何をするべきかわかっている

「え?」


「ずっと調停していたけど、決まったみたい」


 だが瞬間、納得がいった。


 どうして百万円必要だったのか。どうして急に俺の家に転がり込んできたのか。どうして小春の浮気企画にあんなに怒ったのか。どうして炒飯を食べながら泣いたのか。


「百万円の慰謝料を自分が稼ぐから、両親には一緒にいてほしいって約束だったみたい」

「じゃあ、カップルチャンネルをやめるっていうのは……」

「結局慰謝料は父親が払って、離婚が成立したのよ。だから百万円はいらなくなった。……ま、お金じゃ夫婦の溝は埋まらなかったってことね」


 妙におっちゃんくさい趣味を持っていたり、母親直伝の炒飯を動画に使ったりする……千夏の存在に、きっと両親は欠かせないものだったはずだ。

「……姉貴はドライだな」


「しんみり話してほしくないって、本人が言ってたから」

 それも千夏らしかった。


「あんた、彼氏になって千夏ちゃんのこと支えてあげなさいよ」

「……支えるって?」


「ショック受けてるんだから、慰めてあげなさいってこと」

「余計なお世話だろ。そんなんだから彼氏できないんだぞ」

 鼻を殴られた。


「なにすんだ⁉︎」

「千夏ちゃんがチャンネルやめるって言ったの、もう関わらないでほしいって意味だって本気で思ってる?」

「……そんなのわからない」


「そうやって自分で完結してるから、中学のときも千夏ちゃんにフラれちゃうんだよ」

 そこ、そこ……

「そこ関係ある⁉︎」


「ありあり、大ありよ。二人とも自分の気持ち言わないで、勝手に相手を思いやってるんだもん。でもそれ、ただ怖がってるだけだから。付き合ってる間、千夏ちゃんに好きって一回でも言った?」

「……」


「フラれまくってる、真野くん? の方が、よっぽど立派よ」

 姉貴まで知ってるのかよ。真野、顔広すぎ。


「聞いてます?」

「……わかってるよ」

 全部わかってる。わかっていて、わからないふりをしていただけだ。


「なら、それなりの言動を楽しみにしてるからね」

 姉貴はニヤリと笑って、ヒールをカツカツ言わせながら去っていった。


 やっぱり姉貴には、いろいろ勝てる気がしない。


 校内放送が点き、文化祭があと三十分で終わることを告げた。

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