俺のせい!?

 オクラホマミキサーの呑気な音楽が聞こえてきた。


「私は色恋にうつつを抜かしている場合じゃないの。しかもこんなことで動揺してはいけない。もっと強くなければ、お父様にも、お母様にも認めてもらえないから」

「……」


「誰かを想って何も手につかなくなるなんて、バカみたいでしょう。絶対にあってはいけないの。なのに……」


 冬川の気持ちがわかる、とは簡単には言えない。

 大グループの後継者として、重圧があるのかもしれない。家庭でも肩の力を抜けないのかもしれない。家族と遊んだ記憶を、記録を、残したいけど失くしたい、そんなせめぎ合いもあったのかもしれない。


 全て想像に過ぎない。


 そんな彼女に、俺は言葉をかける資格があるのか?

 だが、思っているだけでは何も伝えることができない。

 だから。


「……別によくね?」

 冬川は相変わらず、俺に背を向けている。

「今失敗しないでいつ失敗するんだよ」

「……」


「言っておくが、俺は『いちご』の正体が冬川だとわかって心底ホッとした」

「!」

「どこの誰ともわからん気持ち悪いやつに、千夏が目をつけられたんじゃなかったからな」


「……どうして私のフォローなんかするの」

「もっと責めてほしいのか。お前案外マゾなのか?」

 いつもあれだけ冷たい冬川でさえマゾなら、俺はもう何も信じられないぞ。


「でも……じゃあ、冬川が俺のこと好きって話だけど」

「⁉︎」

 あえて軽薄に。気にしていないように。


「冬川の中ではいろいろ苦しかったのかもしれないけど、そんなの俺は知らんからな」

「……は⁉︎」

 思わずといったように、冬川がこちらを振り向いた。


 その目は濡れていた。


「だってそうだろ。冬川が俺のことを……好きでいてくれるのを、俺はどうすることもできない」

「金城くんは自分が天然の女たらしだと言いたいわけ? ウエディングドレスを着たとき、私を褒めたでしょう? あれなら『もしかしたら私のこと好きなのかも』と私に思わせてもしょうがなかったわ」


「いや、まああれは実際綺麗で——」

「なるほど、金城くんのせいなのね」

「俺のせい⁉︎」


「しかもあなたは、図書室で私と出会った日のことを忘れていた。私がテストで二位を取ったとき、あなたが声をかけてくれたのを私は一瞬足りとも忘れたことはないわ。毎日、ここであなたと朝勉強することを楽しみにしていた」

「あ、そこはやっぱり⁉︎」


「今、ようやくわかったわ」

 冬川が額に手を当てて俯く。


「結局私は何も悪くなかったのね。金城くんが全て悪かったんだわ」

「いやそれは違うだろ!」


「なら、どうして最初から突き放してくれなかったの? お前には興味がないとさっさといえばよかったのに。女の子なら誰にでも優しくするのね」

「いや、それも違う」


「あら? でもよく考えたら、それならどうして友達は少ないのかしら」

「うるせえよ!」


 いつの間にか、元の冬川の調子に戻っている。


「……」

「……」

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