姉貴、襲来
「『かねちーチャンネル』、私もしっかりフォローしてるわよ」
姉貴に自分のカップルチャンネルについて詰問される、そんな体験をしたことがある男子高校生もそういないだろう。隠していたエロ本がバレた気分だ。
俺と千夏は、ソファでの痴態が見つかってから数分後、正座をしてソファに座る姉貴を見上げていた。
南米に旅行に行っていたらしい。肌は小麦色に焼けており、金髪は後ろでシニョンに無造作に束ねられている。元々目鼻立ちがはっきりしているせいで、ますますハーフと間違えられてもおかしくなさそう。どっかの海でサーフィンでもしてそうな雰囲気だ。
組んだ足の隙間からスカートの中身が見えそうになっても、姉貴相手には何も感じないんだよな……などと考えていると、指で額を小突かれた。
「弟。聞いてる?」
「いいえ。なんでしょうか?」
「ビジネスカップルなんてませたことするじゃん、高校生のくせに」
そしてあっさりビジネスとバレていた。
「……姉貴もわかるのかよ」
「何年あんたの姉貴やってきたと思ってんのよ。千夏ちゃんだって、翼と同じくらい長く面倒見てきたんだからね」
「……」
千夏からは、さっきまでまとっていた雰囲気が綺麗に消えている。
恥ずかしいを通り越したのか、白い顔で真っ直ぐ前を向いている。もはや意識があるのか、話を聞いているのかもよくわからない。
「千夏ちゃんが部屋を貸してほしいっていうから、何事かと思ってたけど、こういうことだったのね」
「……今日中に片付けて、家に帰ります」
「いや、いてくれていいよ! むしろ急に帰ってきた私が申し訳ないくらい」
「でも」
「カップルの邪魔をするほど私も野暮じゃないよ」
ウインク。クサい仕草も姉貴だとなぜか様になる。これが陽キャの特権かもしれない。
「しばらく私は翼の部屋に居候かなあ」
「やめろ。親父の部屋に行ってくれ」
「動画に新しい女の子を出して、彼氏に浮気疑惑? ってやれば面白いんじゃない?」
もうそれはやったのだ、小春と一緒に。
「あ、そういえばそんなの動画にしてたな。五十万再生くらいいってた」
「え、五十万再生?」
千夏が素っ頓狂な声を出した。どうやらこいつは毎日動画をチェックしていないらしい。自分の金のためにやっているのに、当事者意識がなさすぎる。
「なんか有名なザッパーが取り上げてたわよ?」
たしかに、登録者百万人弱のザッパーが俺たちについて話していた。こんなことで再生回数が伸びることもあるのだ。
「まさしく今どきの力って感じするわー、おばさんついていけない」
と大きく姉貴はあくびをした。
「でも今どきって話でいえば、気をつけることもあるからね。翼、彼氏としてそこら辺はちゃんとやってる?」
「何を?」
聞き返すと、あからさまに顔をしかめられた。
「千夏ちゃん、そういえば冷凍庫のアイスがなくなってたんだけど、どういうこと?」
わかりやすく千夏が泣きそうな顔をした。こいつ、実際姉貴相手にはこんな下手に出るやつだったのか。
「私のアイスを食べちゃいけないってのは、翼は子供のときから骨の髄までわからされてるからね。そうなると犯人は一人しかいないわけ……」
「すぐ買ってきます!」
まったく、大学生のくせに大人気ない気の利かせかただ。
千夏がすっ飛んで家を出ていったのを確認すると、思わずため息が漏れた。
「席を外してほしいなら、もうちょいマシな嘘ついたらどうだ」
「だってアイスがなくなってたのは本当だし! 楽しみにしてたんだよ? 日本のアイスって世界的にも美味しいからね!」
知らん。
「で。なんだよ、俺が気をつけることってのは」
「よかったわね、千夏ちゃんがまだ何も知らなかったみたいで」
思ったより姉貴の声は真剣だった。スマホを差し出されたので見ると、それは過去の動画のコメント欄だった。
「カップルチャンネルが批判の対象になりやすいことは、始めたときから理解してたんでしょうね?」
誹謗中傷か。
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