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@nemunemuseizin
森田一豊
9年前、自身が営んでいた印刷会社が多額の負債により倒産し、現在借金は返し終わっているがその代償として、友人や家族、そして家も失った。
私の妻や娘は今どうしているのだろうか。
娘は生きていれば、恐らく今は20代前半だろう。私は時折、自分の目の前を行き交う女性が娘ではないかと、自分のことを父として誰かから話してくれないかと願ってやまない。もう9年以上も待っているが現れる気配は無い。内心諦めた方がいいとは自覚している。しかし心の中にいるもう1人の私が今際の際まで諦めたくないという執念、まるで道に落ちている黒いガムのような固まった願いがあった。
会社と同時にほぼ全てを手元からなくしたあの日から自分は生きていない。家から追い出された瞬間、自分の未来が見えなくなった。
あの日から自分の未来はすべて消えた。
あの手この手を使ってどうにか未来を掴もうとしたがそのどれもが自分の手から、金魚すくいの金魚のように逃げていってしまった。
朝早くからゴミをかき集め、その中に自分の食べ物を探す。今日はあまり収穫はなかった。いつもなら空き缶や、生ゴミを拾いそれを一日分の栄養素としているのだが、集められたのはいつもの1/2にも満たない。
しかし、私は娘と会える可能性を信じて今日も食べたくもない、野糞が葉っぱやたくさんの砂や変な液体が混じっている小学生が残したであろうお菓子を食べる。
「森田明って女性、知ってるかい?」
自分の周りにいる同じような立場の人間に尋ねた。しかし、妻を知る人間は誰一人いなかった。これを約5年以上続けているが、誰も知る人はいなかった。同じような人間に捜索の協力を何十人にも仰いだが、手伝ってくれるのはわずか2人だけであった。
何週間も探したが、自分の町には目撃情報はなかった。諦めかけていたその時、協力してくれた1人の男から約8年前の新聞を受け取った。
そこにはここから数kmも離れたマンションの5階で焼身自殺をしたとされる女性2人がいた。1人の女性は未成年のため名前が伏せられていたが、もう一人の女性には「森田明」と名前がつけられていた。新聞を渡した男はその女性が自分の妻だと言うが、証拠がなかった。
しかしその新聞の文章には「娘の右足は義足であったため、右足だけが残っていた。」という技術があった。
その時に思い出した。私の娘がまだ3歳の頃、間違えて車道に出てしまい右足だけが轢かれてしまったため粉砕骨折をしたのであった。そのため右足だけ義足になっていたのであった。自分はそんな重要なことを思い出さなかった自分を恨んだ。
その日自分はやっとわかった。
生きているとは未来があるということであると。
人には予定がある。明日や明後日、数週間後や数年後。それは生きるための道標のようなものだ。わたしは会社が倒産したあの日からずっと予定が1つしか無かった。あるのは自分の娘と妻に会うことであると。しかしその数年間かけてきた目標がたった一瞬、数分にして消え去った。
そして私は、そんな気持ちは誰にもわかることが無いのだろうと知り、ビルの屋上へと向かった。
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