ブルー・バレット

絶対に怯ませたいトゲキッス

第1話THE ブルー

 澄んでいるエメラルドグリーンの海を目前にして私は浜辺に立っていた。夏の終わりに吹く塩辛く生ぬるい潮風がすぐ横を通り抜けて、何処かへと去っていく。波は静かでリズミカルに音を立てている。後ろには一面のミカン畑が広がっていた。ここが私の故郷、海と自然の街メーア。

「行ってきます」

私はそう小さく呟いて、たとえどんなことがあったとしてもこの景色を一生忘れてしまわないように深く脳裏へと刻み込んだ。そうやって、私は一歩目を踏み出したのだ。





「お客さん、お客さん、終点ですよ。起きてください」

真っ暗な意識の外から聞き覚えのない低い声が聞こえる。

「う、うーん」

目と鼻の先に熊がいる。そう錯覚するほどほどの巨漢であった。熊にしては優しそうな顔をしたその男は心配そうな顔で私の顔を覗きこんでいる。周りを見渡すと小さなテントのような構造の建物である。ここはどうやら馬車の中のようだ。

「お客さん、つきました。終点の首都ダーリントンです」

馬車に乗っていたほかの乗客はいない。10日間の旅の末目的地にたどり着いて少しホッとする。運賃を払って馬車から出た。

「お客さん。夜の王都は治安が悪い、気をつけなさい」

「ありがとうございます」

首都ダーリントンは門で囲まれている城塞都市である。馬車が行けるのは門の前まで。そこから先は特別な許可がない限り入ることはできない。平和といわれている今の時代、厳重すぎるという声もあるらしい。

「メ、メーアからやってきました。クロリスです」

重そうな鎧を着た門番に役場で作ってもらった身分証を見せる。

「年は?」

「17です。明日が誕生日で」

「何をしにこの町へ?」

「18になるので職を務めようと思って。推薦状をもらって、近衛兵になる予定です」

門番はそう聞くと私のことをじっと見つめた。

「失礼だが、魔法師ではなく近衛兵なのかね」

近衛兵には屈強な肉体と強靭な精神が求められる。私の見た目がその正反対であることは私自身がよくわかっている。

「わ、私もよくわかんない、、、です」

門番はもう一度私をじっくりと見る。

「通ってよし」

ダーリントンの上には月がぽっかりと浮かんでいた。祭りと喧嘩の街と言われているだけあって、火が落ちていてもたくさんの人々が街を練り歩いている。遠くから聞こえる太鼓と人々の声が街の入り口まで熱気を届けていた。初めて訪れた、「王都」に私は圧倒されている。生まれてこの方メーアから出たことがなかったため、人がいすぎて緊張してしまう。知らない人が自分の横を歩いているというだけで、不安になって無駄に警戒しているのだ。そのせいか、周りにたくさん人がいるのに私の半径二メートルは人が立ち入っていない。都会になれるまでの辛抱だな。

「へいらっしゃい、新鮮な魚はどうだ?」

「お肉もおいしいよ」

唯一私に話しかけてくる客寄せをよけながら、私は王宮を目指した。王直属の護衛群である近衛兵は王宮に住んでいる。勤務開始一日前から近衛兵勤務予定者は宿泊することができるらしい。私のように遠方から来たものには助かる制度だろう。

 さて、さっきから私にチラチラと目線を送ってきている男どもはどういう了見だろうか。少なくとも視線でないことは確かだ。隙を見せたら今すぐ襲い掛かってきそうな気さえしてくる。いっそ、こちらから仕掛けて……と思ったが、師匠に”むやみに力を使うな”と言われていたことを思い出して我慢する。そちらから仕掛けてこない限り反撃はしない方がいい。でも何もしないというのも居心地が悪いな。動物相手の時は迅速に戦うという選択肢を取れたので楽だったんだが。とりあえず、走り出してみることにする。

走り出してすぐに距離が開くが、やはり相手はすぐに距離を詰めてくる。面倒くさいことになったな、近衛兵になるまでトラブルを起こしたくないんだけど。そもそも何で突っかかってくるんだろう。ただの観光客狙いならこんなに執拗に追ってくる必要もなかろうに。となると、「私自身」を追ってきているわけだが……追われる理由がわからない。

