怒られても仕方がない

 ……そしてそれから、数分間は怒涛だった。


 金属バットを取り上げ、小春が慌ててドッキリだと打ち明けると、千夏は電池が切れたようにペタンと座り込んだ。そして次に、俺を何度も足蹴にしてきた。

 バットを持ったままだったら、俺は今頃この世にいなかっただろう。


 そして諸々の誤解が解けた後。


「あー、面白かった!」

「どこがだ!」

 小春が朗らかに伸びをしたが、これには突っ込まざるを得ない。


「どうしてすぐにネタバレしなかったんだよ!」

「だってちーちゃん、ドッキリって見破っちゃったじゃん。だからドッキリじゃないよって言って本気で不安にさせる、二重ドッキリ」

「俺も食らったわ!」


 小春はソファにごろんと横になって、ニヤニヤしながら俺を見上げた。

「よかったね、ちーちゃんがちゃんと嫉妬してくれて」


 すると、それまでソファの前で黙って座っていた千夏が急に立ち上がり、リビングを出ていった。


「……千夏、怒ってるんじゃないか」

「心配なら確かめてくれば?」

「……」


 悪いのは小春のはずだ。俺はただ一緒にドッキリを実行しただけで……。


「小春は心配じゃないのかよ」

「……翼くんって何年ちーちゃんと付き合いがあるんだっけ?」

「十七年。産まれたときからだ」

「私はたかだか一年半くらいだけど」


「……何が言いたいんだよ」

「それでも、こんなにも理解に差が出ちゃうんだね」

「だからどういうことだ」

 小春は欠伸をして立ち上がった。


「ちーちゃんとこういう関係の私だから、わかることもあるってこと」

「……」

「翼くんも、きちんと向き合ったほうがいいよ。付き合いが一年半の私に言われたくないかもしれないけどねー」

 そして小春は、さっさと家を出ていった。


「……まあ、謝るくらいはしたほうがいいのかもしれないけど」


 だが、正直千夏があそこまで動揺するとは思っていなかった。あくまで俺たちはビジネスカップルなのだから。


 そう思いながら、俺は千夏の部屋の前に着いたのだが、

「あ」

 忘れるところだった。今日の午後は、冬川と一緒にファッションショーの準備をする日なのだ。


「……おい、千夏……千夏さん?」


 返事はない。なんだか扉の隙間から、とてつもなく入ってくるなオーラを感じる。

「……これから冬川と、ファッションショーの」


「行かない」

 即答された。


「……」

「行かない」

 大事なことだから、二度言われた。

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