小春、襲来
教室に入った瞬間、俺は男子たちのギラギラした視線に晒された。
お前いつからそんな人相悪くなった? というくらい睨んでくる奴らが何人もいた。
「ついにみんなのアイドル、千夏ちゃんが冴えない男の手に……!」
しかも味方のはずの真野があっさり裏切って、わかりやすく煽りやがった。うおおと男子たちが反応し、周りに群がってきた。
金城いつの間にとか、あんなキャラだったんかいとか、普段俺とあまり喋らないような奴も寄ってきてとにかくやんやと騒ぎ、俺は揉みに揉まれた。
もはやこいつら、この騒ぎ自体を面白がってやがる。
そして窓際では、千夏が数人の女子と一緒にこちらを見て、困ったように笑っていた。
「つーばーさーくーん!」
そしてまた面倒なのが来た!
千夏の隣にいた一人の女子——多々良小春が、ツカツカと近づいてくる。
切り揃えたおかっぱと短いスカート。顔は朝ドラのヒロインみたいに古風なくせして、格好はいっぱしのイマドキJKなのが妙にアンバランスだ。
「ちーちゃんとは、実際どこまでやっちゃってる?」
しかも発言がゲスい。
「もちろんウチらだって、二人が動画のためにちょっぴり過激なことをしてるのはわかってるよ? しかーし! 我々は二人のリアルな友人として、リアルな二人を応援しなければならないのです!」
うおおお、とまた連中が反応する。
「カメラが回っていないところで、どれだけいちゃついてるんですか!」
そんなこと言って、結局ちょっとえっちな話を聞いて面白がりたいだけだろうが!
とまあ、こうしてとにかくクラスでは、「かねちーチャンネル」の話で持ちきりになってしまった。
しかも千夏は俺より大変そうだった。質問攻めに遭って、もう疲れ切っていた。さすがは学年一の美少女だ。
だが強いて助けてやる理由もない。もちろん、ビジネスカップルだからである。
「あれ? きんつばどこ行った?」
俺への興味が薄れた頃を見計らって、真野の声を背に、ひっそりと教室を抜けて図書室へ向かった。これ以上こいつらの相手をしてもしょうがない。
ホームルーム前の図書室行きは、一年生のときから続けてきた俺の日課である。
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