「なにも言わずに追ってくるの怖いんですけどー!」

そう言いながら、男たちを路地裏へと誘い込む。広いが周りに人気のない路地裏だ。ここなら存分に戦うことができるだろう。明確な攻撃をしてくるまでは何もしないが、攻撃をしてきたなら容赦はしないぞ。

「えっと、どなたでしょう?わ、私に何か御用でしょうか……」

現れた男たちは三人だった。サイズ的には大中小の三人がいるが全員が灰色でタキシードと長ズボンを着用し、顔は青色のスカーフで隠している。見るかぎり、呼びかけに応じる気は全くなさそうだ。三人は大小が前、中が後ろのフォーメーションを組んでいる。対人経験がないので全くわからないが、そのフォーメーションがテンプレートなのかもしれない。前の2人が腰を落として臨戦態勢を整えると、中が指を鳴らした。

「ビシッ」

その音を合図に前の2人が襲い掛かってくる。大柄な男がまっすぐ前から小柄な男は横に回りこもうとしている。流石にこんな状況だったら力は使っていいですよね、師匠。

「水よ、わが求めに答えよ」

私が使うのは得意の水魔法だ。身体をすっぽりと包む水の膜を呼び出して体にまとわせる。その瞬間、大男は私の身体へとこぶしを当てようとするが、水がこぶしの威力を軽減し私の身体に触れるころには赤子に触られるようなものだった。続けて大男を水が包み拘束する。

「水よ、叩きつけよ」

小男の方は大量の水で壁へと激突させる。ドカーン、とどでかい音がした。あとは中くらいの男一人だけだ。

「手加減はしませんよ」

更に多くの水を呼び出して警戒態勢に入る。恐らく三人の中でリーダー格はこの男のはずだ。前の2人よりも格段に強いかもしれない。相手が動いたところをいっきに叩く。そう考えながらじっと相手が動くのをまった。

「……」

脂汗が浮かんでくる。先手必勝で先に仕掛けてもよかったか。でも今動いたら隙をついかれてしまうかもしれない。私と男との間にはおよそ5m。何か飛び道具が飛んでくるか。じりじりするような緊張感が間に漂っていた。にらみ合うことおよそ五分。先に仕掛けたのはやはり相手からだった。杖をタキシードから取り出すと、私に向ける。

「ホノオヨ、ハゼロ」

初めて聞いた敵の声はまるで人間でないような声だった。何かを伝えようとする意志を感じさせず、声を「音」として出しているような感覚で不気味さを感じさせた。水と炎が反応し少しだけ爆発が起きる。

「あぶなっ!!」

水のガードが間一髪で間に合う。男は続いて地面を強くけって、私に接近した。杖はいつの間にか剣へと形が変わっていた。水で受け止めきれないと判断した私は一振り目を避ける、続けてきた二振り目を水で側面を叩きとめた。勢いのまま、体に水をぶち当てるが当たっても体は動かない。体幹がしっかりしているタイプの敵だったか。剣を一振りすると今度は剣が槍に変わった。ここでリーチが完全に不利になった。二人の男もまた起き上がりそうだから、段々と不利な状況に追い込まれているかもしれない。奥の手を使うしかないか。

「水よ、溶けこめ」

私がそう言うと水は相手の顔に一目散に向っていく。もちろん、そんなことで怯む相手ではないが水は鼻や口や目を通じて彼の体内へと侵入し、空気の入り口をふさいだ。

「……」

気道を塞いだのに、声もあげず冷静に水を取り除こうとしてくるあたり本当に生物なのだろうか。ちなみにその水は魔法でしか取れない。何もできないのに、もがくのは少し哀れである。一分後、無事相手は倒れた。

