1-2 初手ラスボスですか!?


 ……本当に、自宅にパソコンとヘッドセットが届いた。

 しかも単なるVRヘッドセットではない――五感全てを没入させる特殊なVR装置だ。


「うわ、すご……」


 『半没入VRシステム』――

 天才科学者エミリー=マーミリアにより開発されたこのVRシステムは、漫画や小節に出てくるフルダイブを半分だけ実現した天才の逸品だという。

 ヘッドセットを被っている間は五感全てでVR空間を感じられる一方、外の雑音も同時に感じられる、仮想空間の没入と現実認識を半分ずつできる最新装置らしい。


(世界最先端、ってレベルの技術じゃないような……)


 公式HPによると、この”友達クエスト”は政府も大々的に力を入れているプロジェクトらしい。

 すごいなぁ、とパソコンをセットアップしながら、一方で、気になることもある。

 僕は今朝の会話を思い出す。



―――――――――



「うちの学校にいない生徒、ですか?」

「今回のβテスト版に、訳あって参加することになってな。そこで蒼井に、最初だけでも一緒に組んでもらいたい。お前なら面倒見も良いしな。まあ無理を押し付けるぶん、初期アイテムには色をつけておくからさ」

「よく分かりませんけど、はい。……で、先生。その方の名前は?」

「…………」

「先生?」

「あー。その……だな」


 先生は頬を掻いて、ぼそっと。


「破壊神ダークネスドラグーン=デッドエンドさん、だ」

「先生、成績に関わるもので冗談はちょっと」

「本人がそう申告してくれてて言うんだもん……」



―――――――――



(一応、僕と歳は近いって聞いたけど……名前を隠したい理由がある、とか?)


 実は外国人留学生がプレイしてる、とか。


(地味にハードル高いなぁ)


 とりあえず翻訳アプリを用意しつつ、ドキドキしながらヘッドセットを装着。

 網膜生態情報から自動的にIDを算出し、ログイン。

 やがて光量調節や体感調節画面ののち、【戦士】や【魔法使い】といった職業選択画面が現われた。

 普通のオンラインゲームらしいなと思いつつ、僕は相手のサポート役を務められるよう【僧侶】を選択。


(あれ、名前入力と外見設定がない……って、え? 本ゲームで仲良くなった”友達”とリアルに会うとき違和感がないよう、外見と名前は本人をそのままスキャンし使用します?)


 つまり、女キャラを使ったネカマプレイ等は不可。

 あくまで自分としてゲーム内にインする必要があるらしい――と理解した瞬間。




 世界が変わった。




 気がつくと、僕は小さな草原に佇んでいた。

 さわさわと流れる春先の風が耳を打つ。


(うわ。ゲームの中だけど、現実みたいだ……)


 艶のある草の香り。

 青空を見上げれば、小鳥たちが鳴きながら飛び交っていく。

 視界の中では足首くらいの草木がゆらゆら揺れ、そのささくれが自分の足にこすれる感覚も確かに伝わる。


 本当にここに立ってるみたいと思いつつ、同時に、自分が「ゲームの中にいる」という感覚もある。

 僕の住む手狭な1DKマンションの様子もうっすらと見え、現実とゲームの世界が同時に認識出来る。


 正直、めちゃめちゃすごいな……と感心してると。

 自分の視界端――画面端に、チカチカと小さな明かりが点滅した。


【チュートリアル:助言機能をオンにしますか?】


 オンにすると、早速アイテムの使用方法など幾つかの説明が表示された。


(そういえば先生が、アイテムに色をつけてくれる、って言ってたっけ。まず確認してみようかな)


 ついでに操作方法を確認しよう、と身体をひねったとき――


 背後で、ヴォン、と小さな音。

 何だろう、と振り返って――


「…………は?」


 目を丸くする。


 僕が転移してきたゲーム開始地点。

 モノリスのような石造りの石碑が佇んでいた、その目の前に……前触れもなく、人がいた。


 僕はその人物を見上げた。

 見上げるくらいでかく、そして黒かった。


 体長およそ二メートル弱。

 全身を覆う漆黒のフルプレートアーマーに、背中に背負った大剣。

 まさに偉丈夫というか、怪物というか……明らかに”破壊しそう”な大男が、鉄仮面越しに僕をじっと見下ろしていた。


 ――え。もうラスボス?





―――――――――――――――――

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