例の三週間のこと
「実は私たち、あ、幼馴染なんですけど、中学三年生のときに一回付き合ったんだよね」
「!」
その話をするのか。
「ね?」
「……ああ」
「でもそのときは、結局あんまり長く続きませんでした。どれくらいだっけ?」
「……三週間くらい」
「中学生のお付き合いとか、そんな感じですよね。あのときは……つーくんが告白してくれたんだよね?」
「……そうだったな」
「それで試しに付き合ってみよっか、ってなったんですけど……どうだった?」
「……べつに」
「……そう、べつに、って感じだったんだよね。あんまり面白くなかったっていうか、あれ? 男の子と付き合うのってこんな感じ? っていう」
全身が熱くなった。
……でもだめだ、今は収録中だ。
千夏だって悪気はないのだ。
本気で怒ってはいけない。明るく振る舞わなければいけない。
「幼馴染だから、昔からよく遊んで、家族みたいに思ってたからな」
「……そうそう。前から二人でよく出かけてたし、付き合っても、新しくなにすればいいんだろう? って感じだったんだよね」
「だから、結局三週間後に俺がフラれました!」
「……でも私、ずっと後悔してました。だから頑張ってつーくんと同じ高校を受験して、同じ高校に受かったら、謝って、告白しようって思って……それで、今です!」
よくそんな嘘を堂々とつけるものだ。
「結局無事、またカップルになれました」
「……」
「またここらへんの話は、他の動画で、もっとできたらって思います」
この話を終わりにしたくて、俺はまとめに入った。
「いいなって思ったら、チャンネル登録と高評価もよろしくお願いします」
「じゃあ、また次の動画でお会いしましょう」
「さよなら!」
しばらくカメラに手を振った後、俺は立ち上がってカメラを止めた。
「編集してくる」
「……翼」
なにか言いたげな千夏に背を向けて、俺は自分の部屋に向かった。
情けない。だが怒りを収めるのに少し時間がかかりそうだった。
中学三年生のとき、俺は本気で千夏に告白した。そして付き合えて嬉しかった。
だが結局、それは楽しくなかった。友達として遊んでいたそれまでの方が、よっぽど気楽だった。交際は三週間で終わった。
でもそれでも俺にとって、それは大事な過去で……。
こんなふうに、しょうもない動画のコンテンツとして消費したくなかった。
だが千夏にとって、あの時間はこんなところで発表する程度のものだったのだ。
「……はぁ」
部屋に入り、ベッドに倒れ込んだ。
こんなことで気を立てるのがいかにバカらしいか、俺だってわかっている。
だが男は、昔の恋愛をいつまでも引きずるものだ。それは有名な恋愛映画やラブコメが、ちゃんと証明している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます