いやでも意識させられる
女子の実行委員に連れられ、千夏が奥からしずしずと出てくる。
「……っ!」
周囲の雰囲気が変わるのを、肌で感じた。
髪は団子状で頭上にまとめられている。少し化粧したのだろうか、いつもより肌が白い。
そして純白のウエディングドレス! 肩が露出して鎖骨が綺麗に浮き出ている一方、二の腕にはレースがあしらわれている。胸元はやや開かれて、綺麗な谷間ができていた。
「……」
これは非常に良くない。
ガサツなイメージが霧散して、ただの見事な可愛い花嫁になってしまっている。
「……次に、どう? って俺に感想求めないでくれ」
「なんで⁉︎」
なにも答えられないからに決まっている。
「やばいっすね……」
俺の隣で一年男子くんが呟いた。
ただでさえドレスの裾が広がりスペースを取る上、この美しさときている。ここにいる人間が注目しないはずがない。
そして、向こうの側の舞台袖から冬川も見ていた。
「!」
千夏を見ていた冬川は俺と目が合うと、顔を背けて奥へ引っ込んだ。
冬川は、この千夏の姿をどう見ているのだろう。
出番を待つために、千夏が俺の隣に並んだ。
「……つーくんも似合ってるけど」
呟きが聞こえた。
「……おう」
なぜ可愛いと言えないのか。また、タイミングを逃してしまった。
「それでは、登場してもらいましょう。どうぞ!」
そしてショーが始まった。
流行りのJPOPが流れ出して、一組目の男女が舞台へ出ていった。
その後も二人ペアの何組かが、簡易的なじゅうたんが敷かれた通路を歩いていく。
「私の隣でみっともない顔しないでよね」
「みっともない顔ってなんだよ」
「あのふにゃふにゃした顔」
そう言って、また頬をびよんと伸ばす。
「……わかったから、もう俺のことは見上げないくれ」
「なんでよ」
そんな姿の千夏と見つめ合ったら、本当におかしくなってしまうから。
「やだ。ちゃんと見てよ」
ばちんと頬を手で挟まれた。
目が合う。微笑む。その一つ一つに、俺の心が抉られた。
本当はずっと前からわかっていたのかもしれない。だが俺はずっとそれをなあなあにしてきた。しかし改めて思い知らされた。思い知らされるしかなかった。
こんなドレス姿を見せられて。
俺は、まだ千夏が好きなのだ。
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