「終わり、かな」

仲間が助けに来たりなんて展開を予想していただけに拍子抜けだった。倒れてる三人は放っておいて早いところ目的地に向かおう。






「やるな!流石、禊さんのお弟子さんだ!」

とても太く元気のよいその声は、私の背後から響いてきた。仲間がいたのかもしれない。

「水の精霊よ、わが求めに答え給え」

とっさに戦闘態勢を取りながら、後ろにいるものを視認する。

「だれ?」

後ろに立っていたのは背が少し高い赤い髪の男性だった。肩幅は広く制服がはちきれんばかりに膨らんでいるのを見て体の頑強さが伝わる。武器を何も持っていないあたり、交戦の意志がないのかそれとも、こぶしで戦うタイプなのか。呼び出した水の精霊を引っ込ませることはせずに警戒は解かない。

「精霊も呼び出せるのか!素晴らしい能力だ!」

その精霊を呼び出しているというのに、何も動じずていない。先手必勝で戦うか?何もしていない相手に戦闘を仕掛けるのは気が引ける。

「私の人形もやられちゃった、結構自信作だったんだけどな」

その声が聞こえたのはまた真後ろからだった。振り向くと、大きなクマの人形を抱えた小さな女の子が人形に顔を隠しながら立っていた。金色の髪に大きな目と小さな顔が綺麗な女の子でその子自身もまさに人形のようだった。

「休んでいいよ、ベル」

彼女がしっとりとした声でそう言うと中サイズの男が彼女に引き寄せられ、次の瞬間には熊の人形に吸い込まれていった。

「傀儡使……初めて見た」

小さい男と大きい男もいつの間にか回収されていた。

「人形使い」

熊の人形に半分を顔を隠したまま少女は小さく呟く。ここではそう呼ぶのだろうか。

「君が新しく来るというクロリス君でいいのかな!」

名前を知っている?新しく来るってどういうことだ?

「……確かにクロリスですが、、、あなた達は?」

「俺はエンバー!猪と呼ばれている」

牛。確かに猪突猛進という言葉がふさわしい。実直な性格なのだろう。

「……モネ。人形使いって呼んで」

「傀儡使いだ」

「人形使い」

これも見たままだな。

「さて!自己紹介も終わったところで、これからの話をしようじゃないか、ついてきたまえ!」

赤髪の男、エンバーはそう言うと手で大きく空に何かを描きはじめた。腕が通ったそばからその空間は赤く光る。やがて、描こうとしている物が長方形だと分かる。

「顕現せよ、イデアよ」

男が手で十字を斬った瞬間、目の前の空間に分厚い木製のドアが現れた。年季が入っていて、黄色いドアノブは早くこれを開けてくれと叫んでいるようだ。拡張高い様式のドアである。躊躇いなく男はドアを開けると私を入ってこないのかというように手招きする。ドアの向こうの空間はここからは見えないらしい。話が全く見えてこないが、ついていくのが吉だと私の勘は告げている。

私がドアをくぐり、傀儡使の少女もドアをくぐったことを彼は確認するとドアを閉めた。

「ここは……どこ?」

ドアをくぐった先にあったのは巨大な図書館のようであった。天井が見えないほど長い本棚が四方八方にあり、真ん中には暖炉と金縁で彩られているソファーがある。暖炉では真っ赤な炎が轟々と燃えていて、快適な空間をここに提供していた。

「ええとー、なんでここに私は連れてこられたんでしょうか……」

「そうだ!君は何も知らないのだったな!ここはウォルフだ!君は選ばれた!これからここで働くことになる!」

この人、エンバーさんと会ってまだ間もないが、二つ分かったことがある。まず、悪い人ではない。何事も正直に話してくれる。最後に人の説明に根本的に向いていない。自分の説明で人がわかると本当に思っているのだろうか。助けを求めるように少女の方を向いたが、熊の人形に顔を隠してしまった。カモン、まともな説明ができる人。

「はー、エンバー。説明するときは相手の顔を見ながら話そうっていったでしょう。新人の子が戸惑ってるじゃない」

新しい声は本棚の上から聞こえてきた。初めて聞いた声なのに、声が聞こえた瞬間安心感を感じる暖かい声だ。声の源の方を見上げてみると、彼女はちょうど降りてくるところであった。黒い髪の彼女はここにいる人物の中で唯一不自然さを感じさせないの人のように見えた。ようやく話しが通じそうな人が来てうれしい限りだ。後ろに結んだ髪を揺らして、私の前に来て手を差し出した。

