”友達クエスト”の少数派 ―フレンド数=強さのVRMMOで芋ぼっち美少女の世話をしたら「と、友達なんかじゃないもん……」とデレてきたので一緒に攻略しようと誘ってみた―
1-6 会話ステータスが低いと初手「あああ」しか出てこない
1-6 会話ステータスが低いと初手「あああ」しか出てこない
落下した先は、ちいさな地下洞窟のようだった。
ごつごつとした茶色の岩に囲まれた、地下洞窟フィールド――本来なら光も当らないはずだけれど、そこはゲームの仕様なのか、壁自体が発光してうっすらと空間を照らしている。
で、尻餅をついたまま滑り落ちた僕は、というと。
「…………」
「…………」
気絶から復帰した破壊神さんに距離を取られ、じっ……と観察されていた。
目を尖らせ壁に張り付き、僕が動くと、びくっと肩をすくめて大変に警戒されている。
怖がらせてしまったかもしれない。
たしかに勢いで彼女を抱えて逃げたけれど、一旦ゲームを中断するとか他に方法があった気もする……。
初日から大失敗をしてしまった。失った信頼を取り戻すのは難しい。
まあそういう時は、誠心誠意きちんと謝罪するしかない――
「「あの」」
被った。
とりあえず彼女に譲ると、破壊神さんはもぞもぞと俯き、猫背ぎみにこちらを伺ってきた。
「……あ、あのっ、っ、えっと、その……」
「はい」
「えっと、あの、その。……その、あの、あ、あああっ」
あたふたと、何かを一生懸命に表現しようと口をぱくぱくさせる破壊神さん。
指先が空中を彷徨うように動いているのは、何か言いたいのだけど言葉が出てこないみたいだ。
「大丈夫です、破壊神さん。ゆっくり、落ち着いて」
喋るのが苦手らしい。
それでも一生懸命に喋ろうとしているのを遮らないよう、じっと待つ。
「……ご、ごめっ、ごめんなごふっ」
咽せた。
「……じ、人類と話すのは、ひ、久しぶりなの……ごめんなさい。あたしも、慌てて、つい、その……助けて貰ったことは、分かってるの」
「いえ、僕の方こそすみません。まだゲームに慣れてなくて、つい抱えて逃げてしまって、落とし穴に」
「う、うん。あたしこそ挨拶もしないで、いきなり逃げちゃって……それから森に突っ込んで、ウサギにぼこられて、でかいウサギに追われて……」
あああ、と頭を抱えてアルマジロみたいに丸くなってしまう破壊神さん。ちょっと可愛い。
と同時に会話を挟んで、僕は彼女の人柄にアタリをつける。
この子は――怖がりで、人が苦手なタイプだと思う。
僕は中学の頃、二回ほどクラス委員長を務めていた。そのとき先生に頼まれて不登校の生徒に挨拶に行ったりしたのだけど、彼女によく似た感じの喋り方をする男子がいた。その時すこしだけ、会話の方法を覚えた。
せき立てるように喋りまくらないこと。
丁寧に話すこと。
性根は良い子なのだろう、とも推測する。
ここは一旦、話題を揃えつつ深呼吸をしよう。
「まあ、僕もさっきミスって、落とし穴にかかりましたし。そこはその、お互いごめんなさいというか……それより、休憩をしつつ状況整理しませんか?」
「そ、そうね……うん……」
こくこく頷く破壊神さん。
うん。きちんと話が通じるし、状況は悪くない。
であれば次に、状況確認だ。
「まず、洞窟からの脱出の前に、友達クエストのセーブ方法について調べてみますね」
洞窟内で全滅したらどうなるのか?
セーブ方法は? ログアウトしたら、どこから再会なのか?
チュートリアルを呼び出し、僕らは改めて確認する。
【チュートリアル:セーブについて】
【本ゲームは常時オートセーブされます。いつでも中断し、リアルの友達と会うことが可能です】
よかった。ゲームはどんな時でも止められるらしい。
これならいつログアウトしても大丈夫――
【チュートリアル:ログアウトについて】
【本ゲームのプレイヤーはログアウト後、その場で”魂魄状態”という小さな球になります。魂魄状態で他プレイヤー及びモンスターに倒されると敗北扱いとなります。本ゲームはログアウト状態でもモンスターに襲われるため、安全を確保した上でログアウトしましょう】
大丈夫じゃなかった!?
仮に迷宮でログアウトすると、次回起動したらやられてました、って事が普通にあるんだけど!?
【チュートリアル:キャラクターの敗北について】
【プレイヤーが敗北した場合、プレイヤーは全装備およびアイテムを失い初期地点から再開します。一定時間内にアイテムを失った場所に戻ることで回収が可能ですが、『登録フレンド数×10分』を越えると消滅します。たくさんの友達とフレンドになることは、あなたの安全を確保することに繋がるでしょう】
設定がシビアなんですけど!?
正直「なんだこのゲーム……」と思ったけど、幸い僕はまだゲームを開始したばかりだ。
持ち物も、先生からもらった初期アイテム――回復薬や閃光弾くらいなので、ロストしてもまあ――
いや、待った。
さっき破壊神さんにお返しした黒鎧と黒剣って……あれ、レアアイテムなんじゃない?
「すみません。破壊神さんの全身鎧って、どうやって手に入れたんですか?」
「ぅ……その。ちょっとお願いして初期装備に、い、色をつけてもらって」
「ちょっと、とはどれ位の……?」
僕に向かって、人差し指をちょこんと立てる破壊神さん。
「……ドロップ率でいうと、これくらい……」
「1%ですか」
「0.01%くらい……」
「無くしたら再支給されたり、しませんか……?」
ぶんぶん首を振る破壊神さん。
まずい。初日から超レアアイテム全ロストしました、なんて先生に報告できない。
成程、これは大変辛い。
辛い状況ではあるけれど――
ここは僕が、なんとかしなくては。
「脱出しましょう」
「ぇ」
「確かに変な洞窟に迷い込みましたけど、よく考えたら初期地点からそう遠くない森の洞窟です。敵が場違いなほど強いとも思えません。ですから、頑張って脱出しましょう」
よし、と立ち上がり、気合いを入れるため屈伸運動。
頑張っていこう、と自分に強く言い聞かせる。
そんな僕に、破壊神さんはホントに申し訳なさそうにぺこぺこと謝る。
「……あの、ご、ごめん。本当にごめ――」
「大丈夫ですよ」
「でも」
「落とし穴に落ちたのは、僕の責任ですし、気にしないでください。それよりも、ここから挽回できるよう頑張りましょう」
「……け、けど失敗したら、あなたのアイテムも」
「大したものは持ってませんし、それに、まだ負けたと決まった訳じゃありませんし」
ぐっと腕を伸ばし、キャラクターの身体を伸ばしていく。
実際に身体を動かしてるわけじゃないけど、こうすると活気が出てくる気がするし、彼女の目線から見てもやる気が出てるように見えると思う。
やれるだけ頑張ろう。
それで上手くいかなかったら、その時はその時だ。
「そうだ。遅くなりましたけど、僕は蒼井空と言います。それで……」
視線を送る。
破壊神さんは意図は理解できたらしく、目を逸らしながら、くぐもった声で呟いた。
「……深瀬。深瀬、ひなた」
「破壊神ダークネスドラグーン=デッドエンドさん」
「そんなの偽名に決まってるじゃない……!」
頬を膨らませて怒ったその顔に、正直、ちょっとだけ可愛いなと思ってしまった。
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