暖かな愛で包んで
昔から俺は人が苦手だった。狐であり、人に化ける事が出来る俺は化け物とよく言われた。最初の頃は言葉の意味が分からなかったがその言葉と同時に殴られ、蹴られれば流石に罵る言葉だと分かった。あんな奴らと同じ姿になるものかと憎悪に呑まれ狐の姿で色々な所を転々とした。
そんなある日可笑しな女に出会った。綺麗に整った身なりの女は森で寝ていた俺に恐る恐る触れた。殴るわけでも蹴るわけでもなく優しく優しく頭を撫でた。その手があまりにも心地良かったから暫くの間そこに住み着いていたら娘は俺を抱えて家へと向かった。
家へ向かう馬車の中とても居心地が悪かったが嬉しそうに俺を見て笑う娘に仕方ないとくるりと丸まった。
家に帰って親に俺を見せると怒られ、涙目になる娘の涙を舌で優しく拭ってやった。すると途端にぎゅうと俺を抱き締めて大声でやだと言い始める娘に親は呆れた様子だった。
最終的には仕方ないと、強情な娘の思うまま俺はその家の一員となった。
毛並みを綺麗にされ、首輪を付けられた。娘が笑うからちょっと苦しいが我慢してやった。
それからは同じ事の繰り返しだ。娘は俺を可愛がり、撫でては可愛いねと言い。抱きしめては大好きと言った。娘は俺が離れると悲しげにする。仕方がないから良い子になってずっと隣で見守ってやった。
そしてその日は訪れた。娘の恋人が現れた。娘は照れた様子で両親へと報告したどうやら良い所の息子らしい。これからは此奴が娘を守るのだろう。
それから暫くして、娘が家を出る事になった。娘は泣いて泣いて、それでもまだ泣き足らないと涙を流した。
幾ら拭っても溢れてきた涙にとうとう参ってしまった俺は短い動物の手で頭を撫でてやった。
「ごめんね、ごめんね。彼の家には連れて行けないの」
そう言って俺をいつもより強く抱き締める。俺が心残りなのか。俺は娘から離れる決意をした。仕方ない事だ。
その晩俺は家を出た。
遠く遠くの地で俺は生き直そうお前の事はもう彼奴が守ってくれる。なら、俺は森へと帰ろう。
最後だ、と自分に言い娘の結婚式を教会付近の森から眺めてた。さようなら心優しい子。
どうか君の未来が健やかで、幸福である事を願っている。
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