「よろしく、新人さん。改めてウォルフへようこそ。私はローラ、よろしくね」

「よろしくお願いします」

彼女の手は暖かく、人の体温をしっかりと感じさせてくれる。

「それで……エンバーはどのくらい説明したのかな?」

ほとんど何も、とその意志を表すように首を振る。まったくなにもわからない。

「はー、わかったわ。始めから説明しましょう」

しょうがないわね、といった声が聞こえてきそうなため息を彼女はした。学校の先生に似ているため息だった。

「まず、あなたは近衛兵としてここマギア王国の近衛兵として雇われた。そうよね?」

小さく頷く。村長にもそう言われているし、推薦状もそのような内容だ。

「そもそも、それが間違いなわけだけど……近衛兵としてあなたを雇ったのは建前なの。あなたが雇われたのはここ、ウォルフの方」

「建前?」

「そう。ウォルフは近衛兵や衛兵のように王国公認の組織じゃないの。だから、そのままの名前を出すわけにはいかなかった」

話がだんだんと見えてきた気がする。私が雇われたのは近衛兵ではなくよくわからないウォルフとか言う組織、その組織は政府非公認だから公式に名前を出すことができない。

「それでウォルフ自体についての説明なんだけど……難しいわね。ものすご――く簡単に言うと王族の何でも屋、かしら」

政府の何でも屋。それはつまり、

「現在の法じゃ罰せない犯罪者を罰するだとか、まあ。ときどき、時々だよ。本当にたまにだけど暗殺したりとか……」

……動物を食べるために殺したことはあるが人を殺した経験はないんですが……。

「大丈夫だよ、自分の方が相手よりだいぶ強かったら殺さずに済むから」

あくまで普通にそこら辺の道を歩いていそうな普通のローラさんからその話を聞くとくる場所を間違えたとしか言いようがない。

「あのー、ウォルフに入るのを拒否できたりは……」

その言葉を聞いた瞬間、ローラさんはガシッと私の肩をつかんだ。

「うち、給料はどこかの大臣並みにあるし、一旦仕事やってみればいいんじゃないかな?……まともそうな子が入ってくれると私もうれしいし」

職場を見渡すと後半の部分に本音が詰まっていた気がする。初めて会った二人を見た限り、とても癖が強く個性的な人たちが多いのだろう。

「わかりました、入りましょう」

「やったー!!!」

今思うと、なぜ私はこういったのかわからない。何故かわからないけど、すぐにこう言っていた。この時から、私の人生の歯車は周り出していたのだ。この先、この国の運命を決めることになるとも知らずに。









 ウォルフ組織員は王宮に一人一つ自分の部屋を持っている(らしい)ただ、『依頼をこなす』以外のことは求められていないためどこで時間を過ごすかは完全に自由である。そのため、談話室(私が入ってきた場所)で寝る組織員も大勢いるらしい。

私は机とカーテン、カーペットとベッドと小さな調度品などしか置いていないただっ広い部屋で目を覚ました。いつもの物がたくさん置いてある小さな部屋ではないことに一瞬パニックを起こしそうになったが首都に来ていたことを思い出し、センチメンタルな気分に陥る。どうにか高そうな装飾が施されたベッドから抜け出すと昨日の出来事を思い出す。まるで、夢みたいな一日だった。身支度を整えると、早速出勤の時間になったので出勤することにする。

「えーっと、まず机を反対にする」

部屋の隅に置いてある木製の机を反対にする。これまあまあ重いな。

「神像を西向きに」

この国で信教されている神様らしい。

「最後にベッドの下に飛び込む」

ベッドの下に飛び込む?慌ててベッドの下を見るとそこにはぽっかりと穴が開いていた。その穴を、下に落ちていく。

「おはよう」

外から見たら真っ暗闇のように見えたが中は談話室だった。ここがどういう仕組みになっているのかあとで詳しく説明してほしい。

「おはようございます」

ローラさんは朝早いのに前会った時と変わらぬ様子で起きていた。

「ご飯、できてるよ」

組織員の飯はいつもローラさんが作っているらしい。暖炉の前においしそうなシチューやパンがおいてあった。

「早速、クロリスちゃんに依頼が入ったよ」

朝食を食べている途中にそう言われる。

「なんでふ(す)か?」

「ある宗教団体の司教の暗殺」

「いきなりですか???」

暗殺はほとんどないのでは?

