀬さんの顔は、透明で見えないけれど赤くなっているかも。僕がそうだから。
友達でもない女子と、手を繋ぐ。
すこし、後ろめたい味がした。
*
そうしてモンスターの目をかいくぐり進んでいた僕らであったが、思わぬ障害が現われた。
アリの行列だ。
一匹一匹のサイズは足首程度だけど、ぞろぞろと切れ目のない列を成して僕らの前を進んでいる。
透明状態でも、さすがにぶつかったら発見されるだろう。
僕らは慎重に跨ごうとした。けど、
「あ、っ」
手を繋いだ彼女が躓いた――気配がしたので、カンで手を伸ばした。
アリの群れに倒れそうな彼女をキャッチ。
そして見えないけど、ふにっとした柔らかくてとても豊かな感触が右腕に触れる。
「「…………」」
僕は無言でそっと彼女を起こした。
……いま何が起きたのか分からないほど僕は鈍くなく、そして彼女もにぶくなかった。
その証拠に僕らの間には妙な沈黙だけが残っていた。
「ご、ごめん……」
彼女から返答はなし。
ゲームとはいえ、いやゲームだからか、普段出くわさないシチュエーションに、調子が狂う――
と思っていたら、隣でもぞもぞと気配がした。
「深瀬さん?」
「あたし、昔から運動が苦手で。跳び箱とか越えられなくて……」
彼女が僕の背後に回る気配が、風のゆらぎと熱を伴って感じられる。
それから、ぽんぽん、と僕の背を叩く。
「だから、その。頼ってもいい、かしら……?」
その意図を計れないほど、僕は鈍くなかった。
僕はほんのすこし考えた末、そっと膝を屈める。
その背におずおずと彼女が腕を回し、遠慮がちに体重を預けてきたのを確認して僕はそっと立ち上がった。
彼女を背負って飛び越えよう、という判断だ。
幸いゲーム補正がかかっているのか、彼女を背負っても僕の動きは鈍くならないようだ。
……背中からハッキリと感じる、彼女のやわらかな感触は別として。
それでも僕は遠慮がちに彼女に問う。「色々、気になりませんか?」と。
「友達じゃないから大丈夫」
そうかなぁ。
「それにあたし、その……結構、ゲーマーだから……アイテム失うのは、やっぱり嫌なのよ」
まあ僕もゲーム好きなので、その気持ちは大変に同意する。
同時に、僕等はもしかしたらとても背徳的なゲームを行ってるのかもしれない、と、少しだけ思った。
*
そうしてアリを越えウサギを避け、洞窟を進んだ先にて――
「出口……?」
ちいさな広間の先、すこし坂道を登った前方からうっすらと、眩しい光が差し込んでいた。
「やった。行きましょう」
「あ、待ってください深瀬さん。出口の手前、よく見てください」
出口手前はちいさな広間になっており、これ見よがしにと骸骨のオブジェクトと小銭が転がっている。
地面はうっすらと濡れ、どろりとした液体の残骸がへばりついている。
僕らは天井を見た。
お椀をひっくり返したような岩壁の真ん中に、べったりと、紫色のスライムが張り付いていた。
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