急転直下

 きっとこのムードを、この千夏を、俺はずっと後になっても思い出すことになるのだろう。


 続々と前の組がはけていく。口の中が乾くのがわかった。


「あ。あとドレスの裾踏まないでよ」

「大丈夫だろ……たぶん」

「ただ歩いて最後にお辞儀するだけなんだから。小学生でもできるよね」

「はい」


 千夏が腕を絡ませてきた。新郎新婦の格好なんだから、当然だ。

 俺の心臓は明らかに、バクバクと音を立てていた。


「めちゃくちゃバクバク言ってるよ」

 そしてバレた。腕が当たっていてわかるらしい。


「……でも、私も」

「俺は触ってないからわかんないな。……触っていい?」

「やめて」

 冗談を言うのにも声が震えていた。


 直前の二人がはけていく。なにかファッションの解説をするアナウンスが入っていることに、今気づいた。緊張で音が全く聞こえていなかった。


「そしていよいよ、最後のコーディネートです。拍手でお迎えください!」

 そんなアナウンスと同時に、千夏が耳に口を寄せてきた。

「行こ」


 歩き出す。視界が広がる。

 舞台が眩しい。


 笑い声とも歓声ともつかない声が、舞台下から湧いた。

 半ば千夏に引きずられるようにして、中央に出る。


 じゅうたんの先に、真野が見えた。俺が渡したカメラでしっかり撮影している。もう今日の素材だけで、3日分くらいの動画になりそうだ。

そして動画のトリは間違いなくこれになる。


「……真野のやつ、ちゃんと撮影ボタン押してるかな」

 これで撮影できていなかったら、どつき回すところだ。


 だが千夏は俺の言葉には応えず、代わりに予想しなかったことを言い出した。


「私、翼に言わなきゃいけないことがあるんだ」

 つーくんではなく、翼、と。

「……?」


「今日でカップルチャンネルは終わりにしよう」

 ——そして千夏は返事を待たずに、歩き始めた。

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