「いやー--、うん。しょうがない。時間がないから今日の夜指定ね」

しょうがないって何ですか?本当に考えてます?

「上からの命令だから、詳しいところはわからないのよ。ということで危険な任務だからね、バディを組んでもらうことになりました」

ローラさんはそう言った。あれ、依頼の拒否ってできないのかな?

「クロリスちゃんのバディはここにいるソフィちゃんです。猫って呼んであげてね」

彼女が指をさした先には、白色の髪をし眠たげな顔をした少女がソファーに寝そべっていた。

「よろしㇰ…寝ます」

そう言うと彼女は目を閉じた。また眠り始めそうだ。

「朝弱いのが弱点なのよねー」

不安なんですけど。









 

「大きい教会ですねえ」

「もちろん、この教会は王国最大の宗派シアン教の教会だからね」

ソフィさんは夜になると朝とは別人のようにびしっとした顔をしていた。目の前の教会は三つの大きな建物と池があり、ここで人を探すのは面倒くさそうだ。

「じゃあ、さっさと終わらせよう」

「え、ちょっと待ってください」

そんな私の声も聞かず彼女は、壮大で大規模な教会にずかずかと入っていく。なんでウォルフにはまともな人材がいないんだ、あそこで私は二番目に常識があるぞ。この規模の教会にもなると高そうな宗教画はもちろん、信者以外にも働いている働いている人も多かった。となるともちろん、、、

「教会に何か御用でしょうか……」

声を欠けられないわけがない。

「司教さんに用があるのですが、、、」

ここで呼び出して、殺すというのはいささか乱暴ではないだろうか。

「司教アンドレイは今、急用でここにいません。何か御用があるなら承りますが……」

黒色の正装をした司祭がここに近づいてきた。

「ふむ。情報と違いますね」

明らかに反応がおかしいので司祭が頭を傾げる。

「アンドレイ司教が天使を召喚しようとしているのは本当ですか?」

ローラさんが言っていたのは、アンドレイ司教は今夜天使を召喚しようとしている嫌疑がかかっているということだった。天使はこの世界で大きな力を持っている存在で召喚されたら王国が吹き飛びかねない。

「な、何でそれを」

司祭はその情報を聞いたら動揺し始めた。

「当たりか」

ソフィさんはそのまま礼拝堂へと進もうとする。

「「「「神よ、歯向かう者たちに罰を与えなさい」」」」

「水よ、わが求めに答えよ」

二つの詠唱が終わったのはほぼ同時だった。四人の司祭はそろった詠唱をし、直後光の光線が私とソフィさんの頭上から降ってくる。

「水よ、守れ!」

ドガガガガガガガガ!何か固いものにぶつかるような音が頭上からするが私は全くの無傷だ。横を見るとソフィさんは光の光線を避けていた。私の身体ではできそうにない、素晴らしい身体能力だな。

一分ほど経った後、光の光線が終わった。

「まず一人!!!」

ソフィさんの近くにいた司祭の一人は蹴られてそのまま壁に吹っ飛ばされる。

「水よ、拘束せよ」

私はそう唱えると水が渦巻いて。私の近くにいた司祭へと、真っ直ぐに向かって手と口を拘束する。

「むご!!」

とりあえず、二人無力化に成功した。あと二人……、あの二人はどこに行っている?

「礼拝堂に逃げ込んだ!追うよ!」

ソフィさんの怒鳴り声で呆然としていた意識が我に帰る。この先に司教がいる、と私の勘は告げていた。

「はい!」

ソフィさんの強みはおそらく強靭な体だ。森の中で鍛えた私も彼女のスピードに追い付くことはできない。途中で息が切れた貧弱な司祭一人の頭をぶん殴り、礼拝堂へと到着した。

「おやおや、招かざるお客さんの到着のようだ」

沢山の人がいる中で礼拝堂の奥に立っていたスタイルのいい男はそう嘯く。黒い正装であることはもちろんだが、五芒星が彼の胸で輝いている。彼こそがアンドレイ司祭だと、私は確信した。危険だ、今すぐ倒してしまった方がいい、私の心はそう言っている。

「水の聖霊よ、わが求めに答え給え」

最初からエンジン全開で行こう。

「ほう、あなた達は善良な市民に対してまだ何も知らないのに戦闘をするのですか。恨みも大変買っていそうだ」

「善良な?神に誓ってそう言えるんですか?」

「教会を壊しておいて、神に誓ってなんてよく言えたものです」

「天使召喚の容疑を晴らしてから言ってもらいましょうか」

その言葉を聞くと、司教は急に黙る。

「この王国、あまりにも貴族の腐敗が続いているのはあなた達ウォルフが一番ご存じのはずだ、なんたってウォルフは王族の猟犬として腐敗している貴族を秘密裏にする組織なんだからな」

「貴族を始末するために一般市民を犠牲にしてもいいと思ってるの?」

「神はいいというだろう」

ソフィさんと司教の言い争いが続いているが私は入れない。どっちも正しいように思えるのだ。今はウォルフに入っているのでもちろん、ソフィさんの味方をするのだが。

続いて、彼は私達をじっと睨みつけるとこう言う。

「これは私にとって僥倖でしかないのだが、、、あのを送ってこないあたり、ウォルフは私達を舐めているのか?」

猪?赤髪の大男の顔が頭に浮かぶ。

「っつ、ええ。私達でも十分という判断でしょう」

「残念ながら、その判断は間違っていたと言わざるを得ないがな!!!!さあ、信徒さんたちよ詠唱を開始しろ!!」

その合図で礼拝堂にいた数百人が一斉に同じ文言を唱え始めた。

「「「「「「「「「「「神よ、わが身を生贄に天使を召喚せよ」」」」」」」」」」

唱え終わった瞬間、彼らは同時に自分達の首にナイフを当て自害する。

「っつ!!!!」

「う、」

「が、、、」

身体の体幹から崩れ落ち始めた彼らを私は見ているだけしかできなかった。異様な風景に体の震えが止まらない。必ず死ななくてはいけない人だったのか?家族や友達はいなかったのだろうか?強要された?様々な考えが頭によぎる。

もし、の話だが彼ら二人が信徒のうち10人でも自らの手でとどめを刺したのなら天使は召喚されなかった可能性が高い。天使の召喚には”自死”をした人間が相当数必要なのである。しかし、現実は非常である。残念ながら、そんなことはできず彼ら二人は呆然と立ち尽くしているだけだったため、天使は召喚されることとなった。

天から降ってきた天使は、頭の上にリングを付けたところまでは想像通りだったが異様だったのは彼等は人を四百人まとめたような容貌だったということである。頭も四百体も四百。手足は八百。当然、とても大きい。顔を一つ一つ見ていくとそれは今さっき倒れた教会の職員たちに酷似していた。唯一違っていたことは浮かべているのが苦悶の表情ではなく恍惚している異様な表情を浮かべているということである。私の精神は限界だった。教会の床に胃の中に入っていた物を残らず吐き出した。

「素晴らしい!!!素晴らしいよ」

そんな中司教は天使を見つめてさっきまでの表情とは打って変わって天使に熱狂していた。

「あんたねえええええ!」

ソフィさんの堪忍袋の緒が切れて司教に遂に襲い掛かる。

「おっと、では最後の仕掛けに入るか」

神父は一転変わって神妙な表情になるとこういった。

「天使よ、私のすべてをささげるのでこの国の貴族の血脈をすべて滅ぼしたまえ」

そう言うと、聖書を大きな剣に変え自分の胸を深々と刺す。

「なにやってんのよ!」

ソフィさんはそう言って、司教に手を伸ばすがそのかい虚しく彼は笑ったままこの世から存在ごと消滅した。

天使は召喚されてから少しの間停止していたが、神父の願いを聞き入れると真っ直ぐ王宮へと向かおうとした。

「水の聖霊よ、吹き飛ばせ」

大きなクマのような容貌をした水の聖霊が天使を殴りにかかる。しかし、天使は1m動いただけだった。

「水よ、押しつぶせ」

今度は水全体で潰して、その水を押しつぶすことで天使ごと潰す。だが今回も天使のわっかが少し潰れただけだった。

「はっ!ふっ!セイヤア!!!!!」

今度はソフィさんのターン、裏拳、肘打ち、飛び蹴り。並みの相手であったら、三回死んでそうな攻撃だが天使に効いているとは言い難い。

「gmかぐkaいあじゃakienaあkt!!」

天使は何か叫んでいるか本当に何があるかわからない。

次の瞬間、上が明るいな、と思い光の柱が降ってくる。

「え?」

今から水をまとわせる、、いや間に合うわけがない。よけるだけよけて……

「危ない!!!」

ソフィさんの声が聞こえ、横から凄まじい勢いで抱きかかえられる。直後、さっきまで自分がいた場所を光が粉々にしていた。

「ありがとうございます」

「ねえ、どうにかする方法はない?このままだと私達二人死んじゃうわよ」

「実は前から考えてたのが一つだけ……」

「どうすればいいの?」

「それは……」





  私は目に見える範囲でその場にある水のすべてを操ることができる。これは大げさな表現ではなく、本当のことだ。人の血液など、水でないようなものが大半を占める場合は不可能だが、9割方水の液体だったら大丈夫だ。例えば、、、そう池でも。

「天使をどうにか、外に連れ出したわよ?これでいいの?」

「大丈夫れ(で)す」

ソフィさんには私を抱えて動き回ってもらう。天使の光を情けないことに私は自分で避けることができないからだ。

「この先は?」

「あとは池に落とします!!!」

自分から出したものではなく、もともと自然にあったものに対して魔法を使うのはすごく疲れる行為だけど、仕方ない。

「池の水よ、我の求めに答え給え」

そう呼び掛けると、一瞬で池の水の意識が私の意識に混ざった。少し濁った、冷たい水だ。水の意志は早く遠くへと行きたがっている。

「お、おい。大丈夫か?」

「は、はい。どうにか」

自分の意識をどうにか取り戻すと、私は天使をすっくと見据え水を天使の周りに竜巻のように展開させる。このまま天使を池へと引きずり落す!!!

「重い!!」

まるで山を動かすような重厚感だ。でも、動いていないわけではない。ゆっくりと、池に進んでいる。

「水の聖霊よ!!」

巨大な水の聖霊にも協力させて、何とか池へと進ませた。

「aあいがかがうrふぁvmだfるvcjdかgんjんkfkヴぁgにvjk」

「またなんか来ますよ」

「わかってる!!!」

次の瞬間、天使の元のなっている人間一人一人の元に武器が現れる。

「あー、数で勝負ってことね」

そして、私とソフィさんの元に弓矢や剣などの無数の斬撃が飛んできた。

「クロリスは水のほうに集中してて」

「はい」

ソフィさんならこのどれにも当たらずに私を守ってくれるという安心があった。

「水よ!!力を出し切れ!!!」

そう叫んで、自分に言い聞かせて天使は初めて水に足を取られた。

「いける!!!」

その隙を逃さず、水の聖霊も池へと懸命に押し込む。

「ああいおいfjがんsgjkfvかにdkvんしうあfjhんvskjtbghfvbfぢjkc」

あと一歩のところで、天使は踏みとどまる。

「落ちろー—―――!!!!!!!!!!!」

ソフィさんはそう言って、天使の頭に今度こそ会心の飛び膝蹴りをかました。そして、天使は完全に深い池へと落ちていく。どこまでも、どこまでも。










「おはよう、クロリス」

「おはようございます」

ローラさんの朝ご飯を朝7時に食べる。いつも通りの毎日だ。

「おはよう、クロリス」

「おはようございます、ソフィ」

食卓の横にはソフィとモネもいた。

「で、君達に頼みたい今日の依頼なんだけどね……」

また、新しい事件に巻き込まれるみたいだ。でも、そんな日常もいいと思えた。
















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